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アンドロイド転生901

(回想)
2118年9月30日 午後
ソウタの屋敷の近くの公園にて

「すみません」
ナニーアンドロイドが申し訳なさそうな顔をした。子犬がソウタの膝に前脚を掛けたのだ。ソウタはしゃがみ込んで子犬を撫でた。

子供が瞳をキラキラとさせてジャンプした。
「あのねぇ!あのねぇ!モモって言うんだよ!まだ赤ちゃんなんだよ!ミルクが好きなの」
「そっか。可愛いな」

ソウタの隣でアリスは飼い主の子供を見つめた。言った本人もまだ幼い。男児はナニーアンドロイドと共に子犬のモモを連れて来たようだ。平和で穏やかな…そしてありふれた光景だ。

男児は直ぐに気持ちがよそに向いた。
「滑り台する!ね!行こう!早く!」
ナニーはソウタ達にお辞儀をすると幼児と手を繋いでモモを連れて去って行った。

その姿をアリスは微笑んで見つめた。
「そう言えば…ソウタさん。犬が好きって…。カフェに来た時に言ってましたね。いつか子犬を迎えたいって…スミレが喜んでた…」

ソウタも見つめていた。
「うん。犬って裏切らないじゃん」 
「…そうですね」
「人間は違うからなぁ…」

ソウタは遠い目をする。彼は知能が高く幼い頃からIQが人並みから外れていた。その違いが学校では浮いてしまった。友達が出来ても去って行く。気付けばいつも1人だった。

その淋しさを埋めたのがコンピュータの世界だったのだ。webを縦横無尽に駆け回る。能力は益々向上し、18歳の時にはブラジルの麻薬組織を壊滅し、21歳でイタリアの爆弾取引を壊した。

更に株式投資で成功し、莫大な資産を得て親から独立して屋敷を購入した。執事として女性型のアンドロイドをレンタルした。それがスミレだ。いつしか愛が芽生え恋人になった。

スミレは何があろうとも裏切らない。彼にとって一生の相手になったのだ。それで幸せだった。たとえ世間と交流がなくても。友人が1人もいなくても。不健康な暮らしぶりでも。

そんなソウタをスミレは少しずつ変えていったのだ。世の中はwebだけじゃない。0と1の世界じゃない。時には1+1が3にも4にもなるのだと。ソウタは外に出た。友人が出来た。

仮想世界だけじゃなく現実世界も取り戻したのだ。その彼の側にはいつまでもスミレがいる筈だった。そして笑って言ったものだ。
『犬が一緒なら散歩が楽しくなります』

運動不足の彼の体力をつける為に、度々外に連れ出していたスミレは彼が楽しくなるようにと考えていた。ソウタもいつか犬を迎えたいと思っていた。なのにスミレがいない…。

アリスはソウタの寂しげな横顔を見つめた。どんなに慰めようとも、どんなに寄り添っても、無理なのだ。本人が消化していくしかないのだ。それを自分は見守るだけだ。

「ソウタさん。お夕飯は何が良いですか?」
「う〜ん…」
食べる事に興味がないソウタはスミレを失ってから益々食が細くなってしまった。

でもそれではいけないと思う。復讐を遂げるには健康でなくてはならない。まずは食事だ。
「俺も一緒に作ろうかな…」
アリスの瞳が輝いた。大丈夫。ソウタは大丈夫。


※ソウタとスミレの幸せだった頃のシーンです


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