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アンドロイド転生880

2118年9月14日 午後
イギリス:ハスミ邸の近くの公園
(訪問74日目)

エマはリョウに家に通うのは今日で終わりで良いと告げた。親はリョウと自分の仲を勘違いしている。結ばれて欲しいと思っている。だが自分にとってそれは本意ではない。

エマは空を見上げた。
「ねぇ?タケルさんは…元人間だって知ってる?生まれ変わったって…知ってる?」
「はい」

「タケルさんが…マシンだとか人間だとか…関係なく…私は好きになったんだけど…でもちょっぴり…思うの。もし人間だったら…親達は認めてくれたのかな…って。だったら良かったかも…って」

リョウはエマの横顔を見つめた。遠い目をしている。2度と会えない誰かを想う眼差しだ。
「あなたにタケルさんとの仲を壊されたって言ったけど…違う。遅かれ早かれ親が壊した」

エマはリョウを見て微笑んだ。
「もう誰のせいにもしない。私がした事が返ってきただけ。タケルさんともいつか終わってた。だからもういいの。全てクリアだよ」

「エマさん…」
リョウは自分が恥ずかしかった。片想いの女性の入浴姿を盗撮したのだ。それがアンドロイドに暴かれた。それをネタに脅された。

自己保身の為にエマを陥れた。最低な事をした。それなのにエマは全て消化したのだ。
「僕は…本当に酷い事をしました。人間として最低です。申し訳ありません」

エマは笑った。
「もういいよ。謝らなくて。充分に伝わったから。遥々イギリスまで来たし、今日まで毎日通うという約束を守った。それだけで嬉しいよ」

「あ、有難う御座います」
エマは微笑むとまた空を見上げた。
「空って綺麗ね。緑って素敵ね。生きるって素晴らしいね。死ななくて良かった…」

リョウは大きく何度も何度も頷いた。本当に本当に生きていて良かった。彼女が死んでしまったらどうしていただろう。自己嫌悪に陥って生きていけなかったかもしれない。

エマはリョウを見て微笑んだ。
「私。またピアノを弾くよ。ピアニストだもん。仕事をしてお金を頂いてちゃんと生きていく。これからうんと楽しむね」

エマは気がついた顔をした。
「あ。そうだ。リョウさんの仕事を聞いた事がなかった。何をしていたの?」
「僕は…コンピュータがそこそこ得意で…」

エマは悪戯っぽく笑った。
「ああ!そうだね!だから私の乱行パーティを流出させたんだもんね。よく探したなぁ」
「す、すみません…」

彼女は手をヒラヒラとさせた。
「あ。違う違う。怒ってないよ。じゃあ…その技術を今度は誰かの役に立ててね」
「は、はい」

リョウは気が付いた。そうだ。役に立てるんだ。人の為にこの技術を使おう。閉鎖的な村で細々と使っていた能力だけど、世間に貢献したくなった。彼は自分の道が見つかったのだ。

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