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こころのおうちに帰る手がかり

私たちは、体を持ち、感情を持ち、思考を持っている。
人と出会い、関わり、別れる。
そして、迷うことがある。
こころの迷子になることがある。
迷子になったとき、考えも、感情も、からだも感じられないかもしれない。
不安で、現実味が無くて、いつまで続くのだろうと思うかもしれない。
そして、こころのおうちに帰ることはきっとできると、信じています。
息ができて、ほっとできて、涙がながせて、笑えるかもしれない。
この文章は、こころが迷子になったとき、こころのおうちに帰る手段についての手がかりを記したものです。


はじめに

迷子になった子どもは地図を持っていないことを思い出しておきたいと思います。身動きが取れず、どうしていいかもわからない。そして、もしかしたら、こころのお家が無いのかもしれません。そのときに、どうしたらいいのか。手がかりを確認していこうと思います。


こころの迷子になる大きなきっかけ

  1. トラウマ

  2. グリーフ

  3. ストレス

1トラウマの視点から

トラウマとは、大きな刺激を受け、すぐには元に戻らない状態とここでは考え始めてみます。病名がつくものもありますが、そうでないものもあります。
近年ではACEsと言われる幼児期の体験が影響しているという研究もなされていて、もしかしたら、目の前の人も何らかのトラウマの影響を受けているかもしれません。
また2020年以降、新型コロナウィルスの影響により、そして、戦争の影響により、トラウマ的な反応が出ていることも少なくないかもしれません。外からみただけではわからないけど、もしかしたら影響を受けているのかもしれません。

そして、社会には広くトラウマの影響があるかもしれないという視点を持つ考え方がTICと呼ばれています。トラウマインフォームドケアです。ひとりひとりが互いに、やさしい眼差しを持つことが助けになるかもしれないと考えています。

また、トラウマの影響がある時には、内側で感じていることと、外側で感じていることが食い違って感じられる。そして、選択ができなくなっていることがあると言われています。
からだの内側に不用意に意識を向けると、まるでメデューサの目をみてしまったかのように、動けなくなってしまう。
もし、そうなっているとしたら、とても大変だろうと想像します。

2グリーフの視点から

グリーフとは、喪失体験と呼ばれているものです。死別のみならず、大切に思っているものを含む考え方まで広がっています。人、動物、仕事、関係性、物、いずれにもこころを寄せていたものが、失われた時、私たちのこころは、揺れます。感情が乱れることも、行動が乱れることもあります。それは特別なことではありません。
その影響の長さはそれぞれと言われています。研究で回復への段階が示されていますが、そのとおり進むものでもなく、人それぞれだということも特別なことではありません。

グリーフには何か対応した手段があるというものではないと思っています。ただ、共に居てくれる人が居る。それはとても助けになると思っています。

近年は、グリーフケアを提供してくれる団体もあるようです。なかなか想いを言葉に出すこともできていないかもしれません。専門的な知識を持った人と共に、ケアしていける可能性があることを記しておきます。

3ストレスの視点から

ストレスは悪者と思われているかもしれません。でも、ストレスは単なる外からの刺激です。不快なことも、心地よいことも刺激に違いはありません。五感だけでなく、内側の感覚も、感情も、考えも刺激になります。
あの時こうすればよかった、お腹が痛い、大きな音がした、猛暑だ、戦争のニュースを聞いた、地震が起きた、こうして文字を読むだけでも、不快を感じます。反対に、きっと未来は良くなる、大好きなものが食べられる、好きな鳥の声が聞こえた、素敵な夕日が見えた、桜の開花宣言を聞いた、あなたが居てくれて嬉しい。こうして文字を読むだけでも、心地よさを感じます。不快も、心地よさも、限界を越えると迷子になります。
不快ならば、感情を抑え、ごまかし、中毒性のあるものに囚われ、時には症状として現れます。心地よいことも、感情が抑えられなくなり、他のことが見えなくなり、止められなくなることもあるかもしれません。それも迷子です。
ストレスには、種類、強さ、長さが影響すると言われています。トラウマも、グリーフもストレスによる影響の結果と言えると思われます。突然の大きな刺激に考えと感情とからだが反応しています。

こころの迷子がこころのおうちに帰る手がかり

1こころのおうちが見つからない時

こころのおうちが見つからない時にはTSYという手法が参考になると考えています。トラウマセンシティブヨーガです。動きを用いる手法です。とても丁寧で、安全にからだに注意を向け、自らの力で体の内側への感覚を育てていきます。TSYでは動きの形をポーズとは呼ばず、フォームと呼びます。何か特定の形になることを求めず、できる範囲でフォームを取ってみて、動くか動かないか、感じることはあるのかを選択しながら進んでいきます。

TSYそのものは専門家が行うものですが、エッセンスはセルフケアに用いることができます。動くか、動かないか、感じことがあるのか、選択できているのか。その確認はとても有用なものだと考えています。

また、心地よい感覚を思い出すリソーシングも役に立つかもしれません。もし、心地よい経験を思い出せるのであれば、心地よさを思い出し、思い出した時の体の感覚が、こころのおうちになるかもしれません。

2頻繁に迷子になる時

TSMという手法が参考になると考えています。トラウマセンシティブマインドフルネスです。TICの考え方を背景に、安全に瞑想のガイドをしていく枠組みです。こちらも専門家のための枠組みですが、そこにも多くのヒントがあります。その多くはTSYと共通していますが、TSYが必要な状態では内受容感覚に気づくことにも恐れがあります。そして、内受容感覚には気づけるようになった段階で、時々、メデューサの目を見てしまうことも自覚しつつ、体の感覚を確認しながら、瞑想の実践を通して、過度なストレス状態から、ニュートラルな状態に戻る実践を重ねていきます。

3ときどき迷子になる時、こころのお家に帰りたくない時

これは、ほとんどすべての人に共通している状態ではないかと考えています。怒ってしまう、悲しむ、盛り上がる、熱中する、いずれの状態でも我を失っているのかもしれません。そしてこれは日常です。
しかし、積み重なると、困りごとに発展するかもしれません。このような状態にはMBSRが参考になると考えています。五感に気づく、感情・考えを観察、快不快の確認、コミュニケーションパターンの自覚、取り入れているものごとの確認などを2ヶ月かけて練習を重ねていくプログラムです。
このプログラムから参考になることは、快も不快も悪いものではなく、ニュートラルに戻ってくる練習を大切にすることです。困り事をすぐに解決しようとはせず、困り事を観察できる間合いを育て、他の選択肢を取れる可能性を育てることです。
比較的安定している間に、こころのおうちを見つけ、小さい迷子の体験からおうちにかえれる経験を重ね、帰省の体力をつけていく。そのことが、いつか訪れるかもしれない、大きな迷子への予防になるのかもしれません。

もし、すでに迷子になっていることに気づいたら、こころのおうちへの戻り方の練習を重ねている専門家を訪ねてみてください。きっと丁寧にこころのおうちへの帰り方の練習を手伝ってくれると思います。

​​こころの迷子のための先人の知恵

こころについては、心理学という領域があります。カウンセラーによる支援も最近では特別なことではありません。思考、感情について言葉を用いて行うことが一般的です。もしも、困り事を言葉でいうことが出来なかったら、サポートすることは困難です。
近年、化学の眼差しが、神経からの視点を提供してくれるようになりました。自律神経からの視点です。そして、過去にあった困り事を分析し、本人にある問題を解決するのではなく、現在起きている反応を観察し、別の選択肢を選ぶ練習をしていくことが広まりつつあります。私はこれらの手段が役に立つと考えています。

ポリヴェーガル理論

この理論の中で、私が参考にしたいことは、考えが安全だと思っていたとしても、からだは危険を察知して身を守ることができるということ。危険に出会った時、考えではありえない反応をしていたとしても、命を守るという目的に対して動いてくれるということです。
この理論が発表されるまでは、どうして逃げなかったのか、抵抗しなかったのかと、危険を経験した人に言葉が投げかけられたと聞いています。生き延びるための最善の行動をしていたのです。からだは、最善の行動をしていたのです。

TIC(トラウマインフォームドケア)

トラウマ(心的外傷体験)は精神的、感情的、身体的、経済的、社会的な幸福に影響を与える可能性がある。ACEs(逆境的小児期体験)は、トラウマになる可能性があり、認識していないと生涯にわたる影響を与える。ACEとトラウマは、肥満、依存症、重篤な精神疾患などの原因になっている。
こうしたトラウマの経験を持った人がいるかもしれないという視点を持って、関わるという考え方が、TICです。

参考:TICCこころのケガを癒すコミュニティ事業

TSY(トラウマセンシティブヨーガ)

皮膚の内側の感覚(内受容感覚)への気づきを大切にしながら、本人が自らからだを動かし、気づいていくための方法です。トラウマの経験を持った人は、外側の世界は安全だと考えられていても、からだの内側は混乱していることがあります。その時、自らからだを動かし、内受容感覚に気づく練習をしていくことが役に立つというものです。

参考書籍:セラピーにおけるトラウマ・センシティブ・ヨーガ: 体を治療にもち込む

TSM(トラウマセンシティブマインドフルネス)

瞑想は、からだとこころの内側へ注意を向けるために、トラウマ反応を引き起こす可能性があります。TICの視点をもって、安全にマインドフルネス実践に取り組む支援をするものです。

参考書籍:トラウマセンシティブ・マインドフルネス

MBSR(マインドフルネスストレス低減法)

ストレス低減を目的にしたプログラムで、瞑想が医療で用いられた最初のプログラム。1979年から存在し、現在のマインドフルネスを用いた介入の基礎となっている。
マインドフルネスとは何か、からだと感情と考えに意識的になる、自身にあるパターンを確認し、コミュニケーションの改善から、生活習慣の改善を目的としている。

参考書籍:マインドフルネスストレス低減法

SEEラーニング

サイトより引用:SEEラーニングは "Social, Emotional and Ethical Learning" の略にあたり、"社会的・情動的・倫理的知性の学び" と訳されます。その特徴のひとつには、体験を通して「身体で感じて、ふり返り、修得していく学び」であることが挙げられます。
小学生から実践できるようにまとまったテキストは、もちろん大人にも学びやすく、心が迷子になった時は、ここから始められるといいと私は思っています。

参考:SEEラーニングジャパン

こころの迷子をテーマにしたプロフィール

MBSR 2023秋のご案内


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