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世界の中心で桃色吐息


ネットの時代

ネットの時代だそうです。
「ネット=網」には、中心がありません。
別言すれば、どこでも中心になりうる。
つまり、もはや「この世界の片隅に」生きることは不可能なわけ。

フランス的中華思想の特殊性

世界史を眺めると、あちらこちらに「中華思想」が存在したことに気づきます。
でもちょっと勉強すると、必ずしもあらゆる中華思想の持ち主が、常に自分勝手で横暴なエゴイストではないことが分かってきます。
どうやら「中華思想」にも、いろいろと種類があるみたい。

例えばフランス的中華思想は、自分勝手でも横暴でもありません。
何故なら、フランス人は、自分は世界の中心にいる、だから自分は世界中から注目されている、と考えます。
そこから世界の模範として倫理的に行動しなければならないという意識が発生します。

従って、フランス人でも、自分が「地の果て」にいるという意識を持てば、誰からも見られていないと思って、平気で悪いことをします。かつてアルジェリアやインドシナで悪行が繰り返されたのは、〈地の果て意識〉のなせるわざだったのではあるまいか。

(たしかにフランス革命のさい、革命家たちは多くの反革命容疑者を断頭台に送りましたが、革命家たちは「良いこと」をしていると思っていました。だから処刑は広場、即ち公開の場、即ち誰からでも見られる場で、なされたのです。)

太陽王VSマリー=アントワネット

フランス的中華思想は必ずしもラクなものではありません。

例えばルイ14世。
彼は自らを世界の中心=太陽だと設定した。だから彼がつくったヴェルサイユ宮殿のバロック式庭園には、木陰がありません。どこでだれが何をしていても、すべて世界の中心からはお見通しだぞというわけです。
その一方で、太陽は東西南北どこからでも、世界中から見られるわけで、実際、起床の儀、食事の儀など、王の日常は、公衆から見られるものでした。

それはたしかにストレスフルなものだったと思われます。

そのストレスから逃げて、木陰ばかりの、即ち隠れ場ばかりのロココ式庭園をつくったのが、マリー=アントワネットでした。
どこででも、ちょっと隠れて、気軽に、不倫相手とイチャイチャチュッチュッできるための庭園です。
またアントワネットは仮面舞踏会も大のお気に入りだったようです。
公妃の顔から逃げて、仮面をかぶって、匿名の人間に変身して、自分だけの人生を無責任に謳歌したいという欲望がそこにはあったのでしょう。
つまり彼女は公人であるにもかかわらず、私事にかまけて公事をおろそかにしたわけで、その無責任な人生の行き着く先が、周知のごとく、ギロチンだったわけで、「ざまあみろ」としか言いようがありません。

みんながみんなを監視する社会で

さて民主主義の時代になって、さらにネットの時代となって、誰もが公民となって、そして誰もが世界の中心となって、見られる対象になりました。
見られるストレスに耐えられない凡人は、小市民的道徳を内面化するか、あるいはウソをつくことを強いられます。

その一方で、ストレスフルな時代に対する怨嗟は、小市民的道徳の違反に対する過度なバッシングへと向かい、小さな迷惑がいちいち訴追されるようになり、かくしてひとは些細な不快にすら耐えられなくなりました。そしてすぐにキレるひとが増えた。

でも、なんか、みなさん、方向性、間違えていない?
というのが、僕の素朴な感想です。

ストレス軽減策

そもそも悪いのは、小市民的道徳そのものというよりは、その厳格化です。
「弱者に優しくしよう」というNHK的道徳が間違えているのではなく、「弱者に優しくない人間はバッシングしてもかまわない」という道徳の厳罰化が間違えているのです。

ところで道徳の厳罰化を促しているのは、道徳しかウリがない凡人が、道徳をウリにして自己卓越化をはかろうとするからです。
結局、背景にあるのは、他人よりも優越したいという、凡人の劣等感なわけです。
でも自分で自分を道徳という鎖で縛ることで、他者に優越するって、非生産的だとは思いませんか。

もしも人間の生産性と可能性を拡大していきたいのなら、もしも世界を寛容で自由なものにしていきたいのなら、小市民的道徳の締めつけを緩くしていく方向に、舵を取っていくべきではないかしらん。

生きやすい空間とは、迷惑・不快・ゴミがゼロの完璧なまでに潔癖な空間ではなく、瑣末な迷惑・不快・ゴミには寛容でいられる空間ではないのかなあ。

女のひとが、同じバスに乗り合わせたイケメンくんを、情欲の眼差しで眺めて桃色吐息をもらすことくらいは許してあげようよ。
でも「アタシと付き合わなければ殺してやる」と泣き叫ぶのは、やっぱりおかしいでしょう、ってお話でした。(なんか身も蓋もないマトメだな。)

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