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伏見の鬼

13
歴史小説の短編集を集めています。
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記事一覧

伏見の鬼 13 ♯君に届かない

 宵闇が深くなった。  総司は階下の一室に座していた。  二階では娼妓の嬌声や喘ぎが漏れて…

百舌
4日前
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伏見の鬼 12

 黒牛の名は喜八という。  やはり百姓の出という。  丹波山中では綿花栽培が盛んで、佐治木…

百舌
7日前
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伏見の鬼 11

 胸を焦がすのは、熾火のような炎である。  灰白い中に赫灼たる炎が燃え盛っている。 「おお…

百舌
10日前
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伏見の鬼 10

 現金なものだ。  かの黒牛を尻目に、へぇへぇと楼主は低姿勢になり、掌を揉み手しつつ階上…

百舌
12日前
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伏見の鬼 9

 大門屋は老舗である。  かの店舗前に五条大通りと、この遊郭を分かつ白木の門が立つ。  外…

百舌
2週間前
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伏見の鬼 8

 拍子木の澄んだ音が響く。  この妓楼ではなく、五条大通りの方からだ。  微睡を瞬時に取り…

百舌
2週間前
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伏見の鬼 7

 夜更けになった。  総司は引付座敷で冷酒を置いていた。  手酌では杯も進まないが、元来が酒が好みではない。  冷めたそれをただ眺めていたが、例の若衆がおずおずと寄ってきた。この手の若衆は座敷では太鼓持ちを兼任している。愛嬌のある表情をしているが、目には遠目の色がある。付かず離れず、それが信条なのだろう。 「もう冷めてしまったが、どうだ、一献」  へっ、と額をぺしゃりと掌で叩き、きちんと膝を揃えて座る。猪口を掴んで若衆に渡して、なみなみと注いだ。 「へえ、おぉきに」と大仰な会

伏見の鬼 6

 夜の帳が降りている。  三日月がさらに伏し目がちに天にありて、幾分は足元の助けになって…

百舌
3週間前
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伏見の鬼 5

 さくりさくりと微かな足音がする。  鳶職の見習い衆の男が家路を急ぐ。  それを遠くに聞き…

百舌
3週間前
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伏見の鬼 4

 花見の頃合である。  文久三年の春、京においては未だ戦火のきな臭さはまだない。  然るに…

百舌
1か月前
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伏見の鬼 3

 陽は既に昇っていた。  壬生の屯所までは一里半はあろう。  街路は露に濡れていて、雨上が…

百舌
1か月前
17

伏見の鬼 2

 やや伏し目がちの三日月が出ていた。  下弦の三日月は娼妓の眼に似ている。  己が表情を隠…

百舌
1か月前
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伏見の鬼 1

 伏見に鬼が出るという。  それを聞いたのは五条色街の二階だった。  総司が買うのは花魁大…

百舌
1か月前
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