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比叡山未来会議2023レポート

(写真・文:SELF編集部 かつ しんいちろう)

去る2023年6月29日、「比叡山未来会議2023 — 人、社会、技術を照らす想像と創造 —」 というタイトルの会議にSELF代表理事の野崎と理事の勝が参加してきました。

自然災害、パンデミック、戦争...、私たち人類は今、想定外の渾沌の渦の中で、悲観や不安を募らせています。人類は、このまま未来への道筋を見いだせずに落ちていくのでしょうか?
いや、こういう時代だからこそ、人類は手を取り合い、問いを持ち寄り、共感できる未来への様々な知を集め、よりよい社会を想像、創造していく時ではないか―。
未来の兆し、未来への知を照らし出し、私たちが未来を生きる人々にとって、よりよき祖先になるための未来創造の出発点をめざす場として、社会の変化がさらに加速してきている2023年より「比叡山未来会議」を開催いたします。未来を描き出す羅針盤として、「SINIC(サイニック)理論」という、1970年の発表以来オムロンが未来経営の羅針盤としてきた未来予測理論から、「自律社会」「自然社会」という未来仮説を置き、未来解像度を上げる議論の場にしたいと考えています。
澄んだ空気の漂う比叡山の中からこそ見える新たな未来の眺望を、みなさまと共に分かち合う一日を共に過ごせればと思います。ぜひ、比叡山未来会議にお越しください。みなさまとお会いできることを楽しみにお待ちして
います。

案内文より


比叡山 延暦寺内の延暦寺会館が会場

サイニック理論の紹介

SINIC理論は、オムロン創業者の立石一真氏らが1970年の国際未来学会で発表した理論です。SINICとは、“Seed-Innovation to Need-Impetus Cyclic Evolution”の頭文字をとったもので、歴史の中に見え隠れする理(ことわり)を社会、科学、そして技術の側面からメタ認知し、超長期で円環する世界を描いたものです。エンジニアであり経営者であった立石氏ならではの視座だと思います。

新しい科学が新しい技術を生み、それが社会へのインパクトとなって社会の変容を促すサイクル。これとは別に社会のニーズが新しい技術の開発を促し、それが新しい科学を推進する力となるサイクル。この二つの方向でお互いが原因となり結果となってもつれ合い、社会がサイクル的に発展していくという理論です。

立石氏は社会の変化をとらえるSINIC理論を通して、自社のビジネスの種を創造もしていたところがユニークです。いずれキャッシュレスの社会になる、だがそれまでの間は銀行の自動支払い機が必要になるとCDを開発したり、いずれ切符は無くなるがそれまでの間は自動改札機が必要になると開発したり、来るべき社会への移行期のための商品を次々と開発し、ヒットさせたのです。確かに、これだと来るべき社会が多少ズレても遅れても開発した商品が無駄になることはありません。

立石一真氏

SINIC理論については、コチラ

いけばなパフォーマンスからスタート

会は、桑原専慶流十五世家元 桑原 仙溪氏によるいけばなパフォーマンスから始まりました。目の前で花瓶と花しかない空間にいけばなと言う世界ができていく過程を見ることは新鮮でした。
活けた後には、いけばなをいけるということについての解説がありました。そこにある花を輝かせるために、良い位置を問いかけおさめるのだそうです。(ざっくりまとめすぎでスミマセン。)

いけばなパフォーマンス

基調講演は山極先生

 基調講演は、総合地球環境学研究所 所長の山極 壽一先生。タイトルは「共感革命とコロナ後の未来」ということで、類人猿と人類の違いをヒントに、人類はどこから来てどこに行こうとしているのかの示唆をいただきました。

基調講演

2つの未来に向けてのセッション

株式会社ヒューマンルネッサンス研究所 エグゼクティブ・フェロー 中間 真一さんとNPO法人 ミラツク 代表理事 西村勇哉さんによるSINIC理論と次のステージの自律社会についての解説のあと、2つのセッションがありました。

セッションA

 セッションA「自律を支える基盤と未来社会への実装」
・東北大学大学院情報科学研究科 大関 真之氏
・関西大学文学部 石津 智大氏
・宇沢国際学館 代表 占部 まり氏
物理学者と心理学者と経済学者であり哲学者の父を持つ医者というジャンルの異なる登壇者の方々の知のぶつかり合いでした。
個人的には、大関さんのスピングラスの話しが興味深かったです。不純物を少し混ぜると、電子スピンの向きが一定方向ではなくランダムな方向を向いたままで固まってしまう磁性体ということで、これを人間社会にあてはめるとどんな状態が想定されるのか?同調圧力と関連付けて考えると面白そうです。

セッションB

セッションB「身体、生命、知と未来」
・京都大学人と社会の未来研究院 熊谷 誠慈氏
・広島大学大学院生物圏科学研究科 長沼 毅氏
・一般社団法人イノラボ・インターナショナル 共同代表 井上 有紀氏
宗教学者と生態学者と社会変革の探究者というこれまたジャンルの異なる登壇者の方々の知のぶつかり合い。それぞれのフィールドから語る未来は、同じのようでもあり、異なるようでもある不思議なモヤモヤが生まれました。

個人的には長沼先生のチューブワームや地衣類の話しが興味深かったです。地衣類は植物でもなく動物でもない菌類と藻類の合体で、地球上では極地を含めどこにでもいると。ハイブリッドがすごい!AでありBである。縁側のような「あわい」の概念を重ね合わせると地域の生き残りのヒントが見えてくる気がします。

最後に

未来を語るときはモヤモヤで良いのかなと言うのが私の感想です。モヤモヤではあるのの、それぞれの哲学や理(ことわり)、それぞれの専門分野の切り口、それぞれの未来感で追求し、その中に心の問題やコミュニティの問題、環境の問題、ビジネスの種などの解決の糸口を見つけていく姿勢が大切なのではないかと思います。
足元の課題に集中しているとジリ貧になるので、顔を上げて未来に目線を置いて活動しよう!そんなメッセージを得た気が私はしました。

この会の素晴らしかったところの一つは、登壇者のみなさんに加え参加者の方々。主催者側が言うように皆さん他の会議で基調講演をされるような方々が200人も集結。交流会も刺激的でした。『薩摩会議』の登壇者の方々も10名近くいらっしゃいました。

この回のタイトルが「比叡山未来会議2023」となっているので2024も開催されることでしょう。知のぶつかり合いから生まれる化学反応に、これからも期待していきたいと思います。


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