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アンドロイド転生889

2119年10月1日 早朝
都筑山:山中

山岳部に入部したルイは5人の仲間と共にリュックを背負って山道を登っていた。天気は快晴。空気は澄んでおり爽やかだ。樹木は赤や黄に染まり美しい彩りを魅せている。

ルイは足元を踏み締めてしっかりと歩いた。ふと気付く。赤いキノコが目に入った。目を凝らす。あ、あれは…!しゃがみ込んでじっくりと観察した。これは!ヒメアカネダケだ!

近くに目を移すと密生していた。ルイはひとつ手折った。それに気が付いた部長が目を剥いた
「ダメだ!触るな!毒キノコだぞ!」
部員は驚いて立ち止まると恐怖の声を上げた。

ルイは白い歯を見せて笑った。
「違います。真っ赤でそう見える感じだけど…醤油焼きがめちゃくちゃ旨いんです。希少でなかなか見ません。だから凄いラッキー」

部長は恐る恐るルイの手のキノコを見つめた。
「ほ、ホントか?」
「はい。僕はキノコには自信があります。キノコは4000種類あるけど全部知ってます」

仲間達はえーっと目を丸くしたものの直ぐに思い直す。いや。そうかもしれない。ルイなら。天才の彼ならば。ルイは入学テストで全ての科目で満点を取ったそうだ。

教師アンドロイドに勧められてメンサ(IQ130以上の知能者からなる、世界最大の高IQ団体)を受験し合格したと噂になったのだ。ルイは外見も特異だが知能も特別だった。

ルイは瞳をキラキラとさせた。
「部長。このキノコ…採ってもイイですか。家族に食べたさせたいんです」
「あ、うん」

部長は頷いた。この山は採取が許可されているのだ。ルイは大喜びで採り始めた。部長はリングを立ち上げてキノコをフォトで撮り検索した
「ホントだ…ヒメアカネダケって書いてる…」

ルイは笑った。
「キノコの生き残り作戦かも。毒々しく見せて捕食されないように自分を守ってるんですね」
部員達はなるほどと頷いて彼らも採り始めた。

大量の成果に全員が満足した。山頂に到着すると弁当を食べて下山した。ルイは清々しい気持ちだった。でも…と笑いたくなる。都会で暮らし始めたのに、また山かと。

帰宅して執事にキノコを渡す。メイドアンドロイドが繁々と眺めた。ルイは笑った。
「検索すれば分かるけど毒キノコじゃないよ。醤油焼きがオススメだよ」

義妹で10歳のマリコがやって来た。チョコがたっぷりとついたクッキーを缶ごと持っている
「マルコ!また太るぞ」
「煩い」

マリコはルイの言葉に負けることはない。丸々としてるからマルコと呼ばれるのだがそんな事は平気だ。身体も太いが心も太っ腹なのだ。マリコは真っ赤なキノコに眉を顰めた。

「何これ。毒キノコじゃん」
「そうかもな。マルコなんて呆気なく死ぬぞ。だから俺だけ食う」
メイドが試しに醤油焼きを作った。

香ばしい香りが食欲をそそる。
「私も食べたい」
「じゃあ。クッキーをやめろ」
マリコは少し考えてクッキーを缶にしまった。


※山の名称とキノコの名前は架空です

※ルイとマリコの初めてのシーンです


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