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江戸の健康観と〝こんにゃくえんま〟

東京都文京区にある源覚寺。
このお寺に安置されている
「閻魔王木造坐像」のことを
〝こんにゃくえんま〟といいます。

西洋医学による医療が庶民に広まる以前は、
庶民が病気や流行り病にかかったときには霊験高い神仏やその護符、霊水などに救いを求めるケースがほとんどだったそうです。

そんな時代、〝こんにゃくえんま〟は、眼病をわずらう人々の信仰を集めた、やさしい閻魔様なのです。

えっ、「閻魔さまが、なんで、やさしいの」って?
それは、この続きを読んでからの、お楽しみ(^O^)/

高層マンションやビルが建ちならぶ一画にある源覚寺「こんにゃくえんま」

古代からあった「未病を治す」

古代の日本には、いまのような医療技術も、制度もありませんでした。

ただし、5世紀(古墳時代)にはすでに中国大陸から『黄帝内経素問』(中国最古の医学書であり、現代も東洋医学をまなぶ人々のバイブルとされる書物)がもたらされ、

「未病を治す」
という考え方が日本に伝わっていたのではないかと考えられています。

また、古事記のなかに「因幡の白うさぎ」(大国主命伝説)があることを考えると、

『黄帝内経素問』が大陸から伝わる以前から、薬草の利用など医療の知識を持つ人が存在したことは想像に難くありません。

ただ、そうした医療を受けられるのは、支配階級に属する人々に限られていたのです。

閻魔様がこの世で生きる庶民を救った‼

日本人が健康を意識しはじめたのは
江戸中期以降だろうと考えられています。
この頃、健康管理と身心のケアについて書かれた養生書が数多く出回ったのだそうです。

その代表が、今も読み継がれる、貝原益軒『養生訓』です。

とは言うものの、こうした健康に関する知識を持っていたり、
当時の医療従事者から医療サービスを受けることができたのは、
経済的に豊かな町人や地主さんなど、ごく一部の庶民でした。

大多数の庶民は、薬師如来や牛頭天皇などの神仏であったり、疱瘡神、護符、まじないなどによって、自分や大切な人の健康を守ろうとしてきたのです。

そのように言うと、「昔の人たちは、病に対して太刀打ちする術を持たない、小さくて無力な存在であるかのように思われがちなのですが、

いいえ、先人たちは、そんな無力な存在では決してありません。

神仏などに拝まずににはいられない状態が現れたときに、
先人たちは、ただ手をこまねいていたのではなくて、

自分たちに救いの手を差し伸べる〝存在〟がいる。

そのような、ある意味、自分たちに都合のよい世界を先人たちは創造していたのです。

たとえば、東京都文京区にある、源覚寺。

このお寺にある閻魔王木造坐像は、
親しみを込めて〝こんにゃくえんま〟と呼ばれているのですが、

この閻魔様が、その一例ではないかな、って
あたしは思うのです。

山のように積み重ねられたこんにゃくは〝こんにゃくえんま〟へのお供えもの
「こんにゃく」と困厄をかけて、厄難消除の祈願する
〝こんにゃくえんま〟の絵馬(左)。
右は、毘沙門天の絵馬。

眼病をわずらうおばあさんの身代わりになった、やさしい閻魔様

〝こんにゃくえんま〟の像は鎌倉時代に作られたものなんだそうですが、

当時はまだ〝こんにゃくえんま〟と呼ばれていなかったんです。

呼ばれるようになったのは、
江戸後期の、宝暦の頃(1751年~)。

その頃、江戸の町に、眼病を患う一人のおばあさんがいました。

おばあさんは、自分が大好きな
こんにゃくを絶ち、そして、
源覚寺にやってきては
眼病の平癒を一心に祈願するんです。

やがて迎えた満願の夜。

おばあさんは夢を見ます。

夢のなかに、閻魔様が現れて
「私の眼の、片方をえぐりとって、あなたに与えよう」
そう告げたのだそうです。

閻魔様から眼をもらったおばあさんは、
「旧にまさって視力を回復した」と。

源覚寺の〝こんにゃくえんま〟の縁起には
そのように記されています。

以来、〝こんにゃくえんま〟は
「身代わりえんま」とも呼ばれ、
眼病をわずらう人々の信仰を集めます。

そして、「こんにゃく」は、
「困厄(苦しみ・わざわい)」にも通じることから、

困厄をのがれたい!
そう願う人々に救いの手を差し伸べるように。

食品のこんにゃくをお供えして
閻魔さまに身代わりを祈願する人びとが、
今も後を絶たないのだそうです。

庶民の信仰に見る
したたかな生命力の発露

この、“こんにゃくえんま”以外にも
いろんな信仰、まじない、その他もろもろあるのですが

昔から“こんにゃくえんま”が気になって仕方がありませんでした。

何十年か越しではじめて参拝に行き

そこで、縁起とか、いろんな話を聞いて、
あたし Σ(・ω・ノ)ノ!
あらためてビックリしてしまったんです。

だって、自分の眼をくりぬいて、
おばあさんにあげてしまったんですよ、
閻魔さま‼ 

おばあさんは、こんにゃく絶ちをしただけなんです。

割に合わない、というか・・・。

それでも、自分に都合よく、というか
やさしい閻魔様が自分たちに救いの手を
差し伸べる

そんな世界を、創造したイマジネーション。

もしかしたら、この思いの使い方こそが
奇跡の源泉なんじゃないだろうか。

いやきっとそうに違いない
と、信じている、あたしです。

境内にある「塩地蔵」は諸病平癒の御利益があるとされている。
体の具合が悪い部位に対応するところに塩を盛る。



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