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絵やダンス、声や音楽、詩や物語など、すべてのアート表現を使うセラピーが、人をさらに「生き生き」させる。『現場で活用する表現アートセラピーの実際』はじめに 公開

さまざまな治療機関における、慢性疼痛、薬物依存症、子どものトラウマ、ケアする人のセルフケアなど、多様な対象への応用実践を紹介

表現アートセラピーは、絵やダンス・ムーブメント、声や音楽、ドラマ、詩や物語など、すべてのアート表現を使う統合的な芸術療法である。子どもから高齢者まで幅広い年齢層に対して用いることが可能で、言葉で語れないこと、語り尽くせないことを、受け止めることができる。

本書では、この懐の深い表現アートセラピーを米国で学んだ執筆者4人が、多様な現場、さまざまなクライエントに対して行なってきた臨床実践を紹介する。

例えば総合病院で慢性疼痛の患者さんの痛み緩和に、薬物依存症患者さんのリハビリに。あるいはケアする人のためのセルフケアとして。

また、外来クリニックで、特に子どものトラウマ治療の一環として。精神科病院で、慢性期病棟、急性期病棟、デイケア等、病棟に応じたグループで行う心理療法として。

さらにコロナ禍で実用化されたオンラインでの実践も興味深い。
意識を「いま、ここ」に集中し、無意識との接点をもち、自分の中の豊かさや可能性に触れさせてくれるアート表現は、人を生き生きとさせてくれる。

本書は広範囲にわたる分野における、さまざまな人を対象とした表現アートセラピーの活用方策を具体的に示してくれる1冊である。

▷こちらの書籍のイベントが開催されます!

「現場で活用する表現アートセラピーの実際」
著書たちによる出版記念トーク

このような方におすすめ
表現アートセラピーの活用法、臨床での実際を知りたい方
期待できる効果
著者たちに直接話を聞き、質問もできます。表現アートセラピーの最新の情報を得られます
◯開催日時 4月29日(月・祝)10時〜12時

詳細は下記リンクにてご覧ください。

https://www.reservestock.jp/events/920762

▷書籍詳細

はじめに

表現アートセラピー(Expressive Arts Therapy)は、絵やダンス・ムーブメント、声や音楽、ドラマ、詩や物語など、すべてのアート表現を使う統合的な芸術療法です。アートセラピー(ビジュアルアートを用いるもの)、ダンス・ムーブメントセラピー、ミュージックセラピー、ドラマセラピーなどが誕生した後、すべてのアート表現を用いる療法として1970年代のアメリカで誕生しました。ショーン・マクニフ、パオロ・クニル、ナタリー・ロジャーズなどがこの療法の創設者とされています。私はこの療法と出会ってから30年以上経ちますが、今も魅了され続けています。

これからの時代、芸術療法や表現アートセラピーが果たす役割はとても大きいと思っています。子どもから高齢者まで幅広い年齢層に対して用いることができますし、言葉で語れないこと、語り尽くせないことを芸術療法は、受け止めることができます。

そして芸術療法は、無意識との接点を比較的容易にもつことができます。これは注意する点でもありますが、無意識や潜在意識の可能性を活性化する上でとても素晴らしい利点をもっています。

今回表現アートセラピストである四人(小野京子、笠井綾、ジョーンズ美香、濱中寛之)が、表現アートセラピーとの出会いや、どのように現場で実践しているかをまとめました。四人がそれぞれどのように表現アートセラピーと出会い、実践しているかを知っていただき、表現アートセラピーの分野自体に興味をもつ人が増え、理解が深まり、学ぶ人が増えることを望んでいます。

私たち四人はともにアメリカで表現アートセラピーを学びました。笠井綾さんはアメリカで表現アートセラピーを実践した後に帰国し、現在日本で教鞭をとっています。ジョーンズ美香さんは、アメリカで表現アートセラピーを実践後、日本でも表現アートセラピーを実践、その後またアメリカに戻り、トラウマ治療に特化した表現アートセラピーを行っています。

濱中寛之さんはアメリカでのトレーニングを終えて帰国し、日本の精神科病
院等で長く表現アートセラピーの実践を行い、大学で表現アートセラピーを教えています。私、小野京子は、アメリカで表現アートセラピーのトレーニングを受けた後、日本のさまざまな場でパーソンセンタード表現アート
セラピー(以下PC表現アートセラピー)を実践し、表現アートセラピー研究所を設立し、大学等で教えてきました。小野と濱中はともに、表現アートセラピー研究所でPC表現アートセラピーのトレーニングを提供してい
ます。

用語の使い方についてですが、英語表記では、芸術療法は、Arts Therapy、表現アートセラピーは、Expressive Arts Therapy となります。ジョーンズ美香さんと笠井綾さんは、表現アーツセラピーという用語を好んで使います。小野は、表現アートセラピーという用語を使っています。表現アートセラピーという用語自体は、小野が表現アートセラピーを日本で実践し始め、ナタリー・ロジャーズの本を訳す時に作ったものです。本書では表現アートセラピーに用語を統一しました。

小野は、精神科領域、高齢者、学校などでこの療法を行ってきました。この療法は、それぞれの対象に効果があります。ただし対象によって異なるアプローチやエクササイズを用いる必要があります。その点についても本
文で解説しました。

最近小野は、健康な自我をもつ人たちへもっとこの療法を提供したいと考えています。なぜもっと一般の人へ提供したいかというと、そのニーズが高いと考えるからです。自分の個性を知り、自分がどのように生きたいかに悩む人が多いと感じています。そしてもっと生き生きと自分の人生を生きたいと思っている人も多いなか、その方法がわからなくて困っている方を多く見かけます。

私は、表現アートセラピーの特徴を一つあげるとすれば、「人を生き生きさせるもの」と考えています。最近の研究では、さまざまなアート表現がトラウマ治療や発達障害の支援などに効果があり、脳の変化も認め
られるという研究結果が出ています(Malchiodi, 2020)。

私の章では、表現アートセラピーとはどんなものなのか、その歴史と理論、対象によるエクササイズの使い分け、そしてなぜこれからの社会で表現アートセラピーが役立つのかを述べたいと思います。

またアート表現を教育の中に生かす取り組みについても述べます。私が実践する表現アートセラピーは、パーソンセンタード表現アートセラピーというロジャーズ派の療法です。その特徴、哲学についても述べていきます。
笠井綾さんは、カリフォルニアでの表現アートセラピーの実践について、アジアでの平和教育に表現アートをどのように用いるかについて述べています。

ジョーンズ美香さんは、アメリカ東部で実践している、トラウマに特化した表現アートセラピーの実践やその方法について説明し、濱中寛之さんは、日本の精神科病院で表現アートセラピーをどのように実践しているかについて詳しく述べています。

本書から表現アートセラピーの広がり、最近の発展、そして臨床における活用方法について、多くの人に理解していただけたらと願っています。

小野 京子

●編著者紹介

小野京子(おの・きょうこ)
米国カリフォルニア州立ソノマ大学大学院心理学専攻修士課程修了、European Graduate School Advanced Study 修了。前日本女子大学特任教授。国際表現アートセラピー学会認定表現アートセラピスト、臨床心理士。
現在、表現アートセラピー研究所代表、NPO アートワークジャパン理事長。
[主な著訳書]
『癒しと成長の表現アートセラピー』(岩崎学術出版社、2011)、『表現アートセラピー入門―絵画・粘土・音楽・ドラマ・ダンスなどを通して』(誠信書房、2005)、ショーン・マクニフ著『芸術と心理療法』(誠信書房、2010)、ナタリー・ロジャーズ著『表現アートセラピー』(共訳、誠信書房、2000)、『アート表現で自己開花:頑張ってきたあなたへ アートで次のステージへ』(Kindle 版、2022)、『アートセラピーは面白い:生きるのをもっと楽しくしたいあなたへ』(Kindle 版、2023)、他

●執筆者紹介

笠井 綾(かさい・あや)

カリフォルニア統合学研究所(CIIS)イースト・ウエスト・サイコロジー研究科博士課程修了、カリフォルニア統合学研究所(CIIS)カウンセリング心理学・表現アートセラピー専攻科修士課程修了。カリフォルニア州認定心理士(LMFT)、公認心理師。現在、宮崎国際大学国際教養学部准教授。
[主な著書]
『平和創造のための新たな平和教育:平和学アプローチによる理論と実践』(共著、法律文化社、2022)、他

ジョーンズ美香(じょーんず・みか)

日本大学大学院芸術学研究科修了。レスリー大学大学院表現アートセラピー専攻修士課程修了。ヨーロピアン大学院表現アーツセラピー博士課程修了。マサチューセッツ州認定心理士(LMHC)。Parent and Child Interaction Therapy 公認心理士。Trauma Focused Cognitive Therapy 公認心理士。
現在、マサチューセッツ州にある表現アーツセラピーセンター、Art Relief のクリニカルスーパーバイザー。専門はトラウマ療法における表現アートセラピーの応用。

濱中寛之(はまなか・ひろゆき)

カリフォルニア統合学研究所(CIIS)カウンセリング心理学・表現アートセラピー専攻科修士課程修了。臨床心理士、公認心理師。
現在、東京学芸大学非常勤講師・保健管理センター非常勤カウンセラー(特命教授)、日本女子大学非常勤講師、立教大学学生相談所非常勤カウンセラー、西八王子病院表現アートセラピスト、東京都スクールカウンセラー。

●書籍目次

はじめに

第1章 表現アートセラピーの広がりと実践……小野京子
 【コラム】表現アートセラピーとの出会い

第2章 表現アートセラピーの医療と教育現場における応用……笠井 綾
 【コラム】プロセスとしてのアートと出会う

第3章 トラウマ治療における表現アートセラピーの実践……ジョーンズ美香
 【コラム】なぜ私は表現アートセラピストになったのか?

第4章 表現アートセラピーを使った精神科での臨床……濱中寛之
 【コラム】芸術に導かれて


おわりに

▷本書の詳細はこちら

『現場で活用する表現アートセラピーの実際』

出版年月日 2024/04/05
書店発売日 2024/04/11
ISBN9784414417036
判型 A5
ページ数 206ページ
定価 2,750円(税込)

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▷誠信書房刊行の小野京子先生の関連書籍はこちら

『表現アートセラピー入門 絵画・粘土・音楽・ドラマ・ダンスなどを通して』

『芸術と心理療法 創造と実演から表現アートセラピーへ』


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