夏の残り香、送り火、葬い

夏の葬い
それは、真っ暗闇の海辺で花火をすること
生きているひとが誰もいないひとときに
掟を破ったぼくらは
こぞって神様から見放されたようで
その隔離された砂浜で
呼吸を、忘れるくらい、遊び尽くせる



生まれ変わったら魚になろう
その次は魚を食べる鳥になって
そのまた次は鳥を切って焼くコックになって
そのまたまた次は焼き鳥を頬張る女の子になって
最後は彼女を食べるぼくに戻ろう



ライターの火だけが絶対の
この浜では、偏見も愛も水面の底さ
産声を挙げる線香花火が
みるみるつづまり、死んでく
その姿をぼくら
笑いながら
興奮しながら
眺めては、また
遠くの、方を、見ていた



「ねぇ、夏って、作り物みたいだよね」
そのときの僕はわからなかった。
永遠とか弔いとか。まるで無関係のようなもののように、捉えていたんだ。



幽霊みたいな匂いが
夏のあいだ吐いていた嘘を
ひとひらひとひら
剥がしていくようで、怖い
露になったオレンジが
ナイフで均等に切られて
零度の夜空のお皿の上で
等間隔に浮かべられては
跡形もなく朝色に溶ける



遠くで、猫の眼
誰もがを忘れたフリを続けながら
どうでもいい恋話をバケツの中に投げ入れる
完全に消えた想いほど
上る煙は濃く、長いから
夢の中でだけ蒼く光る天体に
名前なんていらないよ
今更、枯れた花に献げるような
名前なんていらないよ



スパークする未来の
光跡をなぞる細い指
垂れて流れる
夏の、吐物と
よく似た色の朝の月

#詩 #80日目 #100日詩チャレンジ #現代詩 #自由詩 #ポエム #note文芸部

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?