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夏休み②中編|月15万円の自炊日記#126

夏瀬温泉への旅行の続き。


部屋での過ごし方

早めの夕食を終え、部屋に戻ると、義母はベッドにごろっと転がった。リラックスしてくれているようでうれしい。
野球中継を見たいというので、ベッドから見れるようにテレビの位置を変えた。
この宿は、『都わすれ』の名の通り、喧騒を忘れて、自然を楽しむ場所。でも、毎日自然に囲まれている義母にとっては、そんなのどうでもよくて、ジャイアンツが勝っているかどうかの方が重要なのだろう。

東京で生まれ、お利巧さんしかいない学校を出て、気難しい仕事に就いていると想像できないが、日本には生まれた場所からほとんど出たことが無い人もいる。義母も、秋田県から外に出たのは片手の指に入るぐらいしかないそうだ。

「さばかんなちゃんは、出張も多くて、旅行に慣れてるから」と言われたが、もともと出不精で中年クライシスを抜けたばかりの私なので決して旅行経験は多くない。
出張で地方にお邪魔する機会はあるが、海外も10年以上行っていない。でも、義母から見たら、私は”経験者”の部類に入るのだろうか。

義母より年上でも、日本全国を旅し、歌舞伎やドームでの野球観戦、オペラを愉しんでいた実母は、都会的で行動範囲の広い人なんだなと、並べてはいけないけど、比較してしまった。

私はこれからも旅行をし、たとえ分不相応でも本当に欲しいものは手に入れよう、そのために行動したい。

だって、ただでさえ思い込みが激しい性格なのに、1か所に固まっていたらますます幅がなくなる。
新しいもの、優れた人に会って、劣等感で打ちのめされたり、手に入れようともがいたり、開き直ったりしながら、私らしさを見つけたいのであって、優勝の可能性の無いチームのナイター中継では満足できない。

旅の際中は概ね義母が一方的に話し続けていたが(訛が激しいのでほとんど聞き取れない)、会話の所々、自分の息子が神経質でわがままで精神的に未熟、経済的にも生活面でも支える誰かがいないと生きてはいけないことを認識しているとつぶやいていた(かなり要約)。

「さばかんなちゃん、よろしく頼むな」

その”誰か”として、私に白羽の矢が立ったようだ。義母は息子をちゃんとわかっている。

今のところは、協力して生きていくつもりではあるが、私はお義母さんとは違うので、そのうちイヤになったら今度は逃げるかもしれない。

ご飯を残す人、残さない人

昨晩はエアコンの無い部屋で寝たせいで疲れがとれなかったが、温泉に美食、適温がキープされた快適な部屋でぐっすり寝た。

夫をはさみ、3人で川の字で寝たのだが、真ん中の人の鼾はもはや公害レベルであると、姑と嫁の見解は一致した。

朝食まで各自お風呂に入ったり、お茶を飲んだり、テレビを見たり、マイペースな人だらけなので、気を遣わなくてラクだった。

同じマイペース、おしゃべりでも実母と一緒の方が疲れる。
コロナ前に仙台に二人で旅行したときは、三半規管がおかしくなりそうだった。
時系列がめちゃくちゃな話を延々と続けたり、マッサージを受けたいと言った3分後にはやっぱりイヤだと言い出したり、タクシーはもったいないから歩くと言い張ったのに結局疲れて人通りのない場所でタクシーを探すはめになったり、ころころ変わる気分屋さんに振り回されて、ぐったりした……。

いい意味で特徴のない旅館の朝食。
ポスト秋田小町「サキホコレ」をいただく。

義母は小食だ。他人には「食べれー」「お茶っこさ飲めー」(←秋田の人は、語尾に「っこ」をつける)を連打するが、自分はあんまり食べていない。そして、かなりの偏食である。

またまた比較して申し訳ないが、実母は健啖家で何でも残さず食べるので、すぐにお腹いっぱいになって、最後の一口を残す娘が理解できないようだ。
胃腸が弱い人の気持ちを最後までわかってもらえなかったのは残念だ。

一方、こちらのお義母さまは、割と平気で食事を残す。一度は、息子に「食べてけでぇー」というが、自分のコースを食べるのに精いっぱいなのに、他人の分まで肩代わりできるはずはない。
食事を残しても怒られない環境は、食卓で悩んできた私にとって心地よかった。

「残さず食べろ」って他人に強要する人。それ、パワハラだから。

朝食の後は、中庭でコーヒー。
ちゃんと煎れたコーヒーが飲めて、心底うれしい!

旅の途中

旅館の往復路では、角館や田沢湖に立ち寄ったが、気温38度のため、できるだけ涼しい場所にいたい私と義母は、お手洗い以外は車から出ようとしなかった(気が合う)。

Xperiaを振りかざし、マイフォトブックをつくっている超自己中中年オヤジは、そんな女子二人を車に残し、勝手に散策していた。

田舎では何かと「男手」が必要になる。
性差別的なメッセージは発したくはないが、大雨や吹雪への備え、畑や大工仕事、男尊女卑的価値観が色濃く残る地域コミュニティーの運営において、生物的な「男」でないと処理するのが難しいタスクがあるのは事実だ。

これまで、義母が暮らすコミュニティーでは、義母の従妹の旦那さんが「男手」を担っていたが、最近、お亡くなりになったらしい。
高齢者ばかりなので、すぐに次の男手がほしいところではあるものの、態度だけはデカいが、女々しく、体もヒョロヒョロした義母の息子は男手として期待されていないようだった。

「ババヘラアイス」(←秋田名物)を求め、道の駅をふらつくおっさんを車中から見ながら、「みんな、見る目あるなぁ」と私は思った。

角館で絶対寄りたかったお店。
エアコンの無い店内でフラフラになりながら、見つけた盛岡の作家「雪ノ浦裕一」さんの器。
暑さで物欲を失った私に代わり、結局、夫が選んで購入した。店主さん曰く、「すごく人気の作家さん」とのこと。

角館に来たのだから、義母にもなにか贈りたかったが、「こんな高いお皿みたことねぇ」とかなんとか言うので、お香だけプレゼントした。

すみません。あなたの息子と嫁は「こんな高いお皿」を平気で買って、そして時々手が滑って割ってます……。

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