マガジンのカバー画像

五月病と不在着信

3
運営しているクリエイター

記事一覧

【短編小説3/4】五月病と不在着信(仮)

【短編小説3/4】五月病と不在着信(仮)

3 さよならの今日に

 ただ漠然とした辛さが付き纏う。足枷のように、歩みを拒むような重い空気。手錠みたいな愛情。四六時中、檻の中にいるみたいだ。
「翔くん、今日お母さん遅いからね」
「いつもじゃん」
「まあ、そうやな。ごめんな、こんな母親で。嫌だよね」
それに気づているなら、早く自己解決してほしい。改善への努力が見当たらない。
「どこいくん?」
「カラオケで会った人のところ」
スナックやろ、とジ

もっとみる
【短編小説2/4】五月病と不在着信(仮)

【短編小説2/4】五月病と不在着信(仮)

2 深夜高速

 TwitterがXになった日、アップロードでアイコンが変わった日。私の居場所がまた一つなくなっていくような気がした。青い鳥は友達だったのに、飛び立っていった。ラリーバード。りょーちゃんも私も、旧称で呼び続ける。Xだよ、と訂正するのはご法度だという暗黙の了解がある。
「じゃあ、名前書きに来て」
担任が手を叩く。中年の男性教師で怒鳴る声が大きすぎるから嫌いだ。
 学級委員の選挙も、委

もっとみる
【短編小説1/4】五月病と不在着信(仮)

【短編小説1/4】五月病と不在着信(仮)

1 オトナチック

 一番上のトークルームから順番に退出していく。その次は個チャで全員をブロックしてから会話内容を削除する。ホーム画面に戻ってアイコンを長押しし、必死の抵抗を試みてブルブル震えるアイコンを眺める。申し訳ないけど消えてもらう、とバツ印をタップした。ふーっと肩の力が抜けて、服の山に沈み込む。
 リセット完了。
 ホーム画面からインスタを探し、開く。電話でもしようかな。相手はワンコールで

もっとみる