【5/25まで期間限定・試し読み③ 『汚穢のリズム』】原口剛「嗅ぎわける──嗅覚の地理」
横浜・寿町にて もう二〇年ほど前のことだろうか。はじめて横浜のドヤ街・寿町をおとずれたときの経験を思い出す。関内駅に着いたころには、とっくに日は暮れていた。なじみだった大阪の釜ヶ崎が新今宮駅の目の前に広がるのとはちがって、寿町は関内駅からやや離れた場所にある。頭に入れておいた地図をたよりに歩き出したものの、ドヤ街にたどり着けそうな気配がない。さすがに不安になりはじめ、地図を広げて確かめようかと思い始めたとき、なじみのにおいがうっすら漂っているのを感じ取った。釜ヶ崎や山谷の街に