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最後のレンズ

先日出かけたウィーンで、一世一代の大きな買い物をしました。

それはレンズ。写真を撮るためのレンズです。こう書くと「なんのこっちゃ」と思う方も少なからずいると思うのですが、Leitzの古いレンズはモノによっては資産としてカウントしても良いくらいの値がついていたりするのです(もちろん新製品のレンズも笑えないほど高いのですが)。今回買ったのは、そのLeitzの古いレンズの中でも最も人気がある(=相場も高い)と言われているSummicron 35mm。通称「8枚玉」と呼ばれているレンズです。この分野に興味はない人がこれを読めば、ここで「へー」で終わってしまうに違いないのですが、おそらくLeica userの少なからずが「おっ」と思うであろうレンズなのです。今回はこの件について書こうと思います。

一度あきらめたレンズ

実はこのレンズ、かつて一度使ってみたいと思ったものの、諸処の理由から一度あきらめたレンズでもあります。この時はSummaron 35mm F2.8を購入しました。このレンズも非常に気に入りその後頻繁に使うようになったのですが、なんだかんだ言っても画角35mmが最も好きな私の頭に、Summicronというレンズが変わらず居座り続けていたようです。

購入の契機

それから約4年半の時を経て今回購入に至った最大の理由は、ちょうどウィーンへの旅行を予定していた時に、たまたま長年お世話になっているウィーンの中古カメラ店から、何とかやり繰りできそうな価格でこのレンズが出品されていたからです。これも何かの縁かもしれないと、夫に相談した上で一気に機材整理して購入することに決めました。この件に関しては、後悔はしていません。なぜなら、今回手放したレンズやアクセサリー類はいずれもここ2〜3年使用頻度が著しく低く、使わずに放置していたらカビを生やしてしまうのではないかと、保管には常に細心の注意を払っていたからです。正直なところ「手放して良かった、ホッとした」と、ガラガラになったカメラ・レンズ置き場を見ながらそう思いました。

テスト撮影

さて、問題のSummicronの写りですが、こればかりは撮影して現像・スキャンし、画像を見てみるまで分かりません。旅行中は、近景・遠景・明るい場所・暗い場所・前ボケを確認できるような構図などなど、実に様々な条件のもとで試し撮りしてみました。撮りながら「もしこのレンズと相性が悪かったらどうしようなど」と考えたりしました。しかも、旅先でこのレンズについて調べていたら、以下のような記述を目にしたので、更に落ち着かなくなりました。

「このレンズ [Summicron 35mm 第1世代] ですが、時々性能的に?というレンズを目にすることがあります。弊社のお客様からもごく最近も相談をうけたのですが、それは外観は新品のように綺麗なのに、無限遠ではなんとなくもやっとした写りで、最短距離付近ではあきらかにピンボケのレンズだそうです。そうした描写が変なレンズは、あきらかに製造後にどこかでいじられてしまい、性能が劣化してしまっています。」(2024年4月29日閲覧・引用、[  ]内は著者の補足)

(ハヤタ・カメララボ: https://www.hayatacamera.co.jp/monthlyphoto/201401/)

読んだ時には「うわー」と思いました。店頭ではレンズの状態についてこそ慎重に確認しましたが、デジタルカメラを借りて試し撮りすることまではしていません。信頼のおけるカメラ店であることは確実なのですが、やはり不安は不安です。そこで、家に変えるや否や、疲れを押してまずは1本、現像・スキャンしてみることにしました。

第一印象

最初に現像・スキャンしたフィルムの画像を見る限り、どうやらこのレンズの性能には問題なさそうです。ようやく胸を撫で下ろしました。

試し撮りの時に一番気になっていたのは、光源の写りかたでした。球面Summiluxのように光が斜めに流れてしまう妙な癖はないようです。また、開放値2と2.8の差は数値にすれば僅かですが、暗い場所で撮ることが多い私には、非常に大きいと思いました。増感前提で撮影すれば、大抵の場所では無理なく撮影することができそうです。まだウィーンで撮影した写真のほんの一部しか見ていませんが、様々な点で球面SummiluxとSummaron F2.8の中間に位置するという印象を抱きました。
私が長年使い続けることになるレンズ。それは、必ず最初に撮ったフィルム1本の中に「あ、これはいいな、好きだな」という写真が含まれているレンズです。逆にそうでないレンズは、1年も経たないうちに確実に手放しています。この経験を踏まえれば、Summicron 35mmとは今後長く付き合うことになりそうです。

最後のレンズ

思い切って大幅な機材整理して、このレンズを手に入れて本当に良かったと思っています。ただし、この買い物は、私には不相応の、人生始まって以来最高額の買い物であることには変わりはありません。ですから、Leitzのレンズの売った買ったはもうこれで本当にお終い。この投稿にも自分への戒めも込めて「最後のレンズ」というタイトルをつけました。

後記

この記事を書いた翌日、もう一度読み返してみました。すると、思いついたことを思いついた順に脈絡もなく書き綴っており、書いていた時の自分の混乱した具合がワラワラと伝わってくるような状態です。そこで、改めて小見出しをつけ、記述内容を若干入れ替え整理しました。人生最大の買い物について書いていた私は、どうやら正常心を失っていたようです。現在も相変わらずソワソワしているようで、今日も、朝起きると最初に机の上のM2についているレンズが本当にSummicron 35mmかどうか確認しました。やはりLeicaはただの写真を撮るための道具ではなく、魔物が潜んでいるような気がします。
私は中判で写真を始めました。今でも残しておきたいと思う写真には、圧倒的にRolleiflexで撮ったもののほうが多いのです。それでも、大枚叩いて古いLeitzのレンズを買ってしまう。それは、たぶん、意中のLeitzのレンズを買えば、それと一緒に何か形にならない素晴らしいものを手に入れることが出来るからかもしれません。希望とか夢とか。文字にすると陳腐に響いてしまうのですが。