Saven Satow

批評家

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日本政府の自殺対策と『転落』(2006)

日本政府の自殺対策と『転落』 Saven Satow Mar. 16, 2006 「真に重大な哲学上の問題はひとつしかない。自殺ということだ」。 アルベール・カミュ『シーシュポスの神話』  日本政府は、2005年末、今後10年間で自殺者の数を2万5000人以下とするための政策を決定している。現在日本の死因において、自殺は交通事故死以上である。日本の自殺者数は、景気低迷に伴い、98年以降、7年連続して年間3万人以上が続いている。ブッシュ政権は、2005年12月、開戦以来犠牲

    • 肉食から見る日本の食文化(2007)

      肉食から見る日本の食文化 Saven Satow Jun. 05, 2007 「いただきます」。  2007年5月22日、政府は2006年度の水産白書を閣議決定しています。それによると、家庭の魚の購入量が近く肉類と逆転する情勢にあると予想されています。従来は若年層の魚の消費量は少ないものの、年齢が上がるにつれ、魚を肉よりも好む傾向があるのです。  日本の食卓では魚離れが進んでいるのですが、欧米や中国などでは健康志向から魚の需要が拡大しています。白書は、そうした事情により

      • 東アジアの長い20世紀(2015)

        東アジアの長い20世紀 Saven Satow Jun. 16, 2015 “OH, East is East, and West is West, and never the twain shall meet, Till Earth and Sky stand presently at God’s great Judgment Seat; But there is neither East nor West, Border, nor Breed, nor Birth, W

        • 戦争法案と『クレージーだよ奇想天外』(2015)

          戦争法案と『クレージーだよ奇想天外』 Saven Satow Jul. 31, 2015 「東西南北すべて、平和という言葉を口にしながら、戦争をしているではないか!」 植木等『クレージーだよ奇想天外』  過去の映画には、後から見て、未来を予言していたと思える作品があります。その代表例は黒澤明監督の『夢』でしょう。この中の「赤富士」というエピソードは原発事故を扱っており、そこで話されるセリフはフクシマの際にも交わされたものです。公開当時必ずしも評価の高くない作品でしたが、今

        日本政府の自殺対策と『転落』(2006)

          民営化とプライマリー・バランス(2006)

          民営化とプライマリー・バランス Saven Satow Feb. 11, 2006 「大丈夫抱いてやる。俺ら高速道路の星」。 王様『高速道路の星』  カール・マルクス=フリードリヒ・エンゲルスは、『ドイツ・イデオロギー』の中で、「交通」によって歴史が変動すると述べています。彼らはこの概念を広義で用い、それは人・物・カネ・情報の移動を意味します。  しかし、日本では、将来、交通の機能を十分に果たしていない道路が歴史を変えるかもしれません。まったく採算の見通しのないまま、高

          民営化とプライマリー・バランス(2006)

          『山猫』と地の塩(2006)

          『山猫』と地の塩 Saven Satow Apr. 10, 2006 「有陰徳者必有陽報」 『淮南子』  民主党の代表選挙の際、小沢一郎候補は、映画『山猫』の科白「変わらずに生き残るためには、変わらなければならない(We must change to remain the same)」を引用して、演説を締めくくっている。彼は、以前から、最も好きな映画としてバート・ランカスターとクラウディア・カルディナーレのダンス・シーンで知られるこの作品を挙げている。『山猫』は民主党の

          『山猫』と地の塩(2006)

          自尊感情と遊び(2012)

          自尊感情と遊び Saven Satow Jul. 19, 2012 「逃げるが勝ち」。  神谷栄司京都橘大学教授編纂の『子どもは遊べなくなったのか』(2011)によると、最近、ルールの下で勝ち負けを競う遊びができない子どもたちが目につくようになっています。「遊びの根幹であるルールをめぐって、異変は起きている。遊びグループの中で比較的に力の強い子どもが、自分の負けがはっきりする直前に、負けないようにルールを勝手に変更してしまう。その結果遊びは崩壊していく。他方、種々の発達障

          自尊感情と遊び(2012)

          武者小路実篤、あるいはAnarchy in JP(3)(2004)

          第3章 竹竿を振り廻す男  武者小路自身は、病身の母の近くに住むため、一九二六年に村を離れ、村外会員となるものの、賛同者が運営を続ける。新しき村には二種類の会員がある。村の中で暮らす村内会員と理念に共鳴して外から協力する村外会員である。村外会員には会費を納めれば、誰でもなれる。木城の村は県営ダムの建設によって農地の大半が水没することになり、三九年には埼玉県入間郡毛呂山町に「東の村」が建設される。「東の村」は四八年に財団法人となり、養鶏・稲作・畑作・パン製造・陶芸・椎茸・茶の栽

          武者小路実篤、あるいはAnarchy in JP(3)(2004)

          武者小路実篤、あるいはAnarchy in JP(2)(2004)

          第2章 新しき村  武者小路は、一九一八年一一月、宮崎県児湯郡木城村大字石河内字城に「新しき村」を建設し、彼の妻を含めた一五人と共に移住する。一年目に定住したのは、三八歳の文学者の他大人一七名、子供二名である。  武者小路は、開村に先だち、七月、機関誌『新しき村』を発行し、その創刊号に掲載した『新しき村の小問答』において、新しき村について次のように述べている。 A。 君は新しき村を建てたがつてゐるさうだね。僕の弟も仲間に入りたがつてゐる。一体新しき村と云(い)ふのはどんな

          武者小路実篤、あるいはAnarchy in JP(2)(2004)

          武者小路実篤、あるいはAnarchy in JP(1)(2004)

          武者小路実篤、あるいはAnarchy in JP Saven Satow Aug. 31, 2004 さあ、俺も立ち上るかな まあ、もう少し坐っていよう 武者小路実篤『さあ俺も』 第1章 武者小路と言文一致  「個人的なトラウマとその克服の物語が政治を動かしてしまうのが9・11後の世界である」最近の小説について、島田雅彦は、舞城王太郎やモブ・ノリオ、柳美里の最新作を例に、二〇〇四年八月二六日付『朝日新聞夕刊』の「『9・11後』とは」において、次のように述べている。  毎

          武者小路実篤、あるいはAnarchy in JP(1)(2004)

          日本語と英語(2012)

          日本語と英語 Saven Satow Feb. 22, 2012 「言葉が風に種を播き、ペンが畝を起こす」。 ジェームズ・ハウエル『外国旅行の手引き』  2012年2月19日、経済連携協定(EPA)で来日し、医療機関などで働いているインドネシアとフィリピンの候補者が看護師の国家試験に臨んでいる。08年、インドネシアから104人が第一陣として入国したが、滞在期限となる昨年度までに合格したのは15人にとどまっている。最大の理由は試験問題が日本語で記されている点である。一般

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          尾崎豊伝説(2012)

          尾崎豊神話 Saven Satow Feb. 23, 2012 「音楽の世界では、大きく二つの働き方があります。作品を自ら作り表現する側、作り手を助けることでビジネスをする側。作り手を目指すといっても、ロックンロールの場合、ギターコードを三つ知っていれば曲が作れてしまう。でもその程度では100曲は書けません。自分の魂の叫びがいくら強くても、すぐに限界が来るのは冷徹な事実です。音楽表現を長く続けていくためには、継続的な訓練と学習が必要なのです」。 山下達郎  もうすぐ20年

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          現場に力を!(2012)

          現場に力を! Saven Satow Feb. 18, 2012 「現場で考え研究せよ」。 豊田喜一郎  2012年2月16日、電機大手の春闘要求が出そろう。赤字が相次ぎ、経営側は賃上げどころか、定期昇給の維持さえ見直す構えだ。  経営者側は、労働者側の貢献は認めながらも、東日本大震災やタイの洪水などの自然災害、欧州債務危機、歴史的な円高水準、デフレの長期化などを理由に今後も苦しい経営が続くと見られ、要求には応じられないとしている。また、グローバル展開をする際に、世界か

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          円高と産業の空洞化(2012)

          円高と産業の空洞化 Saven Satow Feb. 14, 2012 「言葉や文章には嘘があっても、製品には嘘がない」。 本田総一郎  歴史的な円高水準が続く中、2012年2月、日本が48年ぶりに貿易赤字に転落したと政府が発表する。東日本大震災やタイの洪水など自然災害もその一因であろうが、欧米の不景気と円高の影響が大きいと見られている。この為替レートの水準が続けば、国内から工場が消え、産業が空洞化すると主張するエコノミストもいる。  しかし、産業の空洞化は円高を主因に

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          頭括型と尾括型(2012)

          頭括型と尾括型 Saven Satow Feb. 25, 2012 「わずか一言でも下手に受け取られると、10年の功績も忘れられてしまう」。 ミシェル・ド・モンテーニュ『エセー』  明治を迎え、文学者たちは近代社会を描写するのにふさわしい書き言葉を模索する。話し言葉に立脚した新たな書き言葉を構築する言文一致には多くが参加している。さまざまな方向性があったけれども、それは次第に語尾の問題へと収斂する。最終的に、「である」が中心的な地位を占めたと言えるだろう。  「である」

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          税と社会保障の一体改革(2012)

          税と社会保障の一体改革 Saven Satow Feb. 02, 2012 「人があることを知らないと言う時、偶然そうなのではなく、巧妙に仕組まれた障壁ゆえにそうであることが多い」。 グンナー・ミュルダール  税と社会保障の一体改革は今国会の最大の課題となってしまった観がある。ところが、中身の議論に入る前に、与野党の思惑によって、政争の具と化している。確かに、この光景にはうんざりさせられる。しかし、提示される税と社会保障の一体改革が近代財政を理解した上で、作成されているの

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