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道を極めること

 私の師匠の師匠の師匠の師匠にあたる大塚敬節先生は、明治維新後の国策によって迫害された漢方医学の復興における先駆的人物で、今日の漢方医学を語る上で欠かすことの出来ない伝説的漢方医です。

 山田光胤先生は大塚先生に師事し、2021年に97歳で逝去されるまで最前線で漢方医学の実践と研究・教育に尽力され、大きな功績を残しました。

 織部和宏先生は光胤先生の弟子にあたり、現代漢方医学界の重鎮です。お会いすると厳然としたオーラに圧倒されますが、気さくな人柄と温かい心を以て漢方医学の興隆を支える人格者です。

 私の師匠は織部先生に師事しており、名を明かすと身バレしそうなので秘密ですが、現代の漢方医学を牽引する鬼才です。その背中を追いかけ追い越そうと修練を続けているものの、お会いする度に遥か遠くの境地に進んでいます。温故知新を体現する診療風景は、神業と称するほかありません。


 漢方医学を研究する上での基本的な心構えについて、大塚敬節先生の著書にこうあります。

①志を立てること
②白紙に返して漢方と取り組め
③散木になるな
④師匠につくこと
⑤読むべき書物

大塚敬節『漢方療法』『漢方医学(創元社)』より引用

 噛み砕いて要約しますと、以下の通りです。

 ①真剣な志を立てること。好奇心で齧ったくらいでは漢方医学は修まらぬ。②近代医学の知見から批判的に漢方医学を始めてもモノにはならない。③根幹を選び心を定めること。④その為には良い師匠につくこと。守破離を意識すること。⑤傷寒論と金匱要略が起点であり終点である。


 ふと思い出したとき、自分はこの基本的な心構えから逸脱していないかと自問します。師匠の存在は羅針盤のようなもので、日常に没頭するうちに迷いそうになるところを、ぐっと王道に引き返してくれるのです。


 私がまだ駆け出しの医者だった頃、仲間うちで「いつまで医者として働くか」という話題が出たことがあります。そのときには65歳の定年を目処に考える人が多く、60歳で早めのリタイアをする心算だとか、事業や投資に成功したら医者をやめるとか、色々な意見がありました。

 働ける限り医者として働く。死ぬ直前まで医者でありたい。でも後進の迷惑になるなら退く。

 確固たる意志を以て宣言した私は、変わり者の烙印を押されましたが、今も信念を貫いています。私にとって医者は単なる仕事に留まらず生き方そのものですから、きっと死の直前まで医者であり続けるでしょう。

 齢90を越えても医者を続け、病床に臥せて猶正気を保ち、自らを蝕む感染症の起因菌と治療戦略について私に問うた祖父のように。




 拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは、病に苦しむ全ての生命が希望の光を取り戻せますように。




#忘れられない先生
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#大塚敬節 #出生名はヨシノリで号がケイセツ
#諸葛亮と諸葛孔明みたいなやつです
#渡邊惺仁も似たような呼び名です
#隙あらば自分語り #お付き合い頂き恐れ入ります

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