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セルジュ・ゲンズブールが好き!



セルジュ・ゲンズブール(1928-1991年)が好きなひとは、とりわけ生真面目で頭のかたい〈優等生〉が支配する21世紀の社会においては、貴重だと思う。なぜなら適宜にゆるく、適宜に軽く、清濁あわせ飲んだ、包容力ゆたかな人だろうから。

以下、彼の独白を創作してみた。

コンプレックス

俺、ユダヤ系じゃん。
それに、ブサイクだ。それくらい自分でわかる。
子供の頃、絵描きの父に憧れた。
俺も絵を描いたが、評判は良くなかった。
仕方がないので銭のため、しぶしぶ歌を作った。ポップスだ。めちゃくちゃ売れた。
セレブになって、ふつうの男なら高嶺の花の美女たちからチヤホヤされた。

すると奇妙なことに、劣等感が反転して優越感にかわる。
どんなもんだと。すげえだろと。
でも俺がほんとうに望むことは、俺の絵が売れることなのさ。

大衆のおかげで銭を稼いでセレブになれたのに、実を言えば俺はその大衆てやつが嫌いだ。
「嫌い」てのは、ちょっと違うかもしれない。
ただ大衆に、ほんとうの俺を分かってもらいたいんだ。
どうせ分かりゃあしないだろうが。

そんなふうにウジウジした俺だから、なんの屈託もなく大衆からチヤホヤされる、若くて明るくて健康的なアイドルが、気に入らないのさ。こいつら、どうせ俺の苦しみなんて、分からない。絶対、永遠に分からない。そう思う。
だから悪戯をしかける。
フランス・ギャルのような、愛らしい金髪娘に「アニーとボンボンLes Sucettes」のような卑猥な歌を歌わせる。

彼女の歌を聴き、煙草をふかし、ニヤッとし、けれどもすぐに自己嫌悪して、ふくれつらをする。
所詮、この程度のバカバカしい悪戯しかできない、不良中年。それが俺だ。みじめだ。いじけるね。

どうせおまえらみんな、犬みたいな臭いをしていやがるくせに。

やさしさ?

俺は他人からやさしくされてこなかった。
だからやさしさがなんだかわからない。
べつに、そんなもん、いらなくないか?

素直にはなれないね。
人間というものの多面性を知っているから。
ひとは誰かを愛するその裏で、誰かを憎んでいる。
フランスを愛する真面目なひとたちは、俺が国歌「ラ・マルセイエーズ」をレゲエ風に茶化した「祖国の子供たちへAux armes et caetera」を作ると、俺を憎悪して脅迫状を送る。
ま、そんなもんだ。

挑発的だって?いいじゃないか。
世の中、オモテがあればウラがあることを学びなよ。
挑発というのは、硬直化した思考を破壊する鋭さを持っているんだよ。

素直だなんて下らない。
ふつう、気恥ずかしくて、素直に「好きだ」なんて言えないだろう?「好き」てさ、自分の弱点じゃあないか。
だから好きなものを敢えてけなして、自分の本心を隠す。
たとえ最愛の、自分の娘だとしても。
だから「レモン・インセストLemon Incest」を書いた。
近親相姦の歌だって?そう思いたければ、勝手にそう思えよ。


ポップス

ポップスてさ、たかがたったの三分なんだよ。
そのときちょっと耳に心地よい、それだけのことなんだよ。
どうせすぐに忘れ去られるのさ。

それより誰か、俺の描いた絵を、どう思う?
なんだよ。無言かよ。痛いぜ。

だから俺と同い年の手塚治虫さんのアニソンじゃないけど、学校が好き好き好きとか、勉強が好き好きとか、お掃除、好き好き好きとか、そんな奴が俺の曲をいっぺん聴いたら、「びっくりしてひっくりかえってドインてなことになってしまう(カモネ)」。

そうだ!
ゴールデンウィークに、けだるく、だらあと暇をつぶす君たちに、この曲を贈ろう!
不条理な世の中だろ。発狂したくないなら、自分も世の中に合わせてふざけたふうに生きたほうがいい。だから、できれば酒と煙草と一緒に聴いておくれ。そしてできれば愛するひとと。

これは愛の歌なんだ。俺は女優とデュエットしたんだよ。ええと、誰だったかな。ええと、カトリーヌ・ドヌーブとか言ったかな。

神様が出てくるんだ。
俺はその道にはちょっとは詳しいんだぜ。
地上が地獄だと思う連中は誰でも、死んだら天国しか行くとこはないって。

神様はハバナ煙草がお好きDieu fumeur de havanes

※1番と4番だけを訳してみました。

Dieu est un fumeur de havanes, je vois ses nuages gris
(神様はハバナ煙草を吸う。俺には彼のグレーの雲が見えるのさ)
Je sais qu'il fume même la nuit, comme moi, ma chérie
(俺は彼が夜でも吸うことを知っているんだ。俺と同じなんだ。なあ)

Tu n'es qu'un fumeur de gitanes, je vois tes volutes bleues
(あなたはジタンを吸うだけでしょ。あなたの青いうずまきの煙が)
Me faire parfois venir les larmes aux yeux
(ときにわたしを涙ぐませるわ)
Tu es mon maître après Dieu
(あなたは神様の次の、わたしの御主人さま)

Dieu est un fumeur de havanes, tout près de toi, loin de Lui
(神様はハバナ煙草を吸う。君のすぐそばでだ、でも神様からは遠くでだ)
J'aimerais te garder toute ma vie, comprends-moi, ma Chérie
(生涯、君を放したくないんだ。わかってくれよ。なあ)

Tu n'es qu'un fumeur de gitanes et la dernière, je veux
(あなたはジタンを吸うだけでしょ。その最後の一本が)
La voir briller au fond de mes yeux, aime-moi, nom de Dieu
(わたしの目の奥で輝くのを見たいわ。ねえ、もういいかげん、抱いてよ、ああ。)

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