かえこ


中2から中3にあがるときに、もともと通っていた小学校区に新たに中学校が新設されることになった。

それまでその小学校を卒業すると、運河の向こうの、市の中心部により近い中学校に通うことになっていた。そこにはぼくらからしたら都会っぽい子らがたくさんいて、ぼくらの小学校組の倍くらいはいて、だからクラスも9つもあった。

新しい中学校は、小学校がそのまま進級するだけの学校になり、つまらないだろうなと思った。楽しいことと引き換えに辛いこともたくさんあった、そんな二年間だったけど仕方がない。

学校が別々になるのがつまらないと思ったのは、二年生の同じクラスに好きな女の子がいたからだ。かえこ。小柄で細身で髪の毛がとても短い。目が丸くて。かわいい。

当時は校内暴力だかなんだか不良っぽいことが流行っていて、ぼくはその傍流にいた。彼女は自分のともだちとよくしゃべっていて嫌みのない、裏表のない、そんな笑顔を振り撒いていた。

いわゆる美人といわれる感じではなかったけれど、ぼくはその子のことをいつも目で追っていた。時々はしゃべることもあったけど、なにをどう話していたのやら。バス遠足で座席が前後になり、帰りの道中で彼女が振り向き様、はい、ブルーくんあげる、と一枚チューインガムを手に挟んで座席と窓の間から差し出してきた 。そんなことが幸せでいつまでも噛んでいた。

三学期の終業式の日、式も終わって、先生の話も終わって、通知表も受け取って、さあ、というときがメインだった。

誰かにそそのかされたわけではないが、ぼくはかえこを廊下に呼び出した。

なにー?と笑いながらついてくる、かえこ。えーとえーと。「もー!」えーと、かえこ、好きだったんよ。(ちょー小声)

そこからは、どうなったか、彼女が何かを言ったかも覚えていない。ごめん、といわれた記憶もない。

めちゃくちゃ緊張した。その後付き合うということもなかったけれど、今になって、あれ、初めて告白したんやんな、と今気付く。不器用を人間にしたらこうなるという見本みたいなやつだなぼくは。

卒業アルバムとかいらんかな、捨てよかなと思ってその時のお別れ文集を見て、彼女の書いたページだけ、切り取ったわ。未練がましい。

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