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部下の人々がすごい良い製品を作っていたので、デザインの変遷を聞いた

源流の旅、と題したのは最大のポイントとなる木材のルーツを見ておこうという趣旨だった。しかし北東北での伐採と製材を見て、この材料を使ってどういう製品に仕上げっていくのか、加工工程を経ないとフェアじゃないと感じた。
特に目当てであった木材が実は単独では成立しておらず、金属との融合によって命が吹き込まれるという感覚があったので、中部地方の旅を急遽加えた。
最後はショールームに設置された場面だけをできるだけきれいに撮って締めにしようと思っていたが、搬入・組み立てがこれまでの工程と密接に関係しており、この最後の工程こそが集大成だと思ったので、東京編を急遽作った。

これで終わりであったが、さらに一本追加して最後にする事にした。ここまで案内役として旅に同行した部下とは別に、意匠を担当した部下の話を入れておこうと思ったのだ。
木材が木材だけで完結せず金属との結びつきで重要パーツになったのと同じく、製品はそれぞれのパーツの組み合わせだけで完結するものではなく、美しく造形するためのデザインが施されて製品となる。
普通の話だ。

デザインを決定する会議で、この部下が説明していたところに私も同席していた。正確にはWebで傍聴参加だった。聞いていて、おっと思ったのを覚えている。この部下はコミュニケーション力が高く、開発チームの雰囲気を作り出す事に長けた人材だった。これまでの作品でもその能力は発揮されており、誰とでもうまく仕事ができる、いいヤツだ。

しかし、デザイナーとして大成してもらうためにはコミュニケーション能力も必要だが、その製品に関するデザインの本質論も自分のものにしておいてほしい、と何度か説教していた。つまり目の前の造形という具象だけではなく、抽象論にも強くなってくれという意味だ。私自身がデザインの実務をやってきているわけではないので、偉そうな説教を垂れることは滑稽なのだが、論理性と審美性の狭間で苦悩することが多いデザイナー業、特にインハウスのデザイナーにとっては、この抽象論・本質力は絶対武器になる。説得力が全然違ってくるからだ。

「デザイナーとして私は何を考え、何を感じたからこの造形を生み出した」を強い言葉で語る力はクライアント、上司、経営者、を魅了する。そして何よりその言葉が表している本質が製品に滲み出てきて、使う人を魅了する事になる、と思うのだが。

前述の会議の時のこの部下の説明にはその萌芽を感じたのだ。シリーズを締めくくるために、これまで見てきた外部の工場のヒトビトの努力がどういう文脈のデザインで最終的な造形に至っているのかを表現しておこうと思った。

オーラを放つ成熟したデザイナーが語る言葉には全然およばないが、インハウスのデザイナーであっても何を考え、何を悩み、どこでヒラメキを得たのか、の話はリスペクトを持って聞くべきだと思った。

まぁどちらかといえばこっぱずかしい話なのだが、私はデザイナーが一皮むける作品を生み出す瞬間に立ち会った気がしたので嬉しい。



ーーー以下動画の内容ーーーー

源流を辿る長い旅を終えた今、最終回では造形の苦悩を振り返ってみました。インハウスのデザイナーと開発設計陣が困難に向き合いながら、これしかない、という造形を見つけ出します。クリエータは「降りてきた瞬間」を実感することが大事。 後日談的な今回のエピソードでこの旅は完結です。 長い旅にご一緒いただいてありがとうございました。
00:00 オープニング
00:08 迷える画の変遷
00:30 これなんですよ、この写真
00:50 構造物萌えだね
01:30 橋から学んだこと〜設計の苦労
02:00 ユレとの戦い
02:18 緊張感とバランスと美しさと
02:46 モチーフというだけじゃなくて
03:31 橋リスペクトとネーミングの話
03:45 旅行記

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