【基礎用語解説】半導体製造で使用する水の量
半導体製造プロセスにおいては、各プロセスの間に洗浄・乾燥が行われているため、洗浄に使用するための「水」が大量に必要になります。正確に言えば、イオンなどの電解質をさらに取り除いた「純水」が大量に必要になります。
ここで、「大量」とはどの程度を表すのでしょうか?
当然、工場の規模によるのですが、できるだけ表に出てきているデータを使って定量的に説明したいと思います。
まずはマクロなデータから示したいと思います。以下の図は、半導体チップ製造において使用された水の量の年間推移です。
右縦軸が各企業の使用した水の量です。単位が大きすぎてよくわからないと思いますので、ここではひとまずは定性的に捉えて頂くのがよいかと思います。世界一の半導体ファブであるTSMCの水使用量が年々増加しているのが見て取れますね。
世界の半導体生産の60%はTSMCが占めていますので、ここではTSMCに焦点をあててミクロなデータを見ていきたいと思います。
TSMCのAlliance for Water Stewardship (AWS) Reportを確認すると、2022年には合計で2億1,500万トンもの水を使用したとの記載があります(Sustainable water balanceの項目)。
令和4年度に東京都において使用された水の量は一日平均で406万トンとのことです。ここに365を掛けると、東京都が一年間に使用した水の量は14億839万トンになります。
つまり、TSMC一企業だけで東京都で年間に使用される水の15%程度を使用したことになります。東京都には1400万人の人々が暮らしており、28万社以上の企業があることを考えると、これは驚くべき水の使用量です。
もっとミクロに見てみましょう。
TSMCは熊本県菊陽町に設ける工場で、1日約1万2000立方メートルの地下水を採取し、半導体の洗浄工程などに使う方針だそうです。
さて、この一日の使用量を賄うだけの地下水が熊本にあるのでしょうか?
答えはYesです。
熊本県によると、熊本市や菊陽町など「熊本地域」の2021年度の地下水採取量は1億6176万立方メートルで、TSMCが使用する量は十分に確保できています。井戸の水量も維持されていることが確認できたそうです。
これだけ水が豊富な理由については熊本大の嶋田純・名誉教授(地下水水文学)によると、”熊本市や菊陽町などの地下は阿蘇山の火山活動などで地下水がたまりやすい地層となっており、推計で琵琶湖の約1・6倍の貯水量がある”のだそうです。
この豊富な水の量が文字通りTSMCを呼び込むための、「呼び水」になったわけですね。
したがって、半導体産業は大量の水を使用することと今回のTSMCの進出によって水が枯渇するような事態にはならないことが分かりました。
それでも、Sustainabilityの観点から節水はとても重要なので、各社が努力しているところです。実際に、上述のTSMCではTSMC 2030 Sustainablity Goalsの中で、”水資源の60%以上を再生水で代替する”と述べています。
実は水という一見何でもない身近な液体が実は大きな資源になっています。
参考文献
https://docfinder.bnpparibas-am.com/api/files/b4c6aa90-0077-4813-bb49-10f3db36aa2a
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