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SEKAI NO OWARI『聴く人全てをファンタジーな世界に連れて行く魔法の音楽』(前編)人生を変えるJ-POP[第49回]

たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。

今回は、『Habit』で2022年度の日本レコード大賞を受賞したセカオワことSEKAI NO OWARIを取り上げます。世代を問わず、多くの人を虜にする魅力はどこにあるのか、1人が楽曲を作るのではなく、メンバー同士で作り合う楽曲のスタイルなど、独自の世界観を持つ彼らの魅力を探りたいと思います。


夢の世界に連れて行ってくれる、そのステージ

今年、結成18年目を迎えるSEKAI NO OWARI(以降、セカオワ)の大きな魅力の一つは、ポップで大掛かりなステージセットでのライブ。

ライブ会場には、親子連れなどもいて、どの世代でも家族みんなで楽しめる、という空間作りをしているのが伝わってきます。

ステージは、まるで「おとぎの国」か「魔法の国」に迷い込んだよう。巨大な木が組まれ、枝の上にはツリーハウス。

カラフルな舞台装置だけでなく、彼らの衣装もその時のテーマに合わせたポップなものだったり、シリアスなものだったり、と、彼ら自身が、夢の空間に溶け込んで、観ている者を現実離れした世界へと誘っていきます。

ステージセットや彼らを見るだけでワクワクするような、そんなセカオワの原点。

それは、バンド結成前に作り上げた「club EARTH」(京急大鳥居駅)。このハウスは、Fukaseがバンドをやると決意して、Nakajin、Saori、DJ LOVE(初代、現在は2代目)に声をかけ、一緒に約1年かけて作り上げたライブハウスです。

セカオワの原点はここにあった

実は、バンド結成前、Fukaseは精神を病んで一時期、閉鎖病棟に入院していた経験がありました。

その後、自分の周囲に残ったのは、昔からの仲間と音楽だということに気づき、バンド結成をするために、幼馴染の中島と初代LOVEに声をかけたのです。

彼は、バンド結成のために、仲間が気兼ねなく集まり自由に音楽ができる場所が欲しいと思って、当時、印刷工場だった建物の地下に「club EARTH」を作ったのでした。

作ると言っても、お金も何もない彼らは、自分達で防音壁を取りつけたり、ペンキ塗りや電気の配線工事なども行って、約1年かけてライブハウスを作り上げました。

そうやって、ほぼ1年後の2007年、ライブハウスは完成し、バンド「世界の終わり」(結成当時は漢字表記だった)を結成したのです。

「世界の終わり」というインパクトの強いバンド名は、彼自身のADHDや、それに伴う閉鎖病棟での体験など思春期の壮絶な経験と絶望感を抱く辛い体験の過去の中で「自分の世界は終わった」と感じたとのこと。

けれども周囲を見渡せば、仲間や音楽が残っていることに気づき、いつからこんなに友達ができたんだろうと思ったら、精神病棟で「自分の世界は終わりだな」と思った瞬間から始まっているような気がして、そこから始めてみよう、と思ったことが、グループ名の由来になっていると言います。(

メジャーデビュー。そして、「SEKAI NO OWARI」へ

そうやって、2007年にバンドを結成しました。結成当初は、Nakajinがドラム、Saoriがピアノ、DJ LOVE(初代)がベース、Fukaseがボーカル、ギターという編成で、あちこちにデモテープを送っても全く相手にされなかったとか。

メンバーのそれぞれの技術を向上させるために、the band apartの難易度高めの楽曲をよくコピーしては練習に励んでいたそうです。

その頃は、結構、ニッチな曲を好んでコピーしたり、作ったりしていたそうですが、Fukaseは自分の家族のことが大好きで、ニッチな曲は、家族が聴いてくれそうな楽曲ではない、と感じて、どんな世代の誰もが受け入れやすい音楽として、ポップス音楽にジャンルを変更したのでした。

3年の下積みを経験した後、2010年『幻の命』でインディーズデビューを果たしたのです。

彼ら(DJ LOVEは2008年に現在の2代目に変わっています)のポップな音楽は人気を博し、2011年、シングル『INORI』でメジャー・デビューしました。

その際にバンド名をアルファベット表記の「SEKAI NO OWARI」に変更。同年、日本武道館で行ったライブは大好評を博し、その後は、コンスタントにヒット曲を出し続けています。

「club EARTH」では、4人が共同生活を営みながら楽曲を作るという、仲の良い関係がずっと続いていました(その後、拠点を現在の通称セカオワハウスに移転して共同生活)

現在、メンバーのうち、Fukase以外は既に結婚をしていて、それぞれの家がありますが(Fukaseは現在もセカオワハウスに居住中)、結婚後も、子供達も含めて家族全員や親族までが何かと集まっては、ワイワイガヤガヤ、楽しく過ごしているというセカンドハウス。

この共同生活が、セカオワの音楽の原点とも言うべきものになっています。

彼らの楽曲は、DJ LOVE以外の3人で作っています。共同作業で作るために、楽曲によって、歌詞や作曲者のクレジットが変わるのも一つの特徴と言えるでしょう。

多くのバンドの場合は、メンバー間で作っていても、曲を作る人、歌詞を書く人など、大方は役割分担が決まっていることが多いですが、彼らの場合は、楽曲ごとに役割が違ったりします。

FukaseとSaoriで作ることもあれば、NakajinとSaoriで作ることもある、または3人の共同作業で作る、というように様々な組み合わせで楽曲が作られていきます。

例えば、2017年の『RAIN』では、FukaseとSaoriが歌詞を書き、作曲のところには、Nakajin、Saori、Fukaseの3人の名前が記載されたスタイルになっており、全く、形に捉われない組み合わせで楽曲を作り上げていくという形式を取っています。

また、3人のうちの誰かがフレーズを作れば、それに対して、意見を言っては、手を加えていく、みたいに合同で曲を作ることも多いとか。そこには、単に仲の良さ、では測れない要素が必要だと言えます。

メンバーそれぞれの個性があるからこそ

それは、メンバー各人の個性が立っている、ということ。Nakajin、Fukase、Saoriの3人を見ていると、個々の才能が非常に際立っているのです。さらにそれぞれの音楽性のレベルの高さが同等であると感じます。

忌憚なく意見が言い合える信頼関係。それは、やはり、幼馴染だったり、高校の同級生だったりという、彼らが何者でもない時代に培った絆が彼らの関係性の核になっていると思うのです。

幼馴染や学生時代の友人というのは、ある種、理由のない共有感覚を持つことが多いです。

それは、様々な事情に捉われず、素の自分でいた頃。鎧に身を包まなくても、盾を持たなくても、安心して、自分というものを出せる相手がいた頃の一種、無防備な関係。

それが幼い頃から社会に出るまでの時期に関わった友人なのではないでしょうか。そんな信頼関係が根底にあるからこそ、一緒に共同生活を営むことが出来る。個人を尊重しながら、いい距離感で一緒にいられる。

そういう関係から生まれた音楽は、それを聴く人達に安心感を与えるのではないかと思います。

後編では、ボーカリストFukaseの歌声の魅力や、セカオワの世界観を作っているものの魅力などについて、書いていきたいと思います。


久道りょう
J-POP音楽評論家。堺市出身。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン元理事、日本ポピュラー音楽学会会員。大阪音楽大学声楽学部卒、大阪文学学校専科修了。大学在学中より、ボーカルグループに所属し、クラシックからポップス、歌謡曲、シャンソン、映画音楽などあらゆる分野の楽曲を歌う。
結婚を機に演奏活動から指導活動へシフトし、歌の指導実績は延べ約1万人以上。ある歌手のファンになり、人生で初めて書いたレビューが、コンテストで一位を獲得したことがきっかけで文筆活動に入る。作家を目指して大阪文学学校に入学し、文章表現の基礎を徹底的に学ぶ。その後、本格的に書き始めたJ-POP音楽レビューは、自らのステージ経験から、歌手の歌声の分析と評論を得意としている。また声を聴くだけで、その人の性格や性質、思考・行動パターンなどまで視えてしまうという特技の「声鑑定」は500人以上を鑑定して、好評を博している。
[受賞歴]
2010年10月 韓国におけるレビューコンテスト第一位
同年11月 中国Baidu主催レビューコンテスト優秀作品受賞