見出し画像

生産技術の仕事って土台を作る仕事である分、責任が重いというお話

先日こんなツイートをした。

このツイートの意図は「生産技術の仕事振りがまずくて他の部署に迷惑をかける構図」であることだが、実際メーカーにとって生産技術というのはワンミスが命取りになる重要な仕事なのだ。
そのため、この記事では生産技術の仕事の重要性を解説する。

そもそも生産技術の仕事とは

まずは生産技術の仕事をざっくりと理解してもらいたい。
自分の理解としてだが、生産技術の仕事のアウトプットは一言で言うと「生産システムの構築」である。
この生産システムというのはコンピュータプログラムで作られるシステムという意味ではなく、モノを作るためのハードとソフト全てとなる。
※どこまでの範囲を準備するかは会社やその時のプロジェクトによる

では具体的なハードとソフトとは何か?
自分は以下と考えている。
ハード(有形のモノ)
・治具
・工具
・生産設備
・生産設備の補用品
・作業台
・作業台車
・工場(※1)

※1:Twitterでアンケートを取ると生産技術が工場も立ち上げすることが多いとのこと(特任部隊が動かすことも多いが)

ソフト(情報)
・作業手順
・作業条件
・トラブル時の対応方法
・サイクルタイム※2

※2
サイクルタイムとはモノを1個作るために必要な時間を示す。これが短かい程、モノを作るためにかける時間が少なくなる=安く作ることができる。
このサイクルタイムはこれまでの経験上、生産技術が見積を行う。
サイクルタイムで大体の製造原価が決まり、ここに販管費や利益を載せて売価を決めるというケースが多かった。
そのためサイクルタイムを決めると言うことは会社に利益をもたらすのか損失をもたらすのか、非常に重要な意思決定となる。

生産技術と言うと生産設備や治具や生産設備の調達に目が向けられることが多いが、実は上記のように目を光らせる範囲は多岐に渡る。
当然ながら生産設備だけ準備して、「ハイッ、じゃあ後は製造さんヨロシク!」とはいかない。
その生産設備の使い方を教えるのは当然として、作る手順や作るうえでの生産条件(機械加工なら刃物の回転数や切削油の量や吐出タイミング等)、日次管理や週次管理等を明確にして、モノを作るための「お膳立て」をするところまでが仕事なのだ。(比喩として「お膳立て」と言うわかりやすい言葉を使っただけで、悪意を持って使ったわけではない)

そして、このお膳立てが影響するのは製造だけではない。
保全は生産技術の準備した生産設備をメンテナンスするし、品質管理や品質保証は生産技術が準備した生産システムをベースに製品品質を管理したり保証する。
つまりは生産技術が準備した生産システムを100点の計画とすると、いかにこの計画から逸れないように仕事をするのが製造だったり生産管理だったり品質管理だったり品質保証だったりする。
※よく生産管理の人が減点方式な仕事であることを嘆いていたりするのはそういうこと。
以上から、生産技術の仕事はとても重要な仕事というわけである。

もし生産技術がミスすると・・

ここまで書いた通り、生産技術の仕事は生産システムを構築する仕事のため、他部署は生産技術が構築した生産システムをベースに仕事をすることになる。
そのため生産技術の判断ミス一つで他の部署は振り回されることになりかねないリスクをはらんでいる。
イメージして頂きやすいように具体例を3つ出す。

具体例①:サイクルタイムの設定をミスる

まず1つ目の具体例として、生産技術が見積したサイクルタイムがミスっていたという例。
ここでは極端なケースとして、本来であればモノを1個作るために10分必要だったはずが、見積ミスによりサイクルタイムを1分としてしまったとする。
当然だが、作れば作るほど大赤字になる。

仮に工場レート4800円/時であれば1分あたりに必要なお金は80円/分。
本来の製造原価:80円/分×10分=800円
見積もった製造原価:80円/分×1分=80円
さすがに販管費+利益に製造原価の10倍も乗せて800円以上で売価を決めるようなボッタくりな競争力のある会社はないと思うので、作れば作るほど大赤字だ。
※上は話をかなりシンプルにしてるので実際の原価や売価の決め方はここまで簡単ではない。

さらに製造も必要な人員の準備に骨を折ることとなる。
1個あたり1分と聞いていたのに10分もかかっていては単純計算10倍の人が必要だ。
想定の10倍の人員を簡単に補充できるわけがない。
当然ながら昨今は人がすぐに集まるような状況ではないし、ましてや作れば作るほど赤字となると待遇もよくできないため、なおさら人を集めることはできない。
生産管理も大変だ。必要な生産数量を準備するためには製造に頼み込んでなんとか数量を確保してもらわないといけないが、製造にはそんな余力はない。そのため未納リスクが格段に上がり、絶えず気を張っていないといけない。

具体例②:ポンコツ設備を作ってしまう

2つ目にポンコツな生産設備を入れてしまうパターンだ。
ポンコツな設備を入れてしまうケースとしては以下2つだ。
(1)設備仕様書がマズかった
(2)設備仕様書は問題なかったが、設備メーカーに技術力がなかったケース
上記(1)のケースは生産技術自身が悪いパターンもあれば製造や保全などから与えられる情報が悪いケースもある。いずれにしても直接的には「自社」がマズかったケースだ。
上記(2)に関しては責任は設備メーカーにはあるものの、設備メーカーの選定は生産技術であるわけだから、実際は生産技術の責任になる。

上記どちらのケースだとしても品質の悪い設備を入れてしまうといつまでも保全が設備に手を加え続けることになる。
保全が苦しむだけじゃなく、生産技術や品質管理も製品品質のチェックのために改造工事に立ち会ったりするケースも多く、いつまでも仕事が終わらない原因になるかねない事象となる。

具体例③:工程設計がまずくて製品品質を担保できないケース

3つめの例としては工程設計がマズくて製品品質を担保できないケースだ。
例えばモノを加工する際には生産条件というのを決める。
機械加工であれば刃物の送る速度や回転数、切削油の吐出タイミングや量などだ。
生産条件の設定を行ったら、「この生産条件で製品品質を担保できるか」をチェックすることになる。
当然1個2個作って製品品質がOKだから量産してヨシ!とはならない。
数十個にもサンプル品を作り、そこから量産に移行しても問題ないかをチェックすることになる。
(ツイッターでCpkがどうだとか工程能力がどうだとか時々つぶやいているが、あれはこの概念を示している)
そして生産技術はモノを量産しても品質に問題が無いような生産条件の設定をする仕事というわけだ。
※会社によっては設備を入れるのは生産技術、条件設定は製造技術と部署が分かれている会社も多いようだが。

製品品質を担保できない生産条件を設定してしまっては不良品の山である。
製品品質の担保することを仕事にしている品質管理や品質保証は不良品流出リスクに震えることになるし、そのリスクを下げるために検査工程を増やすこともあり得るだろう。
また、未納を防ぐために不良品とわかっていても特別に出荷するための判断を都度委ねられたりすることもあるだろう。
その際は出荷判断するのは品質管理や品質保証となる会社が多い。
品質管理や品質保証は「自分が出荷してよいと判断した製品は市場に流れてもはたして問題は起きてないだろうか・・」と日々思い悩むこともあるため、精神的な負荷も大きい。
そのため、生産技術はしっかりと生産条件を設定する力量が必要だ。

生産技術は責任が重い部署

ここまで読んで頂いた方には理解いただいたと思うが、生産技術の仕事振りで工場ないしは会社全体に与える影響が大きい。
生産技術はQ・C・DのうちC(コスト)に責任を負う部署とは良く言うが、結局はQ(品質)にもD(納期)にも大きな影響を与えている。

さらには生産技術は生産システムを構築するために最初に旗振りする部署でもある。
旗振りすることが多いが故にとりあえず生産技術に言えば何とかしてくれると勘違いされることがあったり、何でも屋的な扱いをされたり、サンドバック的な扱いをされることがあったり、何か悪いことが起きたらとりあえず生技が悪いとスケープゴートな扱いをされる責任のある仕事をできる。

何かと生産技術者は理不尽な思いをすることが多いと思ったかもしれない。
しかしそれは会社に与える影響が大きい、だからこそ重要な仕事をしているのだと自覚をもって仕事に取り組んだ頂けたらと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?