特別寄稿 DAYS 「シアトルは眠らない」
路面電車の警笛が窓の外から聞こえる。階下で提供してくれてるコンプリメンタリー(無料)のコーヒーを紙コップに注いで部屋へ持ってきた。ロビーでは金髪の女の子が2人、PCを叩いて朝仕事をしてた。そういえば慌ただしくてチェックインしてから2日間ここのソファに座ってもいなかったので、さっきちょこっとだけ一面ガラス張りのダウンタウンを眺め腰掛けてみた。古いけどなかなかいいじゃないかこのホテル。
シアトルは眠らない。というより僕が時差ぼけで眠れない。
部屋に戻りブラインドを全開にすると緩い光が朝の訪れをこの部屋に伝えてくれる。狭いが角部屋でベッドがキングサイズ。ぴも以前に一緒に旅をしたCoxsackieの角部屋じゃ、広さを持て余していたので、もしかしたらふたりにはこれくらいが丁度いい。
アメリカでの旅は基本ぴとのふたりになるので、彼女の日常をパックすることから始まる。1日10個のピルとドクターの処方箋の缶フード、目薬、歯磨きブラシ、キッチンタオル、ウェットタオル、消毒液、おやつ用のトマト、スイカ、りんご、おしっこシート、ゴミ袋、毛布、薬を包むパン、ベッドなど、、、汁漏れしないようにきっちり何重にも包み、チェックインバゲージとキャリオンバゲージに振り分ける。ラウンジでも飛行機に乗る前にはきちんとうんことおしっこをさせなければいけないので。
パパは下着と靴下とTシャツ以外は替えの長袖を1着と帽子を二つ入れるくらいであとはPCとチャージャー用コード、ハンドクリームなどのアメニティーくらいだ。全然格好とか気にしないからこれでいいのいいの。
ヨーグルトやバナナやスパークリング水を買って部屋の冷蔵庫に置いて基本の生活の土台を作り、あとは朝コーヒーを階下にとりに行く。実にシンプルなホテル生活の始まりだ。いつもと変わらないけど非日常。
今回は友人のミセスFlowerと久しぶりにゆっくり過ごす日々の旅である。
「Flowerってのは、ユダヤ人がアメリカに来た時によくやったんだけど、わからないように元々の名前のFlの後ろを隠して、その代わり覚えやすいような単語にするようにowerをつけちゃってFlowerになったらしいのよ。」
苗字に対する僕からの質問に的確に答えるSakiちゃん。きっと何度も何度も聞かれたことがあるのだろう。
FlowerのファーストネームはSaki。18歳でオレゴンに留学しアメリカ生活延べ30年近くの猛者だ。NYで僕が演奏をしたライブにシアトルから来ていた時、知り合った。人って不思議なものでそれからちょくちょくやりとりしてるうちに、すっかり打ち解けた。
「そういえばLoveさんとかHopeさんとかSweetさんとかもいるけれど、もしかしたらそういうことなのかもしれないわね。」
「そうかあ、アメリカにおけるユダヤ人迫害の歴史だね。」
雨が多いシアトルで珍しく晴れの予報を察知して、僕を乗せてドライブに連れ出してくれたやさしいSakiちゃん。もちろんぴも一緒だ。坂が多く海と小高い丘や山が連なる地形の間には湖があり、ニューヨークに住む僕の目には非常にドラマチックに映る。なんだか懐かしいのは神戸と似ているからかもしれないね。
ついこの前終えてきたばかりの芦屋のコンサートをぼんやり思い出しているうちに、一行はビーチに到着。波に乗り終えたサーファーや瞑想するロン毛の男の子、子供と戯れ合うパパや静かに海を眺める老夫婦、、、。
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