またお前かアメオ_2 たぶん結婚式には使わない方が良い「SAY YES」

ASKAさんの作詞曲についての文です。
細かい前口上とか背景とかは第1回に書きましたのでそちらを何卒。

簡単におさらいすると、

・ASKAさんの歌詞は1番で王道のラブソングのように見せておきながら、2番でブッ込んで、最後でひっくり返して「実は不倫の歌でした」と種明かしする構造のものが多いよ
・「雨」「星」などのキーワードが入ってくる歌はまずそれだと見て間違いないよ
・こういう不倫の歌の主人公を暫定的に「アメオ」と呼びます

ということです。

前回は
「はじまりはいつも雨」
を取り上げました。
2番のブッ込み、そして最後の大どんでん返し、見事でしたね。
主人公のアメオさん
「旦那さんよりイイかい?」
なんて結構鬼畜なこと言ってました。

それで、今回は
「SAY YES」
です。

「SAY YES」
1991年リリース
作詞 作曲 飛鳥涼
歌 CHAGE and ASKA
(以下””内は全て同曲歌詞からの引用)

えっ?
あれってプロポーズの歌じゃないの?
と思いきや。思いきやなんです。

ここからは歌詞カード片手にどうぞ。

まず1番。

”余計な物など無いよね
すべてが君と僕との愛の構えさ
少しくらいの嘘やワガママも
まるで僕を試すような恋人のフレイズになる
このままふたりで夢をそろえて何げなく暮らさないか
愛には愛で感じ合おうよ
硝子ケースに並ばないように
何度も言うよ 残さず言うよ
君があふれてる”

1番は暗唱できる方も多いのではないでしょうか。
なにしろこの曲のテラヒットぶりは凄まじく、当時は1年間1秒も途切れることなく日本のどこかで流れ続けていたんじゃないかってぐらい至る所でかかりまくっていましたので。

その1番ですが、前回書いた「はじまりはいつも雨」と同じく、巧妙に、容疑のかからないようなつくりになっています。
「101回めのプロポーズ」というドラマの主題歌でしたが、オーダー通り、きちんと似つかわしい感じ。
“夢をそろえて何げなく暮らさないか”
なんて、プロポーズっぽいですよね。

しかしまたもや2番でブッ込んできます。

"言葉は心を越えない
とても伝えたがるけど心に勝てない"

ここまでは大丈夫。
(ただ、この「言葉」というのは実はキーワードの1つです。これを「ブッ込みの2番」の冒頭に持ってきているあたり、意図的なものを感じます)

次。

"君に逢いたくて逢えなくて寂しい夜"

…おや!?
せいいえすの ようすが…!

まず「逢う」って字は前回の不倫ソング「はじまりはいつも雨」でも使われていました。
そして "逢いたくて逢えなくて" って言い回し、プロポーズに至るような、幸せな恋愛の歌としては少し不自然だと思いませんか。
「普通に仕事の都合とかで会えないこともあるじゃん」
って軽く流したいところですけど、書いてるのASKAさんですよ。そんな普通なこと書くわけないんですよ。
ここは
「何かよっぽどな事情があって自由に逢えない」
って捉えるべきだと思うんです。

んで。

"星の屋根に守られて恋人の切なさ知った"

出た。「星」。
不倫ソングのキーワードです。
「はじまりはいつも雨」では「星=世間」でした。同じように当てはめると、バッチリ意味が通るんです。

「世間の壁に阻まれて逢いたくても自由に逢えないさびしい切ない」

そう。
はじ雨(勝手に略してすみません)と同じです。
不倫の歌なんです。
こいつアメオです。

正体を現したアメオは畳み掛けてきます。

"このままふたりで
朝を迎えていつまでも暮らさないか"

歌の中のポジションから言っても曲のテンションから言っても、普通の恋人同士のお泊まりデートじゃないんだなってのはわかると思います。
だって2番のサビ前ですよ。ものすごい盛り上がりどころなんですよここ。
つまりこの場面、このままふたりで朝を迎えるってのは大変なことなんです。
迎えちゃいけないものを迎えないかって誘ってるんです。
なぜ迎えちゃいけないかって言うと家庭があるからです。
そうだなアメオ。

アメオは止まりません。

"何度も言うよ 君は確かに僕を愛してる
迷わずに SAY YES 迷わずに"

ここでやっとタイトルの「SAY YES」が出てくるんですけど、はじ雨の
"ふたり 星をよけて"
と同じく、ここもまたすごいところです。

この歌のイメージから言って「SAY YES」って言葉、普通
「結婚してください!SAY YES!」
って流れで使われると思うじゃないですか。プロポーズの返事を乞う言葉として。
そうじゃないんですよ。

「オマエ(配偶者いるくせに)絶対俺のこと愛してるだろ。はいって言え。迷うな」

って言ってんですよ。
もうこれ完全に普通の恋愛じゃないんです。
「僕は君を愛してる」
ならわかるけど、逆ですからね。

タイトルにまでなっている
「SAY YES」
をこういう使い方するってことは
「俺はプロポーズソングじゃねぇ」
と高らかに宣言しているようなものです。

それを踏まえて1番から見直してみます。

”余計な

…”

うーん…と…

…もうこれ1個1個見直す必要ないんじゃないかなって思います。
だってこれ、全編にわたって

「アメオさんがベッドの中で不倫相手に囁いているセリフ」

ですもの。
そうですよこれ完全に。

はい。
というわけで。

ドラマ「101回目のプロポーズ」の主題歌で、
1番ではプロポーズの歌っぽい装いをして、
2番でブッ込んで、
大サビの「SAY YES」でひっくり返して、
見直してみたら全編不倫男・アメオのセリフでした

ってこれ完全に狙ってるでしょ。
これをプロポーズソングだと思った数多の人々は、みんな盛大に一杯食わされてたんです。

「そんなヒネくれた作り方するかなぁ」
と思う方に豆知識をひとつ。

「10年の複雑 -PRIDE- <上・下>」
(1992年刊 角川文庫)
という本で自ら明かしていますが、ASKAさんは、ジャニーズ事務所に楽曲を提供していた時にこんなことしています。

・光GENJIに提供した「ガラスの十代」を気に入った故ジャニー喜多川さんから「YOUこういうマイナー系の曲もっと頂戴」と頼まれた際、ど真ん中メジャーな「パラダイス銀河」を提供
・CHAGE and ASKAの「モーニングムーン」を気に入った少年隊の東山紀之さんから「こういうシャウトする曲少年隊にもください」と頼まれた際、ど真ん中バラードな「ふたり」を提供

この辺りがヒットメーカーとしての独特の感覚なのでしょうが、敢えてこういう裏をかくような一手を打ってくるんですよASKAさんという方は。

なので「SAY YES」も、ドラマのタイアップを持ちかけられた時に
「よし、プロポーズソングと思わせてからの不倫ソングにしちゃおう」
って企てたんだと思います。
結果は、超がつく大成功。
「SAY YES」は社会現象と言われるぐらいのヒットを博し、90年代の CHAGE and ASKA 無双が幕を開けるわけです。

でも面白いのは「実は不倫ソング」っていうのが表立ってバレないまま成功したところです。
「SAY YES」のヒットについては、本人たちもちょっと面食らってる感じなんですよね。

恐らく「SAY YES」に仕組まれた複雑な仕掛けが、人々の潜在意識に作用して、予想外の化学反応を起こしたんじゃないかと思います。自分で書いてて何言ってるかわからないですが、要は「よくわかんないけど何か仕組まれてる感じ」が受けたんだと思います。
ドラマ主演の武田鉄矢さんが
「なんでこんなにわかりにくい歌がここまでヒットしたのかわからない」
という趣旨のコメントをしていましたが、武田さんはちゃんとこの歌に仕組まれた意図的な違和感をキャッチしていたのでしょう。さすがの慧眼です。

ということで、今回はこの辺で。

次回まで、ごきげんよう。

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