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anarchism - 逃亡者 - 《小説》

「anarchism」 - 逃亡者 -

誠 

あんたなんて産まなきゃ良かった

もう何十回も何百回も
聞かされた言葉だ

今は別に何も感じなくなっている


仕方ないよな 

僕と母親のふたりしか居ない

母は父の話を全くしない

始めから父親なんて
存在しなかった様に


この市営住宅に住んでる人達は

だいたい似た様なもんだ

母はいつも家に居ない 

学校から帰宅する真っ暗な部屋

台所に
袋ラーメンがひとつ置いてある


これもいつもの事 

全てが当たり前の日常で
慣れた事柄だった

隣の棟に住んで居た

僕よりひとつ歳上のお兄ちゃんは

昨夜 家を出て行ったらしい


お兄ちゃんの家は
お父さんとの二人暮らし

毎日毎晩 父親に殴られ続けていた


お兄ちゃんは 僕に言った

誠、俺 自衛隊に入ろうと思うんだ

住むところだって
飯だってちゃんと食えるんだぜ

それに 

父親に殴られる事も無いだろう

とにかく逃げ出したいんだ 
此処から今直ぐにでも

その夜 お兄ちゃんは居なくなった


やったな 
兄ちゃんカッコイイよ兄ちゃん

僕は心の中で
何度も何度もそう叫んだ

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