記憶の博物館4

以前ラジオ番組での朗読コーナー用に書いた、エッセイと詩をミックスしたような原稿。それを元にアレンジしました。何本かずつまとめてUPしています。
今回は「カーネーション」「放課後の教室」「迷子」「待ち合わせ」の4本。

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カーネーション


 小さい子が画用紙に赤い花の絵を描いていれば、それがどんなにヘタッピイでも、ま、7割はチューリップでしょう。あれは独特の形をしているし、歌にもなってますからね。
では残り3割はといえば、それはカーネーションではないでしょうか。
 
世の中には何千何万という種類の花があります。
大人になった今だって、恥ずかしいけれど、花とその名前が一致しないものがたくさんある。こどもの頃はなおさらです。
こどもの頃、図鑑を見なくても知っている花といえば、チューリップに、ひまわり、桜、朝顔、そして、カーネーションぐらいだったかもしれない。
もちろんそれは「母の日」があったからですが。
 
カーネーションは、いい。
お絵かきしやすいところがいい。赤いクレヨンでぐしゃぐしゃと塗っていれば、それっぽく見える。
だから、あなたがまだ幼く、花屋さんでカーネーションが買えない頃でも、絵を描いてお母さんにプレゼントできた。
これがもし、「母の日には藤の花を」なんてことになっていたら、お絵かきするのも大変だったでしょうからね。
 
カーネーションは、いい。
あまり高くないところがいい。あなたが少し大きくなると、花屋さんに行ってカーネーションが買えるようになった。
むろん、一抱えもある花束ならそれなりの値段がするのでしょうが、母の日は2、3本のカーネーションで小さな花束を作ってくれた。これだったら、こどものお小遣いでも買えたから。
これがもし、「母の日にはコチョウランを」なんてことになっていたら、貯金箱をにらんで大いに悩んだでしょうからね。
 
あなたは、覚えているでしょうか。
お母さんを驚かせてあげようと、こっそり隠れてお絵かきをしたり、作文を書いたり、カーネーションを買ったり…。
兄弟がいれば、内緒で相談したり…。
あの頃のあなたは、それだけでドキドキワクワクした。
 
実は、お母さんはそんなこと、お見通しだったりするんですけどね。
だけど、とても驚いて、喜んでくれる。
だって、プレゼントのことを知っていようといまいと、嬉しいのは同じ。
いえ、プレゼントなんかなくたって、お母さんのことを思ってくれるだけで十分嬉しいんですから。
 
カーネーションは、そう珍しい花じゃない。
この季節に限らず、年中いつだって見かける。
そのたびに、あの頃の母の日のことを思い出せるから、
カーネーションは、いい。
 
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