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離婚式 43

 緩慢な動作だけど。
 ゆっくりと身を起こした。
 まだ弛緩があちこちに残ってる。
 この下種な男が最後に選択するのは、暴力であろうけど。その衝動を灰になるまで焼き払わないといけない。
 補助脳だけがボクの刃だ。
 モニターに動画を流し続ける。
 16分割された痴態が、この乳房が、背中が、尻が存分に蹂躙されている様を映し出している。そのモニター内に編集アプリを立ち上げる。それぞれに音声をDLして付けていく。勿論、精一杯の抵抗をする女の声で。
 そして快楽に、悦楽に、恍惚に歪む醜悪な雄の本性をカット隙間に挟み混んでいく。それからこのビルの外観、通路、男の個室、そのどれもをつまびらかに編集していく。
 何とか上体を起こして、正面から睨み据えた。
 雄の視線は画面に釘付けになっている。そしてネット公開サイトの下書きに挿入する。あとはワンクリックで世界に流出する。
「動かないでね、私だって恥をかくのよ。一蓮托生だけど、ご生憎様。ここまでヤラれたらね、かえって度胸が座るわ」
 ボクの体液に濡れたその器官はしおれている。膝立ちで中腰になって注視しながら萎縮していく様を嘲りながら見ていた。その器官を身に付けていた時期もある。なんて不合理な器官だろう。折れた心を隠すことも出来ない。
「何が目的だ・・・」
 うわ言のように、小さく呟いた。
 両膝を立てたまま、両手をマットに置いて上体を支えてる。痺れの取れない脚は緩く開いたままだ。その、敏感に充血している部分から、ぬるりとアナルのほうへ冷たいものが涎を垂らしている。身じろぎでもすれば、また垂れる。嫌だなぁ、触りたくたくもない。
「そうね、質問に答えて欲しいのよ」
「し・・質問って」
「そうね、まずは妊娠って何なの」
「な、んだ。ビジュつよって思ってたら、お前やっぱ、コクーンかよ」
 そう。その繭という概念が判らない。
 神崎の意識と記憶を同期したとき、流れてきたのはその忌避感だった。繭とされる階層への蔑視と畏怖がある。彼は相手がヒトであるか繭であるかを常に意識していたようだ。特に容姿が整い過ぎていると、繭ではないかと探る指に躊躇があった。そうボクの肉体に。
「だ、だよなぁ、判らないよな。お前らは所詮、繭だからな」
「そう、その繭よ。その繭というのは何なの? 総人口に8%ほどいるのよね」
「いるって・・・繭は人口で数えちゃいねえ。作りもんだよ、お前は。だから有るって事だ」
 何かが鍵穴に触れた気がする。
「その証拠に、子供の頃の記憶はねえ筈だ。中学生以前の事はな」
 そう。研究棟の寮に生活していた。
 そこから各々の学校に通っていた。
 どの子も美形だった記憶から始まっている。
「親なんていねえ。人工物の肉体にAIがこしらえた意識をInstallした、紛いもんだよ、お前は」
 痛罵するその下種の顔に、再び血脈が浮かんできた。
 ぴくり、ぴくりと陰茎の角度が上がっていく。
 まだ腰が重く、はしたない脚は閉じれてない。


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