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しもふりチューブ

 今年に入ってから、霜降り明星のYouTubeチャンネル「しもふりチューブ」を観るのが日課になっている。もちろん霜降り明星のことは知っていたけれど、彼らが王者を獲得した2018年のM-1は観ていなかったし、ふだんTVを観る人間でもないので、YouTubeのおすすめに表示されていてもスルーすることが多かった。IPPONグランプリ初登場のせいやさんを観た程度だった。

 だが久し振りに会った友達が粗品さんのフリップ芸のエモさについて力説してくれた。彼が言うなら間違いないだろうとちょっと調べてみたら、フリップ芸の出囃子はエリオをかまってちゃんの「Os-宇宙人」だという。おまけに粗品さんは東方Projectも好きなようだ。いろんなものに後押しされて粗品さんのフリップ芸を観て、そんなときにトップ画面のおすすめ動画に、しもふりチューブの「アキネイタークイズ」が上がってきた。

 仕事にあんまり気が乗らないタイミングでもあり、もともとQuizKnockのアキネイタークイズが好きだったし、アキネイターも昔よく遊んでいたし、粗品さんのフリップ芸を観たりという流れもあって軽い気持ちでクリックしてみた。そしたらまあ、ふたりとも面白いのなんのって。さすが芸人さんやなと唸った。

 ノー編集なのに中だるみが一切ない。それはもちろんトークもさることながら、リアクション、表情といった画面の使い方も秀逸。飾らない人柄も良かった。「あ、こんなに清々しくて面白い人たちなんだな」と思い、そこからしもふりチューブの過去動画を掘り返した。

 しもふりチューブが取り扱っている題材は基本的に、自分たちの好きなものや興味のあることを話したり、お互いのことをどれだけ知っているかクイズをしたり、ふたりが考案したゲームでふたりが遊んだりと、身の回りのことで完結する素朴なものばかりだ。これが毎回ちゃんと面白い。

 ふたりが面白いだけでなく、テロップツッコミも面白いので編集も一流。もちろんそのへんにはお金は掛かっているだろうが、予算を超割いて派手なことをしなくても、地がしっかりしていればこれだけエンタテインメントが作れるんだ、とあらためて思った。(わたしが言葉の笑い、そしてそれを引き立てる豊かな表情を見ているのが好きというのも大きいと思うけれど)

 これだけ売れっ子で引っ張りだこにもかかわらず、スタッフさんの支えもあって工夫しながら毎日更新しているところも素晴らしいし、観れば観るほどせいやさんも粗品さんも才能のある人であることを知る。このふたりは正反対で、お互いどこかぶっ飛んでてポンコツなところもあって、それを補い合っていることもわかってきた。お互い強く信頼し合っていることが表情から、リアクションから、言葉の端々から伝わる瞬間、あたたかい気持ちで満たされていくのも心地よかった。

 コンビで人気の出る芸人さんは、ピンでも全然やっていける力量を持っている。だけどふたりでいるほうがピンよりももっと面白い。もっと言えば、ふたりだけでいるのがいちばん面白い。

 自分たちの身ひとつで表現をする漫才師。ステージにあるのはマイク1本のみ。そんな孤高の存在だからこその佇まいに、わたしは幼い頃から魅了されてきた。どんな人をも笑いで振り向かせる人間力と、どんな人も立ち入ることができないふたりの笑いの世界。これほどまでに信頼し、尊敬できる相手と出会うことができるなんて奇跡だ。

 わたしはいろんな人に助けてもらったとはいえ、歩みをともにする仲間がいないままひとりでここまでやってきた。だからこそ、こんな相方と出会えた霜降り明星のふたりがうらやましくもあるし、心から素敵だなと思う。

 しもふりチューブを観れば観るほどふたりのキャラクターの違いもわかってくるし、しもふりチューブを観続けているからこそわかるネタもいろいろ出てきて、どんどんのめり込んでしまっている。これ、ラジオにハマるのと同じ流れですね。さすがにラジオまでハマりだすといよいよ時間がなくなるので制御してるけど……。(※結果的に4月末から聞き始めました)

 借金、ギャンブル、風俗、包茎など、踏み込みにくいところにさらっとスマートに切り込んでいくところも勇敢でいいなあと思うし、ちゃんと一方が世の中の声とか一般論を交えつつ相手の話をしっかりと受け取るというバランス感覚もさすが。話し上手は気配り上手。

 この前TVに出ている霜降り明星を観たら、しもふりチューブで観ている彼らとはちょっと違う、どこか余所行きの印象を持った。TVは番組ありきでそこでどう出演者が動くかにかかっているが、YouTubeは出演者ありきで動画が展開されていくからだろう。加えてチームの空気感の良さが動画の良さにつながっている。ラジオがリアルタイムメールやハガキ職人などリスナーとのやり取りがあってこその面白さが生まれる理論と同じだと思う。

 TVでしか得られないことがあって、YouTubeやラジオでしかできないことがある。ライブだからこその臨場感もある。メディアによって芸人さんの見える顔が違うのも、TPOに合わせつつも爪痕を残しているからに他ならない。

 自分の知らない世界を、生き生きとした自然体のふたりが、巧みな話術と表情といった表現力でもって教えてくれるしもふりチューブ。わたしの生活の彩りのひとつだ。


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