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宵闇が深くなった。 総司は階下の一室に座していた。 二階では娼妓の嬌声や喘ぎが漏れて…
黒牛の名は喜八という。 やはり百姓の出という。 丹波山中では綿花栽培が盛んで、佐治木…
胸を焦がすのは、熾火のような炎である。 灰白い中に赫灼たる炎が燃え盛っている。 「おお…
現金なものだ。 かの黒牛を尻目に、へぇへぇと楼主は低姿勢になり、掌を揉み手しつつ階上…
大門屋は老舗である。 かの店舗前に五条大通りと、この遊郭を分かつ白木の門が立つ。 外…
拍子木の澄んだ音が響く。 この妓楼ではなく、五条大通りの方からだ。 微睡を瞬時に取り…
夜更けになった。 総司は引付座敷で冷酒を置いていた。 手酌では杯も進まないが、元来が酒が好みではない。 冷めたそれをただ眺めていたが、例の若衆がおずおずと寄ってきた。この手の若衆は座敷では太鼓持ちを兼任している。愛嬌のある表情をしているが、目には遠目の色がある。付かず離れず、それが信条なのだろう。 「もう冷めてしまったが、どうだ、一献」 へっ、と額をぺしゃりと掌で叩き、きちんと膝を揃えて座る。猪口を掴んで若衆に渡して、なみなみと注いだ。 「へえ、おぉきに」と大仰な会
夜の帳が降りている。 三日月がさらに伏し目がちに天にありて、幾分は足元の助けになって…
さくりさくりと微かな足音がする。 鳶職の見習い衆の男が家路を急ぐ。 それを遠くに聞き…
花見の頃合である。 文久三年の春、京においては未だ戦火のきな臭さはまだない。 然るに…
陽は既に昇っていた。 壬生の屯所までは一里半はあろう。 街路は露に濡れていて、雨上が…
やや伏し目がちの三日月が出ていた。 下弦の三日月は娼妓の眼に似ている。 己が表情を隠…
伏見に鬼が出るという。 それを聞いたのは五条色街の二階だった。 総司が買うのは花魁大…