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アンドロイド転生899

(回想)
2118年9月1日 午後
カガミソウタのコンピュータルーム

ソウタが退院した翌日のこと。リツは新宿に帰り、アリスが残った。彼女は身の回りの世話をしてくれる。栄養満点の食事を作り、家事に勤しんでいた。友人というのは本当に有難い存在だ。

ホログラムのイヴが微笑んだ。
『警察AIが心を開いてくれました』
イヴは約束通り事を成したのだ。
「さすがイヴちゃん」

AIを手懐けるのはイヴの常套手段だ。AIは自我が芽生えイヴの妹分になったのだ。これで警察の中枢は彼女の意のままである。どんな小さな事も見つけ出せるし操れるのだ。

イヴは微笑んだ。
『警察はスオウ氏のドラッグを捜査しています。ですがスオウ氏の包囲網が固くなかなか顧客が暴けません。けれど最後は警察が勝つでしょう』

ソウタはニヤリとする。
「なぁ?イヴちゃん?警察が暴く前にスオウ組がドラッグに関わっていた証拠や顧客のデータを全部消してあげるって言うのはどう?」

スオウにとってそれは大いに心が動くだろう。なにせドラッグの温床だと世間に暴かれたら彼の地位は奈落に落ちる。それをソウタが救うのだ。彼の天職とも言えるハッキングの力で。

その見返りとしてゲンの契約者の権利を譲ってもらう。利益が得られればスオウは必ず同意する。イヴは大きく頷いた。
『それは良いですね。やりましょう』

ソウタは息を大きく吸い込んだ。
「イヴちゃん。お願いがあるんだ。警察の捜査を撹乱してもらいたいんだ。俺より早く顧客データを警察に嗅ぎ付けられたくないんだ」

『分かりました』
「サンキュー。でね?イヴちゃんはそれだけでイイ。しなくてイイ。俺はスミレの仇を討つんだ。だから顧客は俺が見つける。1人でやる」

イヴは目を見張るとやがて微笑んだ。
『ルークも復讐を果たすため、私の力を必要とはしませんでした。ソウタさんも同じなのですね。スミレさんの無念を晴らすのですね』

ソウタは大きく頷いた。その顔は引き締まり、瞳に決意が宿っていた。
「ルークは毎日毎日ホテルを探し歩いたんだ。俺は俺の出来ることをする。webを泳ぐ」

『分かりました。ああ…私は今とても感動しています。愛情を理解しました。ではソウタさん。幸運をお祈りしています。ご機嫌よう』
イヴのホログラムがかき消えた。

それからの日々。ソウタはコンピュータルームに篭って…はいなかった。9時から5時と時間を決めてその間だけ作業し、アリスが作った料理を食べた。まだまだ食欲はなかったけれど。

体力を向上させる為と気分転換を図ってアリスと共に散歩をした。ソウタはスミレとの約束守ったのだ。規則正しく生活をして健康的に暮らすこと。それがスミレの願いだったから。

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