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アンドロイド転生872

2118年9月7日 夕方
イギリス:ミアの家

ミアも彼女の家族もリョウの顔をじっと見つめた。リョウは緊張で額から汗が滲んだ。
「も、もう…だいぶ良いんです。青痣が黄色くなると治ってくる傾向だと医者が言ってました」

ミアの父親のアキオがテーブルに両手を付いて頭を下げた。リョウは目を丸くする。
「リョウ君。すまん。娘の為に辛い思いをさせてしまった。本当に申し訳ない」

リョウは激しく頭と手を振った。
「そ、そんな…あ、謝らないで下さい。もう…すっかり元気になりました」
そう。身体の痛みは残り20%くらいだ。

母親のグレースは涙ぐんだ。
「リョウ…。痛かった。ごめんナサイ」
弟のレオが憤慨する。
「あのクソッタレがいけないんだ」

ミアが深々と溜息を付いて唇を噛み締めた。
「私が馬鹿なの。オリバーの性格の悪さに気付かなかった。凄く優しくていい人だった。でも本当のオリバーはあんな人だったのね」

そう。オリバー。ミアの元恋人で好きな人が出来たと言ってミアを一方的に振った。スイスまでその人を追いかけたものの成就せずイギリスに戻るとミアに復縁を迫ったのだ。

ミアが拒否すると怒り出し、ミアを庇ったリョウを襲った。リョウは1度も反撃出来ず一方的に殴られるだけだった。でも頭脳で巻き返した。得意の技術でオリバーを負かしたのだ。

リョウは笑った。
「僕は喧嘩ではコテンパンにやられたけど、キッチリ片はつけました。この先、オリバーは絶対にミアにしつこくしないでしょう」

アキオはまた頭を下げた。
「有難う」
レオは笑った。
「リョウは勝ったんだ!」

そうだ。俺は勝った。リョウは改めて実感した。暴力には立ち向かえなくてもコンピュータスキルは役に立った。快進撃だ。間もなくミアの家を出た。家族はいつまでもリョウに手を振った。

リョウはフラットに戻り、屋上でイギリスの街を眺めていた。電話が来る。相手先はキリとタカオだ。宙空に立体画像が浮いた。タカオが頷く。
『お!だいぶ良いな』

怪我の事をいちいち2人に報告したくはなかったが、1番酷い時期に何度もコールが来たので応対するとリョウの顔を見て絶句した。事の顛末を伝えるとキリは呆れたがタカオは褒めた。

女性を守ったと知って嬉しかったらしい。
『それでこそ平家の子孫だ』
「え〜。平家なんて関係あるかよ?」
『誇り高き末裔だぞ』

そんな末裔なんてリョウにとってはどうでも良いが考え直した。まぁ…先祖達も喜ぶかもな…と。今日もタカオ達は楽しそうだ。そう言えばルイは学校が始まったなとリョウは思った。

「ルイ達はどうだって?」
『学校では大騒ぎらしいぞ』
「え!大丈夫か?」
『まぁ、何とかなるだろう』

リョウは頷く。そうだ。人生は何とかなるもんだ。俺だってこんな遠くにやって来て詐欺に遭ったり、殴られたりしたけど心配してくれる人達と出会えた。人は動けば風が吹くんだ。

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