サービスをマネジメントする 物作り大国の弱点

モノからコトなどという言葉が聞かれるようになってから随分経ちます。似たような話で経験価値や「サービスを売る」といった言葉も聞かれます。
しかしどうにもピンと来ないというか、言葉に重みを感じません。そんな中、なぜ日本のサービスは問題があるのか、最近感じていることについて記したいと思います。

1.いまだに残るサービスの勘違い
これは普段の講義などでよく話す内容ですが、サービスとは何かという質問をします。

例によって、サービスは辞書では以下のようにあります。
[1] 人のために力を尽くすこと。奉仕。「休日は家族に―する」
[2] 商売で、客をもてなすこと。また、顧客のためになされる種々の奉仕。「―のよい店」「アフター―」
[3] 商売で、値引きしたり、おまけをつけたりすること。「買ってくだされば―しますよ」
[4] 運輸・通信・商業など、物質的財貨を生産する過程以外で機能する労働。用役。役務。
                             (大辞泉)

この説明を見ても最初の3つは一般的に使うサービス、おまけするとか安くするとか、説明の中に「奉仕」という言葉がありす。最後の意味のみはいわゆるサービス業についての説明になっていますから、致し方ないのかもしれません。
ちなみに「service」を調べると「discount」の意味はありません。

余談ですが、言葉の意味を調べるとき、外来語については、元の英単語の意味も調べることを勧めます。日本で定着した、特にビジネス用語などは、ニュアンスが異なることがしばしばありますので。これについては、違う機会に詳しく記したいと思います。

話を戻して。

講義では、サービスとは本来、技能や行為を提供することであると説明しています。テニスやバレーボールては、サービスがあって初めて試合が始まります。つまりその人の果たすべき役割をしっかり努めることです。

2.サービスをマネジメントする
僕がサービスマネジメントという言葉を初めて聞いたのは、1998だったと記憶しています。交通経済学の研究会でのことでした。
さて経済学では、サービスをコアサービスとフリルサービスに分けます。
コアサービスとは、その業務が提供すべき効用そのものを指します。例えば交通機関で言えば「移動」そのものです。指定された出発地点から目的地に、指定された時間に、事故なく確実に到着することです。
フリルサービスとは、快適性や楽しさなどといった、市場競争での差別化を図るためのものです。
サービス業の場合、よほど品質に差がない限りコアサービスの品質で差別化を図ることが難しく、フリルサービスで顧客満足を得ようとすることが多くなります。しかし同時にフリルサービスはコストを大幅に引き上げます。またフリルサービスは多くの場合、模倣可能性が高く、実は差別化の決め手にはなりづらいのが一般的です。
歴史的に見るとどの産業でも過剰なフリルサービスがコストを圧迫すると共に、顧客に高額な請求をせざるを得なくなりました。そこに低価格の競合他社が参入すると、一気に価格競争に突入し、瞬く間に過剰競争に陥り、資本力の小さな企業から脱落していきました。

これは文字通り市場運動の法則であり覆すことはできません。

つまり市場競争を勝ち抜くためには、コアサービスのマネジメントをしっかりとしながら、差別化要因を構築する必要があります。この考え方がサービスマネジメントです。

3.サービスの品質とは
タイトルでも述べた通り、日本は物づくり大国です。この考え方はあらゆる産業に定着しています。僕は、実はこのことが、我が国のサービス産業に致命的な欠点をもたらしたと考えています。

特に中小・零細企業のホームページなどを見ると、「親切丁寧」とか「真面目」「堅実」「確実」「安心」などという、日本人の美徳を打ち出すような言葉を目にすることがありますが、、、正直に言ってうんざりしてしまいます。
どの言葉もあまりにも当たり前のことで、何一つ品質や特徴を表していません。考えてみて下さい。もし逆の言葉が書いてあったら、、、「不親切」「雑」「不真面目」「適当」「不安」と、そんなことを言ったら確実に怒られてしまいます。

僕は、これらは物づくりの考え方の弊害だと考えます。
つまり職人気質で真面目にコツコツなどということが美徳とされることから、場合によっては自己満足になりかねません。
僕は松下幸之助氏は、経営の神様ではなく(本人も否定しています)顧客満足度の神様だと思っています。おそらく上述のようなことを嫌うのではにいでしょうか。

さて、このような視点でサービス業を見ると、やはり製造業の考え方でサービスの品質を捉えているように思われてなりません。そこで僕は「サービスマン思考」という言葉で説明するようにしています。その理由は以下の通りです。

日本のサービス業の多くは、「作業品質」に気を使っていますが、「サービス品質」を蔑ろにしているように感じることがあります。つまり製造業の品質を全ての品質と考えているということです。
サービスマンにとって、作業品質が最高であることは前提条件であって、努力すべきことではありません。むしろ、最高の作業品質を基に、サービス品質を向上させる努力をしています。ところが日本のサービス業の多くは、作業品質に拘るまあり、サービス品質を蔑ろにして、自己満足の品質になっているように感じるのです。

僕は経営指導を行うなかで、ある提案を実行して頂いています。

それはサービス業の経営者の方に、サービスにお金を払う認識を持ってもらうことです。

具体的には、サービス業の経営者の方に、最低次に2回以上、その都市の高級のホテルラウンジで、お茶を飲む時間をもうけることです。
指示としては、そこでコーヒーで構いませんので、ゆっくり味わい、本を読むという宿題を行ってもらいます。
安い居酒屋なら1,500円もあれば十分楽しめるでしょう。しかしサービス業だからこそ、同じ金額のコーヒーとサービス、そしてそこで過ごす時間の豊かさを体感しないと、本当のサービスを提供できないと考えたからです。

もっと端的に言うなら、サービスにお金を払って満足する感覚がない人は、人にサービスを提供できるわけがないからです。こうしてサービスの本質を理解して頂いた方は、例えば形だけの戦略やブランディングといった、即時的な考えに偏らなくなります。

サービスを理解し、本来の顧客満足を実現すること。そこから満足を得ること。

サービスとは、顧客満足度の同義語であるはずなのです。

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