今日ご紹介する本は、フランス人のノーベル文学賞受賞作家アニー・エルノー(Annie Ernaux)氏の小説、『シンプルな情熱』(原題は『Passion simple』)。
私の読んだのは、冒頭の写真のハヤカワepi文庫版。堀茂樹氏の訳によるものだ。
1991年に発表された作者の自伝的作品で、自身と不倫関係にあった既婚の年下男性との関係や、自身の愛情や気持ちの変化について赤裸々に告白し、大反響を呼んだ作品だ。2020年に映画化もされている。
この作品は、禁断の恋に身も心も支配されてしまった女性の心理をとてもよく描いている。賛否両論があったようだが、私にとっては、紛れもない名作だ。
以下、いくつか特に心に残った箇所を引用しておく(以下ネタバレご注意ください)。
主人公の「私」(作者)は、東欧の外交官をしていた既婚の年下の男と恋愛関係になり、彼が時々通ってくるのを待つ日々を送る。気が付けば、いつも愛する男のことばかりを考えてしまう。それ以外のことに、何ら集中できなくなる。
どうしようもなく、やるせない情熱。狂気と紙一重であり、ストーカーと言われてもおかしくない行動をも取ってしまいそうになる。恋をしたことのある女性ならば(あるいは男性も)、誰でもこういった気持ちに感情移入してしまうのではなかろうか。
そして、男が本国に帰国してしまうと、作者は、やり場のない感情とともに日々を過ごしていった。長い音信不通期間を経て、ある日突然、一度だけ男が帰ってきて、一夜をともにした。そのとき、作者は、男が、自分が想い続けてきた男とは別人のようであると感じた。
相手との距離感が変わることにより、感情に変化が生まれるというのも、多くの人が経験したことがあるのではないだろうか。
「私」が一人称で自分事として語っているのだが、もどかしさや、感情の移り変わる様子は、まるで自分が当事者であるかのように、リアルに迫ってきた。そして、誰かを愛するパッションが人生においてとても貴重で贅沢なことである、というフレーズにも大いに共感した。作者の文章力に、ただただ脱帽だ。
ところで、本書の最後には、女優の斉藤由貴さんの解説が収録されていた。これが、とても秀逸だった。失礼ながら、斉藤さんの文章がお上手であることに驚いた。斉藤さんについては、『スケバン刑事』のイメージしか持っていなかったが、文筆家として作品を発表されていると知った。いつか斉藤さんの作品も読んでみたいと思う。
ご参考になれば幸いです!
本作品を映画化したものはこちら。DVDのほか、Amazon Prime Videoでも観られます。
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