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報告書の角煮

キーボードを打つのが好きだ。
いわゆるタイピング、打鍵が好きだ。

とにかくなんでもいいから打鍵がしたくて、こうして文章を書いていると言っても言い過ぎではないと思う。
打鍵中毒という言葉があるかどうかは知らないが、ほとんどもうそれに近い気がしている。

気持ちがいい。
はっきり言って快感である。

うん。もう言っちゃおう!
要はあれです。ぶっちゃけ感じている!

打鍵中、おそらく脳から何らかの興奮性物質が分泌されているのではないかと思う。じゃないとこの快感の説明がつかない。

キーを打った瞬間の、指の先に伝わる「押した」感と「押された」感。
キーボードがその体で受け止め、と同時に跳ね返してくる力の粒を、指→手首→肘→肩→背中の順にビリビリと味わう、嗜好の時間。キーとの対話。悦。光&悦。

これでエンターキーなんて押そうもんなら、私ゃもう大変である。
「……ッ!!!」である。

デリートキーの連打もやばい。
そんなもの、「ちょまちょまちょまちょま…!!!」である。
お願い一回休憩させて…!のやつである。

こんな調子なので、文章を書く際はもっぱらPCから打ち込んでいる。
スマホのフリック入力では、このような至福の打鍵感を味わうことは私にとって難しい。(そもそもフリック入力ができない)

そしてこの打鍵により引き起こされるのが、タイピングミス。そう、打ち間違いである。

確認。
kakuninn。
かくにん。

仕事上、メールのやりとり等で、この言葉を何度打ち間違えてきたことか。

「~報告書を作成しましたので、内容の角煮をお願いいたします。」

角煮。
kakuni。
かくに。
おにく。

議事録の角煮。
仕様書の角煮。
マニュアルの角煮。
スケジュールの角煮。
角煮。角煮。角煮。

これまで、ありとあらゆる資料を角煮にしてきた。
むしろ私に角煮にできない資料など、もはやない。
たぶん2冊ぐらいはレシピ本が出せるし、そのレシピ本も角煮にできる。

もちろん、そのまま角煮としてお出ししたことは一度もなく、事前に誤りに気づいて訂正するのだが、厨房内ではそれはもう数多の角煮が煮込まれ、スタッフが美味しく召し上がってきた。

そんなに間違うのであれば「確認」で辞書登録をすればいいのでは?というごもっとな意見があると思う。もう本当に、ごもっともだと思う。

しかしちょっと考えてみてほしい。

たとえば仮に、「かくに」=「確認」で辞書登録をした場合、本当に「角煮」と入力したいとき、我々はどうしたらよいのだろう。

「得意料理は豚の確認です♪」という、ああちょっと近寄らんとこ、な子に思われてしまう、男女の悲しいすれ違いが起きやしないだろうか。

「豚の確認弁当」という、鶏か牛の可能性も、あるのかい??な玉手箱要素を含んだ弁当が、誤って注文されてしまう事件が起きてしまうかもしれない。

そんな角煮、私は見たくない。角煮にはいつも笑っていてほしい。

そしてやっぱり単純に、確認(kakuninn)まで、ちゃんと、打ちたい。
打ってあげたい。

最後のnnを打つときの「ダダッ!」感をしっかりとこの指たちでつま弾きたい。
ダダッ!のあとにスペースキーを親指の側面でバシッ!!とやって、エンターキーで「……ッ!!!」ってしたい。
ダダッ!の、バシッ!!で、……ッ!!!なのだ。絶頂なのだ。

こうして今日も文章を書いては、誤字脱字がないか確認(ダダッ!バシッ!!……ッ!!!)して、noteに投稿する日々なのである。


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