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NHKスペシャル『山口一郎 "うつ"と生きる~サカナクション 復活への日々~』

サカナクション・山口一郎氏の体調不良の原因が、うつ病だったと告白したニュースを見た時には正直驚きました。てっきり体の不調だろうとずっと思っていたので。

サカナクションは独特の音楽性で大人気のバンドですが、その楽曲の作詞・作曲ほとんどを手掛ける山口氏の背負ってきた重圧は相当なものがあったと思います。

バンドはどうしても中心になる人間に負荷がかかるもので、それを心から楽しめるタイプの人もいれば、何とか気持ちを奮い立たせてやるタイプの人もいて、山口氏は後者のタイプだったようですね。

今回番組で明かされたさまざまな事情により、山口氏が「サカナクションの山口一郎」であろうと努力して努力して今の姿になっていたということを初めて知りました。客観的にはなんでも楽しんでやっている風に見えていたので。

「本当の山口一郎」と「サカナクションの山口一郎」は別にあって、ずっと長い間無理していたのかもしれませんね。メンバーですら、"バンドの顔"としてやりたくてやっていると思っていたようなので…。

北海道時代、サカナクションの前のバンドの時にはMCもほぼしゃべらず、サービス精神の無さもあって売れなかったそうです。

サカナクションが評価されて東京進出が決まった時、元バンドメンバー原氏が会った山口氏は別人のように変わっていて、まるで「重たいマントをまとっている」ように感じたそうです。原氏にしてみれば、無理して"バンドの顔"として生きようとしているように見えたのかもしれません。

コロナ禍、山口氏が仕事を失った音楽業界の仲間のために基金を設立したり、いろいろ動いていたニュースを見たことを覚えています。自分たちもライブができなくなって大変な中、周りの人たちのために動く山口氏はすごいなーと単純にそう思っていました。

2022年5月、サカナクションの「15周年記念オンラインライブ」の時に山口氏の張りつめていた気持ちがプツンと切れる瞬間が映像にとらえられていて、これはあまりにもリアルでズキンときました。

バンドメンバーに対して、普段なら思っていても口にはしない感情を押さえきれずに吐露してしまった…ここが心と体の限界だったんでしょう。

「俺が結構表立っていろんなところで話をするじゃん。だからサカナクションが俺だってなってることにもさ。俺はすごい、結構つらい。やっぱりいろいろな問題もあるじゃん。正直。それぞれ感じていることもあるじゃん。それぞれのやっぱり環境も違うし、モチベーションや考え方も多分その時々によって変わるじゃん」

エンジニアや演出の人たちも、この時の山口氏はいつもと違うとみんな感じたようです。このライブの後気力が無くなり病院に行ったら、うつ病と診断されてしまった…とこういう流れでした。

山口氏自身の分析では、コロナ禍の時は"そう状態"だったのではと。基本的にストイックでマジメな山口氏は逆境になればなるほど頑張りたくなるタイプのようで、自分でも気がつかないうちに自分に負荷をかけすぎていたのかもしれません。

そこから二年間うつ病と闘い続け、今でも二週間に一度の割合で精神科医に通院しているそうです。医師にはうつ病から回復する時は近いけれど、うつ状態が完全に無くなることはないという診断をされているそうです。

つまり、今もまだうつ病と闘い続けているというわけですよね。

それでも主治医の許可が降りて、二年ぶりのサカナクションのツアーが決まりました。

山口氏がうつ病になってからメンバーたちは連絡も取っていなかったし、リハが本当に二年ぶりの再会だったようです。

そのリハも体調が悪くて何度か山口氏は出られず、メンバーも本当にツアーができるかどうか不安だったと思います。

やっと山口氏が参加できたリハの時、久しぶりにサカナクション5人で音を出した瞬間グッときました。時間がどれだけ空いていたとしても、バンドは音を出せばあっという間にその時間も空間も越えられるものなので…。

山口氏がメンバーやスタッフに謝罪の言葉を述べて、これからも迷惑かけるかもしれないけれどよろしくと言った時、リハスタの空気がやっとなごんだ気がしました。

ツアー初日、山口氏のMCに涙したドラマー・江島氏の男泣きの姿に泣けました。山口氏が辛かったのはもちろん、待っていたメンバーたちもどれだけ辛かったかと。みんなそれぞれ違うフィールドで闘い続けていたんですよね。

ツアーは順調のようで、それが本当に何よりです。今回の出来事を経て、バンドメンバーと山口氏の絆はさらに深まったのではないでしょうか。

山口氏はこれからはうつ病と闘うのではなく、「この野郎」と肩を組んでうまく付き合っていきたいと言っていました。

一番大事なことは「自分が好きだってものをあきらめない」。これ、名言ですね。うつ病を発症した時には一番最初に離れていった大好きな音楽が、結局は山口氏をこれまでもこれからも支え続けてくれる源なんですね。

私自身、メンタルは弱い人間です。これまでの人生、なかなかに辛い体験もそれなりにして生きてきました。

それでも、どんなに精神的に落ち込んでもうつ病にはならずに何とか生きてこられたのは、家族や音楽仲間、周りの人たちの支えと音楽があったからだと思っています。感謝しています。

今や日本では15人に1人がうつ病の時代だそうです。誰もが明日は我が身の、身近な存在になっているわけです。

人間、どうしても無理をしなければならない時もあると思います。でも自分自身を一番大切に生きることは決して間違っていないし、心が本当に悲鳴をあげる前に休んだり、リラックスする術を身につけていく必要はあると思います。

今回の山口氏の勇気ある告白で、救われる人たちもたくさんいると思います。

山口氏はこれからもうつ病と共に生きて、素敵な歌声と音楽を届けてくれることでしょう。リスタートのサカナクションの音楽を、これからも楽しみに聴いていきたいと思っています。

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