見出し画像

フランスの童謡-夜這い賛歌

子守唄に、美しい美しい夜這いの歌は如何でしょうか。
「え?夜這いですって、ハレンチな!」「PG指定にすべきだ!」「退廃芸術反対!」などなどなどと、そんな声がすぐにでも聞こえてきそうです。

けれど、そもそも、お母さんとお父さんが愛し合ったからこそ、赤ちゃんがいるのですよ。


「Au clair de la lune(月の光に)」

日本でもよく知られたこの名曲の、まずは歌詞から。

意訳
「月明かりの下、声がします。『ねえピエロ、ペンを貸して。手紙を書きたいんだ。
僕のろうそくは消えちゃって、もう火がないんだ。扉を開けてよ。お願いだ。』

月明かりの下、ピエロは答えました、『ペン、持ってないよ。それに僕はベッドのなかだ。
隣の家に行きなよ。彼女なら居ると思う。台所で火打石を打つのが聞こえたから。』

月明かりの下、アルルカンは、隣の家の、栗色の髪をした女のひとの扉を叩きに行きました。すると彼女はすぐに答える。
『どちらさま?』そこで彼は言う、『扉を開けてくださいな、お願いします。』

月明かりの下、たいしたものは見えません。ふたりはペンを探しました。ふたりは火を探しました。
そんなふうに探しながら、ふたりが何を見つけたのかを、私は知りません。でも私は知っているのです、扉が彼らの後ろで閉まったことを。」


彼らが見つけたものは何なのか、扉を閉めてふたりは何をするのか、それを敢えてさぐるのは、無粋というもの。『週刊文春』にお似合いの覗き見趣味。
秘めごとを暴いて、「所詮、どうせ人間なんて、みんな汚いんだ」と言うのは、ただシニカルなだけ。

ムッツリスケベ

むしろ、日本人のムッツリスケベを徹底的に批判すべきだろう。
おそらく諸悪の根源は、権威主義と結びついた禁欲主義だ。
この権威主義=禁欲主義は、ただたんに性を抑圧しただけではなく、「性に関する無知」に基づいて支配の体系を構築した。だから日本では「清純」が価値とされた。
そして日本の権威主義=禁欲主義は、自分が知らないはずはないのだけれども、支配するために知らないことにしておかなければならない性の世界を、知るべきではない悪の世界として描いた。その潔癖症は、明らかに現実離れした、妄想癖の持ち主のそれであった。

しかしいまやインターネットが「性に関する無知」を無きものにした。
だからこそいま、新しい性道徳が求められている。

そもそも性は、いろいろだ。
現実は赤でも白でもなく、ピンクだ。
はっきりしない、わからないことは、わからない。ヤブをつつくのは野暮な話だ。
新しい性道徳は、現実にもとづいた、曖昧さを認めるものであってほしいと、老人である西願は、若い人たちのために希望します。

夜、若い男女がひとつ屋根の下で過ごす、そこに秘めごとはあったかもしれないし、なかったかもしれない。それでよいではないか。
アルルカンと栗毛の彼女は、扉を閉めたあと、「月が綺麗ですね」「ええ、ほんとうに」と、子供の頃に見た月の思い出話に花を咲かせたのかもしれない。
あるいはふたりで一緒にスープを飲んだだけかもしれない。

それにしても、深夜にアルルカンが書こうとしていた手紙の宛先は、誰だったのか。気になりませんか。元カノかな?今カノかな?今カノだったら三角関係の勃発だけれども、それはそれで面白そうだ。

いずれにせよピエロはゆっくりと眠れなかったことでしょう。
嫉妬心ゆえか、隣家のベッドの軋む音ゆえか。ペンすら持っていなかった彼が、耳栓を持っていたとは思えませんしね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?