林晟一

評論家、教員。中学や高校で歴史や政治を教えるかたわら、さまざまな評論を手がけています。…

林晟一

評論家、教員。中学や高校で歴史や政治を教えるかたわら、さまざまな評論を手がけています。主著に『在日韓国人になる』(CCCメディアハウス)があります。くわしくは「プロフィール」をご覧ください! seiichihayashi0884[at]gmail.com

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  • 教室では言えない 高校教師の胸の内

    2016〜2019年にかけて、高校の教室でもがく教員の姿をcakesで連載していました。cakes終了につき、noteに転載するお誘いを受けましたので、定期的に再アップしていきます。

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『在日韓国人になる』に関する記事&書評

【書評】■毎日新聞(朝刊) 2023年12月16日(伊藤亜紗さん) ■週刊ポスト(小学館) 2023年12月8日号(井上章一さん) ■世界(岩波書店) 2023年12月号(森千香子さん) ■公明(公明党機関紙委員会)2023年10月号(多摩川陽一さん) ■週刊AERA(朝日新聞社)2023年7月17日号(星野博美さん) ■第11回神谷学芸賞(2022~2023年)ノミネート 2023年7月1日(神谷竜介さん)▼「ノンフィクション・ドキュメンタリータッチの作品を候補にすべきか否

    • 第17話  想い出という下克上

      ぼくには、ゆずりがたい持論がある。すなわち、高校生活をいろどる晴れ舞台での経験の数々は、十年後、二十年後、想い出の玉座にはいないということだ。 全員リレーで優勝した、文化祭で汗を散らして精一杯踊った、スポットライトを浴びる中で和声を究めてグランプリを取った。どれも間違いなく、かけがえのない経験である。けれど、忘却という記憶の風化には耐えきれないとぼくは思う。 何を偉そうに! では将来、あなたの想い出の玉座にあるのは、何だというのか? それは、今あなたの頭の片隅で、ハレの

      • 第16話  教師は生徒を丸ごと理解できるほどエラくない

        前回は、赴任して間もない頃の文化祭の一幕について記した。その翌年の文化祭では、高2の我がクラスはジュース・スタンドの模擬店を出した。当日はムシムシしていたから、想像以上に売れ行きを伸ばして、生徒の顔はほっこり。 最初はやる気がなかった生徒の面々も、お客さんがたくさん来てくれると率先して動いて、手伝ってくれた。 それでも、人付き合いが苦手な子はいる。準備段階でピリピリしたクラスメートに怒られ、助けを求める目でこちらを見つめる子。クラスTシャツを忘れ、みんなと“まとまれない

        • 第15話  文化祭でしくじる僕、はげます生徒

          いつの世も、夏休みはあっという間に去るものだ。そして2学期早々、多くの学校では文化祭がやってくる。 思い返せば、僕が高校に赴任した当初、担任を持つ1年のクラスで最初に「しくじった」のは、文化祭だった。「怒る」(感情が先)と「叱る」(理性が先)のちがいを痛感した、あの日。 * 高校の文化祭は、外部からのお客さんが多く、大多数の生徒も準備に全力となるから盛り上がる。だが、僕の担任クラスはいまいちやる気に欠けていた。 1学期のうちに、サンドイッチの模擬店を出すことに決まった

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        『在日韓国人になる』に関する記事&書評

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        • 教室では言えない 高校教師の胸の内
          17本

        記事

          第14話  生徒との「冷戦」の意外な結末

          「先生とはなるべく話したくないです」。 高校に赴任して2年目のこと。4月最初のホームルームで、クラス替え後の新高2の生徒に自己紹介カードを書いてもらうと、その一枚にはこう書かれていた。 赴任1年目には失敗が多くあった。けれど、生徒には誠実に対応してきたつもりだった。生徒から信頼されている。うまく学級を運営している。男女分けへだてなく目を配っている——そうした自信が当時の僕になかったといえば、ウソになる。 2年目の春、早々とそれが過信だとわかった。1年の時まったく関わりの

          第14話  生徒との「冷戦」の意外な結末

          第13話  「学校やめちゃうぞ」と心配された野球少年の選択

          ある年の春。運動センス抜群の1年生が野球部に入ってきた。その実力は3年生みんなが認めるほど。入部早々の練習試合に出ると大活躍し、5月には上級生を押しのけ、事実上レギュラーとなった。それでも彼は、決して偉ぶらず、謙虚だった。 だが、ふだんの学校生活では一転、いかにも「高校デビュー」なチャラい見た目だった。さっそく体育の先生に目をつけられ、特定の教科の先生には露骨に反発することもあった。 「ありゃ、学校やめちゃうぞ」と教員室で話題になることもしばしば。部活ではがむしゃらで、謙

          第13話  「学校やめちゃうぞ」と心配された野球少年の選択

          第12話  「ごめんなさい」が〈正解〉だったサッカー部員の卒業

          「先生、メシ連れてってください」 彼がそう控えめに申し出たのは2月のこと。360度に明るい少年で、それでいてどこか不思議なオーラにくるまれた生徒だった。僕は高1のとき彼の担任だったけれど、それ以後は直接の関わりがなかった。 そんな僕を、卒業を控えた頃にわざわざメシに誘うってことは、学校では口にしにくい思いが溜まっていたのかもしれない。彼の表情を見てたら、タダ飯にありつける、みたいな下世話な目的じゃないことはよくわかった。 とつとつとした告白 「俺はサッカー下手だけど、

          第12話  「ごめんなさい」が〈正解〉だったサッカー部員の卒業

          第11話  「あー、めんどくせー」な生徒のそれから

          4月から高校3年生の担任となった。彼らが入学した2年前の4月、僕もこの高校で働くようになった。それから日々の学校生活を、この学年と過ごしてきた。来年の3月になったら、生徒たちが学校からいなくなると思うと、今からもう淋しい。 この仕事をやっていると、知らずしらずに生徒の「成長」を見つけることがしばしばある。その成長が、ふつうの大人からしたらちっぽけなものでも、日ごろ彼らと接する僕からしたら、とても頼もしいと思えたりする。 今日は、そんな、ささやかながらも力づよい成長の話。

          第11話  「あー、めんどくせー」な生徒のそれから

          第10話  僕にそっと手紙を渡してきた生徒

          家庭の悩みがない高校生は、ほとんどいない。その悩みに、偏差値や学力は関係ない。僕も中高生の頃、(あくまで精神面での)「父親殺し」を胸に引きずりながら日々を送ったことがある。 ちょうど秋の文化祭が終わって、教室の雰囲気がだらんとしていた時分。高2の授業を終えて廊下を歩いてると、教室から女子生徒が出てきて、僕にそっと紙片を手渡した。彼女は「よろしくお願いします」と口早に伝え、もどった。 告白!? もう30をゆうに超えてる僕……。20代の新卒教師のもとへは、授業の質問との名目で

          第10話  僕にそっと手紙を渡してきた生徒

          第9話  彼女がどうしても家に帰りたい理由

          多くの高校生のホンネでは、勉強と部活の重要度はそう変わらないのかもしれない。保護者や教師からすれば、勉強に身を入れてこその部活だ、学業こそ生徒の本分だ、との意見で一致するだろうけれど。 子どもは、そんな「大人の論理」そっちのけ。放課後や週末の予定は部活一色、との生徒は多い。これこそ、日本の教師が多忙であることの大きな原因なのだけど、部活という制度に罪はあっても、子どもに罪はない。 今日は、そんな部活に思いをはせ、駆け、学校に舞い戻ってきた、一人の女子生徒のお話。 先生、

          第9話  彼女がどうしても家に帰りたい理由

          第8話  キラキラ生徒の答えは全部「イ」

          この子は絶対モテキャラなんだろうな。 今の高校に勤務しはじめた4月、最初に教壇に立った2年世界史のクラスで、そう思う生徒がいた。初回の授業から、彼は一風ちがっていた。いかにも少女マンガに出てきそうな、笑っちゃうくらいのキラキラオーラが出てるのだ。 容姿やオーラを武器に人生を勝負し、駆けるのはありだと思う。にしても、そういった少年は勉強しない! 以前勤めていた高校でそう思ったことがある。「俺は頭じゃ勝負しない」とでも割りきってるのか? 学力不振を前に、僕はしばしば嘆息してい

          第8話  キラキラ生徒の答えは全部「イ」

          第7話  先生が金髪にして登校した日

          僕が今の高校に赴任してから、苦楽を分かち合ってきた同期が何人かいる。他愛もないグチを言い合える仲は、貴重だ。中でも、1年目から同じ学年の担任となった先生は、僕がもっとも頼りにする人である。 僕より少し年下だが、教師歴は僕より長い。彼とはさまざまな試行錯誤をともにしてきたし、その「熱」に感化され学ぶことも多い。 半面、赴任当初からハラハラさせられてもきた。彼は、穏やかそうな見た目とは裏腹に、カッとなりやすい直情径行型なのである! 赴任して1ヶ月も経たない4月下旬、高1担任と

          第7話  先生が金髪にして登校した日

          第6話 「介護等体験」で学び取った痛み

          僕が中学2年だったときのある日、社会科の教科書が家でなくなった。 いつも机に教科書類を置いていたから、なくなるのはおかしい。でもどこを探してもない。ふと、となりの家の屋根を見やると、雨に打たれた社会の教科書がぽつりと乗っかっていた。現実離れした光景だった。 姉が窓から投げ落としたのだった。 かつて、教員免許取得のために参加していた「介護等体験」の最中、僕はこの「教科書事件」のことを思い出した。 * 中学校の教員免許を取得するには、さまざまなハンディを抱える子どもが集

          第6話 「介護等体験」で学び取った痛み

          第5話 教員室の紳士なる異才

          先輩をうやまえ。 どの組織でも、日本ではこれが当たり前とされている。たかだか数年、数十年先に生まれただけの人を、なぜ無条件にうやまう必要があるのだろう。そんな問いは脇に追いやられがちだ。心から尊敬できる先輩なんて、長い人生で両手のゆびに収まるかどうかかもしれないのに。 学校だろうがどんな会社だろうが、模範的な生き方をしてる人の方がめずらしい。「この人の生き方、いいな」と尊敬できる人は、そう簡単に見つからないものだ。 それだけに、勤務している高校で心から愛すべき大先輩にめ

          第5話 教員室の紳士なる異才

          第4話 心ふるえる解答用紙

          前回は、高校生の世界史の授業をきっかけとする話を書いた。その授業では、もう一つ印象に残ることがあった。それは、中世ドイツの「自由都市」(商人らの自治が認められた都市)に関わることわざを教えたときのこと。 「都市の空気は(人を)自由にする」 中世ヨーロッパは、少なくとも15世紀くらいまでユーラシア大陸の「遅れた」地域だった。農奴の扱いもわりと厳しく、基本的に彼らには移動や職業選択の自由がなかった。 でも、トンビの子はトンビ、との運命を呪う人間もいる。そんな彼らが故郷を捨て

          第4話 心ふるえる解答用紙

          第3話 個人面談と黒板の落書き

          僕が高校2年のとき、夏休みをまる1ヶ月使って、東京〜東北間をマウンテンバイクで往復したクラスメートがいた。「ずっとサドルにケツを付けっぱなしだから、サルみたく真っ赤になって痛かった!」 2学期初めの彼は、すがすがしい笑顔でそう言った。 一人で旅をするってのは何とも心細いし、気のおけない仲間と和気あいあい行くのでは味わえない、大いなる不安と冒険心が入りまじる。それを16、7歳で経験するのって、単純に、貴重だと思う。 旅をしてほしいな、旅を。 世界史の授業で 6月、高校2

          第3話 個人面談と黒板の落書き