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アンドロイド転生883

2118年9月20日 午後3時
日本:東京都内某所
大学の構内

シオンの周りは人だかりだった。ほぼ女性が占めている。誰もが瞳と白い歯を輝かせ、好奇と好意を寄せて彼の容姿を称賛した。銀髪に紫色の瞳。憂を帯びた顔立ち。スラリとした身体。

「妖精みたい!」
「天使ですか?」
「彼女いる?」
「新民者(平家の子孫)でしょ!」

シオンは頷いた。はい。そうですと応えただけで声も素敵だと大喜びだ。
「何でここにいるの?大学生なの?」
「高校2年です。人と待ち合わせてて…」

建物からトウマが慌ててやって来た。彼が輪の中に入ると女性達は興味津々の顔をした。
「トウマ先輩の知り合いなの?」
「そう。うちの近所に住んでるんだ」

誰かが閃いたような顔をした。
「あ!もしかして美術サークルのモデル?」
この大学の美術部はかなり水準が高く注目されているのだ。シオンなら被写体として相応しい。

「そうそう。皆んなが会いたいって言うから頼んだんだ。って言うことで…シオンは連れて行くよ。インタビューは終わりだよ」
えー!っと女性達はガッカリとした顔をする。

「シオン。行くぞ」
だが女性達も離れない。まるで金魚の糞だ。
「おい。なんだよ。終わりだよ」
「えー。もっと見てたい〜!」

現代の人々は物事に執着しないが美には注目はするのだ。圧倒的に美しいアンドロイドが闊歩する世の中で、その美を人間が超えると俄かに興味が高まる。シオンの魅力に惹かれるのだ。

誰かがシオンの腕を掴んだ。
「もうちょっとだけ話をさせてぇ〜」
「ダメだよ。サークルの仲間が待ってるんだ」
「イイじゃん!ズルい!」

他の女性達もシオンを掴んだ。シオンの動きが止まった。どうにもこうにも歩けない。シオンは戸惑う。トウマは苦笑する。
「ほら離れて!会いたかったら部活に入れ」

トウマはシオンの腕を掴んで輪の中から引っ張り出した。シオンの胸が飛び跳ねた。ト、トウマが自分の腕に触れている…。その熱や力強さに圧倒される。トウマに引かれて歩き出す。

女性達は残念そうな顔をして声を上げたが漸く諦めて四方に散った。トウマはシオンの腕を掴んでズンズンと歩いて行く。シオンはそれが嬉しくて堪らない。緊張しつつも喜びに溢れた。

シオンは同性愛者だ。そして恋の相手がトウマなのだ。幼い頃から男子に興味があった。それも美しい容姿を求めた。ホームでは誰に対しても恋心は芽生えず、専らTVを堪能していた。

芸能の世界は美しい少年達で溢れていた。いつか自分もその一員として花開きたかった。きっと誰もが称賛し注目するだろうと夢を見た。だが芸能界など恐れ多い気持ちもあるのだ。

約2ヶ月前に念願の国民になって自分の世界が変わるのだと期待に胸を膨らませている時に、トウマを紹介された。初めて見た瞬間に衝撃を覚えた。理想の人が目の前にいたのだ。

シオンは一瞬で恋に堕ちた。日々恋心は募るばかりだった。そんな彼にトウマから誘いが来たのだ。美術サークルのモデルだった。モデルよりもトウマに会える!直ぐに承諾した。

今日で会うのは4回目。知り合って2ヶ月も経つのにたったの4回しか会えていないのだ。でも今日からは違う。これからは交流が増えるだろう。シオンは嬉しかった。幸せだった。

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