百舌

様々の人生を経て、現在では離島に移住してのひとり暮らし。 それでも毎日の糧に感謝して楽…

百舌

様々の人生を経て、現在では離島に移住してのひとり暮らし。 それでも毎日の糧に感謝して楽しんでおります。 教え子に手を引かれて、再び執筆することに致しました。 楽しんで頂けると幸いです。

マガジン

  • 離婚式

    離婚式という社会通念が生まれて久しい。 両家がきっぱりと縁を分つために。 その縁を切る範囲は、現代では広すぎるので。 社会のモラルとして、結婚したら離婚保険に入るのは常識になってる。 なぜなら離婚事故を起こすリスクがあるのだ。

  • 伏見の鬼

    歴史小説の短編集を集めています。

  • 長崎異聞

    橘醍醐は、女心が分からぬ。 かれは次男であり家名は告げぬ。なので長崎奉行で小役を賜る。端役である限り無聊だけは売るほどある。 時は慶応26年、徳川慶喜の治世は30年近い。 その彼がまさか異国の娘に巡りあおうとは。

  • 恋愛掌話

    ふと気晴らしに恋愛小説を書いています。

  • 餓 王 鋳金蟲篇

    紀元前十五世紀の古代インド。   このドラビィダ人が農耕と牧畜で生活している大地に、アーリア人が武力を持って侵入している時代。後のインダス川と名前を変えた七大河に戦乱が満ちている。   かつて高度な文明を駆使して大地を支配していた、神々と呼ばれた民族は天空に去った。 かつてアーリア将官だったナラ・シムは遺伝子操作を受け、蛇のDNAを注入されて独特の生態を持つ肉体に化身している。 彼はアーリア人にもドラヴィダ人にも混じることはできずに、放浪の旅を続けている。

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 遊歩道はひび割れていた。  炎熱と風雪の痕跡だろう。  石段に走る隙間から、新芽の息吹が顔を出していた。  冬枯れの遊歩道を歩き続けて、汗ばんできている。歩を止…

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 薄靄が海面を覆っている。  海風は予想外にも冷たい。  払暁が赤紫に染める天海。  黒々と横たわるあの岬の向こうに、日輪が昇る予感がする。  灯台が白濁した闇を分…

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舞桜

舞桜

 桜が散っている。
 私のロードスターは、高台のパーキングに停まっている。
 ふたり乗りのちっぽけなロードスター。
 オレンジに塗られたボディに、漆黒の布製の幌が掛かっている。
 急勾配の傾斜の途中に、巨人が指でつまんでこしらえたような平地が、虚空に向かって突き出している。そのパーキングのへりに平たく張りついている。
 仕事がかさんでいる時期には、帰宅が深夜になることも、ままある。
 エンジンの鼓

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離婚式 43

離婚式 43

 緩慢な動作だけど。
 ゆっくりと身を起こした。
 まだ弛緩があちこちに残ってる。
 この下種な男が最後に選択するのは、暴力であろうけど。その衝動を灰になるまで焼き払わないといけない。
 補助脳だけがボクの刃だ。
 モニターに動画を流し続ける。
 16分割された痴態が、この乳房が、背中が、尻が存分に蹂躙されている様を映し出している。そのモニター内に編集アプリを立ち上げる。それぞれに音声をDLして付

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郷愁のひと皿 1 ♯帰りたい場所

郷愁のひと皿 1 ♯帰りたい場所

 法事のために島を出ます。
 片道3時間弱は毎回、新作を書く時間に充てていて。ただし今日は推敲が終わってないのですけど。我ながら実に効率のいい趣味を獲得したものです。
 この旅程をFacebookで呟いていますと、旧友からランチのお誘い。
 なので佐世保港に接岸したフェリー⛴️から一路、諫早市まで下りていきます。途中で波佐見お茶🍵祭で10㎞程度は渋滞していました。

 諫早市は本明川が中央に流れ

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帰りたい場所、還りたい刻

帰りたい場所、還りたい刻

 還暦という区切りまでもう少し。
 生後すぐに母親を。
 二十歳そこそこで父親を。
 早くに失ってからの、根無し草のような生活で、アルバイトの傍らで廉価な原稿と写真ばかりで暮らしていた頃。小説家の道は細くて険しいものでした。
 まだ自分の可能性を、無自覚に確信していた時代でしたね。
 それでも家族への渇望があり、家庭を持ったのが30年も前。
 きちんとそれぞれに誕生日ケーキが用意された日々でした。

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長崎異聞 37

長崎異聞 37

 音曲が止むと、空気が固い。
 息が詰まる程、緊張がある。
 左右に五人、背後に三人か。
 この同田貫で何人を貫くか。
 橘醍醐に焦りはなく、ただ間合いのみを計っている。
 異国の声が響いた。
 その館の主らしい、その一声で堂内が凍り付いた。刺すような毒気のある視線が霧散した。手は鯉口を切りかけていた。
 醍醐は撓めていた腰を戻し、呼吸を整えた。
 眼鏡を掛けて大層顔色の悪い、老境の男が寄ってきて

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伏見の鬼 13 ♯君に届かない

伏見の鬼 13 ♯君に届かない

 宵闇が深くなった。
 総司は階下の一室に座していた。
 二階では娼妓の嬌声や喘ぎが漏れてきて、己が獣を抑えきれなくなる。
 膳には酒の癇が添えられてはいたが、手を付けずにいる。小鉢物のつまみだけを箸で掬いながら首尾を待っていた。
 階上から小刻みな足音が降りてきて、そのまますたすたと襖の前に立つ気配がする。それに、応と声を掛けた。
「で、首尾は如何であったか」
「薄雲さまから、是非ともお上がりく

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長崎異聞 36

長崎異聞 36

 憫笑が満ちている。
 意を隠して蔑んでいる。
 その空気を糊塗するように楽団が、緩い音律を奏でている。
 彼らの含み笑いには通詞は要らぬ。
 それに気づいたユーリアが殊更に会話をしてくる。その柳眉が曇っているのも、心を痛める侮言の程度が推し量れる。傷心の彼女の日本語が出るたびに、臨席の初老の男が渋面をしている。
 ふと漏れる陰口にも通詞は要らぬ。
「何、貴女が気に病むことは御座らぬ。意味は解さず

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長崎異聞 幕間

長崎異聞 幕間

 今日は資料集めです。
 長編になりがちな最近のお話。
 殊に幕末なんて資料が溢れていて、複雑怪奇な展開になるジャンルに手を出してしまって。いささか後悔しております。
 しかも悪い癖でございまして。
 私はラストを想定して書き出したりはしません。
 毎回のヒキで、ああこう書いてしまったよ。どう辻褄を合わせていこうと苦心している毎日なんです。

 しかしながら門司租借地というのは、本当に自分で書いて

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伏見の鬼 12

伏見の鬼 12

 黒牛の名は喜八という。
 やはり百姓の出という。
 丹波山中では綿花栽培が盛んで、佐治木綿と名高く、京においても広く売られてきた。
 木綿織は専ら女手の仕事であるが、其れを担いで売りに行くには屈強な男衆の役割である。喜八はその生業で京を度々往復し、都暮らしに耽溺してゆく。
 遂には酒に目が眩み、女に騙され、売上を旅籠で盗まれてしまう。その弁済から逃げたうえ、失態を恥じて郷里には帰れず、流れ流れて

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#君に届かない

#君に届かない

 遊歩道はひび割れていた。
 炎熱と風雪の痕跡だろう。
 石段に走る隙間から、新芽の息吹が顔を出していた。
 冬枯れの遊歩道を歩き続けて、汗ばんできている。歩を止めると吹き下ろす北風に意地悪を感じる。
 夜景で有名なスポットで、恋人たちが願掛けに来る場所だ。
 むしろ夜の方が賑やかかも知れない。都心から進出して来た洒落たバーガー店もとっくに閉店して、お知らせの貼り紙も色褪せている。
 展望台からは

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長崎異聞 35

長崎異聞 35

 幻の如き街である。
 夜の無い街である。
 電気カンテラが石畳の両側に並び立ち、昼間に類する程の光で埋め尽くされている。街区の建物はどれもが美麗な色彩に彩られ、堅牢な石造基礎に鋳造された窓枠にも手抜かりはない。
 馬車の客車に連座している。
 木軸に鉄輪輪がここまで跳ねるとは。背後に畳んだ幌がその度に金属質の耳障りな音を立てて、馬車は通りを駆けて行く。
 洋風軍服が窮屈ではあるが、それが正装であ

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伏見の鬼 11

伏見の鬼 11

 胸を焦がすのは、熾火のような炎である。
 灰白い中に赫灼たる炎が燃え盛っている。
「おお、総司か」と声を掛けるその人物には、幼い時からの思慕がある。そしてその腕の幼女には、固執がある。総司が淡い恋慕を重ねている女性の娘であるからだ。
 おれの妬心はどちらに起因しているのか。
 秩が彼を見つめている眼なのか、またお京の喜びの声か、或いは。
 土方歳三はもう一度お京を高くあげると、次は総司の番だなと

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長崎異聞 34

長崎異聞 34

 埠頭まで駆け寄った
 然るに、時既に遅し。
 高雄丸は曳航縄を四方に掛けられて離岸していた。
 橘醍醐に暫し遅れてユーリアが駆け込んできた。額に汗を浮かべ、激しく咳込みながら悪態を異国語でついていた。
「・・・あああ。長崎に・・どう・やって私たちは帰るのでしょうか」
 自らそれに気づき、荒い呼吸ながらそう言った。
 醍醐は虜囚の如き有様の高雄丸から、視線を外さずに慰めた。
「安堵なされ。陸続きに

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伏見の鬼 10

伏見の鬼 10

 現金なものだ。
 かの黒牛を尻目に、へぇへぇと楼主は低姿勢になり、掌を揉み手しつつ階上へ案内した。
 作りは総司の馴染みの店とは違う。
 階段も緩くゆったりとして、埃ひとつなく磨かれていた。
 四枚引きの襖においても縁は黒檀であろうか、また引手も七宝焼きらしく、白地に紅葉が描かれていた。
 鼻息荒く、楼主は声を掛けた。
「・・おいおい、当家随一のお客様や。ご挨拶をしいや」
 襖の向こうで衣擦れの

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長崎異聞 33

長崎異聞 33

 薄靄が海面を覆っている。
 海風は予想外にも冷たい。
 払暁が赤紫に染める天海。
 黒々と横たわるあの岬の向こうに、日輪が昇る予感がする。
 灯台が白濁した闇を分かつように、光軸を回転させている。
 緩く船腹を揺らしつつ、汽笛が鼓膜を裂くように響き渡る。
 その光景を高雄丸の舳先で、懐手のまま橘醍醐は見ている。
 陸に林立している光源はガス灯の群れであろうか、電気カンテラであろうか。この夜明けに

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伏見の鬼 9

伏見の鬼 9

 大門屋は老舗である。
 かの店舗前に五条大通りと、この遊郭を分かつ白木の門が立つ。
 外籠はこの門で止められ、如何な大名籠であろうと徒歩でそれを潜らなければならぬ。謂わずと知れた娼妓の門抜けを防ぐためである。
 総司は肩に隊服の羽織を引っ掛けて、懐手のままで、その構えを眺めている。件の店よりも余程商いに厳しいのか、張り見世には容色の劣る娼妓が既に居並び、艶のない嬌声をあげている。
 あら、いい男

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