花火大会の有料化は群衆事故対策だって朝日新聞や東京新聞に書いてあるじゃん

昨今の花火大会有料化について、朝日新聞や東京新聞を読んでいると自称していそうな人たちの間で「格差の象徴!」的に扱って盛り上がる風潮が見られた。

ただし、こういった花火大会有料化の動きは、「金を払った人にしか見せないぞ」という意地悪ではなく、単純に安全対策のために流入客を減らしたいという目的であることが既に何度も報じられている。

「花火を見えなくするフェンスを設置したのは、道路に人があふれて民家やマンションに不法に侵入して花火を見る人がいることや、事故でけがをしたり熱中症になったりする人の搬送で救急車が通れるようにすることもあります。自治会の要望はありましたが、安全優先を考えますと、フェンスをなくすことはできませんでした」

2017年から設置「びわ湖大花火大会」の目隠しフェンス、なぜ物議に? ライブドアニュース 2023年8月9日

びわ湖大花火大会については地元民が解説しているが、大津市の人口より多い見物客が京阪方面から押し寄せた結果、大津市の公共交通・ホテルなどのキャパシティを超えかねない段階に来ているのでどうにかして見物客の数を絞らざるを得ないのが実情だという(なおそのあたりのキャパシティを拡充したいなら当然金が要る)。加えて、地元民からすると「花火が見られないのに民家やマンションに不法に侵入してくるアホが耐えないのでデメリットしかない」ということになり、いっそのことやめちまえという論調になっているのがテレビ報道された、ということのようである。

花火大会有料化は全国的な流れだが、いずれも安全対策で流入客を減らす・警備員を増やす目的が大きいということは新聞でも報じられている。

29日夜に隅田川花火大会(東京)が開かれるなど、花火大会がシーズン真っ盛り。ただ、コロナ禍での中止を経て過去最高の人出となる花火大会もあり、雑踏事故を防ぐ安全対策が大きな課題だ。警備しやすくするための手段として、有料観覧席を増やしたり、全席有料化に踏み切ったりする動きが広がっている。

花火大会、安全対策に悩み全席有料化も「事故起きれば存続危うい」朝日新聞 2023年7月29日

人が集中しすぎることが理由となっているケースも。埼玉県川越市の「小江戸川越花火大会」は市制100周年の昨年に3年ぶりに開催された。だが今年は周辺道路の混雑を理由に中止に。小江戸川越観光協会の根岸督好事務局長は「昨年の人出は1万人だったが交通渋滞がひどく、駅からバスで数キロの距離に2時間以上かかった」と話す。会場となる公園の連絡橋に人が滞留し、兵庫県明石市で起きたような転倒事故の恐れがあったという。
千葉県柏市は「手賀沼花火大会」の運営費に充てるためクラウドファンディングを実施……商工振興課の北村崇史課長は「昨年の韓国での雑踏事故などもあり、警備員の数を前回19年から1.5倍にした」と理由を説明。大会は無事、5日に開催された。

花火大会が各地でピンチ…どうして?5類移行の夏、中止や縮小次々「隅田川」100万人記録の陰で 東京新聞 2023年8月12日

朝日新聞の記事にもあるが、21世紀の日本最大の群衆事故は明石花火大会歩道橋事故であり、昨年も京都亀岡市の保津川市民花火大会で群衆事故になりかけたばかりで、今年は対策として全エリア有料化に踏み切っている。もともと群衆事故が起きやすい上に、いわゆるコロナ後の再開で来る客が多く、さらに言えばスマホで花火大会の情報が容易に検索できるためか、かつてより有名花火大会に人が集中しやすい傾向にあるように思う。加えて、昨年ソウル梨泰院雑踏事故があったばかりということもあって花火大会運営側も安全対策に躍起になっている。

この事情は普通に朝日新聞や東京新聞にも書いてあるのだが、それをスルーして格差の象徴!みたいに踊っている人たちは、まあ多分朝日新聞も東京新聞も読んでいないのだろう。さすがにまともな人は食いつきっぷりに対して訂正しようとしているがリツイート数から見ても焼け石に水という感じである。

無料サービスに人が群がってリソースを食いつぶし、本当に必要な人に行かない問題

公共政策では、無料サービスにするとあっという間にリソースが食いつぶされてしまう問題が何度も指摘されている。

例えば医療費を無料化すると、別に病院に来なくても問題ない人が多少の不安レベルで押しかけ、医療リソースを食いつぶして医療が本当に必要な人に届かないという現象が発生する。例えば医療費が無料のイギリスでは、医療リソースが簡単に食いつぶされ、風邪の診察が2週間待ち、日本なら緊急扱いになりそうな手術でも1か月待ちなどになるのが当たり前で、アクセス性の高い医療は金持ち向けの完全自費診療か国外で医療を受けるという事態になっていることは別項でも述べた。

この効果については最近日本でも子供の医療の無償化に際して研究が行われ、再現することが確認されている。

ゼロ価格効果の存在は、裏を返すと、1 回 200 円といった少額であっても、自己負担を課すことで、ゼロ価格に比べて医療需要が大幅に減ることを意味する。そこで、少額の自己負担(200 円/回)を課すと、1)どのような子どもの医療が減るか、2)どのような治療がより減るか、の検証を行った。その結果、1)に関しては、健康状態のよくない子どもが月に 1 回以上受診する割合は減らないが、比較的健康にもかかわらず頻繁に医師を訪れる子どもの受診が大幅に減る、ことがわかった。つまり、少額の自己負担は、不健康な子どもに悪影響を及ぼすことなく、比較的健康な子どもの過剰な医療需要を減らすことができると思われる。

飯塚敏晃・重岡仁「子ども医療費「タダ」の落とし穴―医療需要における「ゼロ価格効果」を確認」

日本でも高齢者の医療保険の自己負担率の上昇については、今のままでは「比較的健康にもかかわらず頻繁に医師を訪れる」人が医療リソースを食いつぶして本当に必要な人のアクセス性が低下するので対応したいという声が大きいと思う。


京都周辺の事情

花火大会の有料化による群衆制御が必要となっているのは、大津(びわ湖)や亀岡など京都の周辺都市で目立っており、京都市民の流入が原因の可能性が高い。であれば、いっそ京都で責任取って花火大会を開いて客を分散させるのが良いだろう。例えば盆地を囲む山に寺社にちなんだ花火を打ち上げるのはどうだろう。花火が寺社の火災のリスクである場合は、地上でかがり火を焚いてその代用としても良いかもしれない。

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