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永井玲衣さん式 哲学対話会の開き方

はじめに

2024/3/1(金)少しだけ仕事を早く切り上げて奈良にある本屋さん『ほんの入り口』にて開催された、永井玲衣さん『哲学対話の入り口』というイベントに参加し、とても面白かったので、記録をここに残しておきます。私は他の哲学対話会には参加したことが無いので比較は出来ないのですが、永井さんのつくる場は誰にでも優しくて「哲学」と言われると構えてしまう私にはとても敷居が低く楽しめました。また、永井さんの行う方法での哲学対話は、別の人が主催して行っても全く問題ないとのことなので、周りの人たちとも早速やってみたい!と思い、ここに哲学対話の実施方法を3/1実施内容を元にまとめておきます。

哲学対話はどんな人が楽しめそう?

哲学対話の約束事はいくつかあります。哲学対話は問いに立ち止まって考える営みを大切にする時間であり、誰もが普段行っている対話を哲学だと捉えています。対話で大切なこととして、永井さんは以下3点を挙げています。

・聞き合うこと
・独りで話過ぎないこと
・ここなら安心できる、という場を一緒につくること

永井玲衣さん式対話会で大切なこと

また、哲学対話会のお約束としては以下3点が挙げられます。

・人の話をよく聞くこと
・自分の言葉で話すこと(例:本、哲学者、テレビの言葉を借りない)
・「人それぞれ」で話を終わらせないこと

永井玲衣さん式対話会のお約束

これらに共感できる方であれば哲学対話を楽しめるのではないかと思います。

哲学対話会の目的?

残念ながら何かの役に立つから哲学対話をするわけではありません。もしかしたら無駄な時間だったと感じる人もいるでしょう。でも私は哲学対話をするために生きているのかもと思えるくらいに、人生の中に無くてはならない時間だと考えます。私たちが普段行っている仕事は、目的地に向かって船を必死にこぐことに例えることができますが、哲学対話の時間はその船を止め、自分以外の誰かと一緒に身一つで深い海に潜ってみるような感覚です。通常、私たちは立ち止まることがありませんが、哲学対話ではわざと立ち止まり、考える時間を共有します。

哲学をやるとどんな良いことがありますか、と聞かれる。よくわからない。それなりの、ぽいことを適当に言ってしまう。相手は納得しているようだけど、実際の所はよくわからない。哲学は救いになりますか、とも聞かれる。わからない。なるひともいるだろうけど。

『水中の哲学者たち(永井 玲衣・晶文社)』p.055

哲学対話は、ケアである。セラピーという意味ではない。気を払うという意味でのケアである。哲学は知をケアする。真理をケアする。そして、他者の考えを聞くわたし自身をケアする。立場を変えることをおそれる、そのわたしをケアする。あなたの考えをケアする。その意味で、哲学対話は闘技場ではあり得ない。

『水中の哲学者たち(永井 玲衣・晶文社)』p.097

哲学対話会の流れ

哲学対話会の流れは以下の通りです。

<用意するもの>
 ファシリテーター:紙、ペン、時計、手のひらサイズのぬいぐるみ
 参加者:特に無し

<進行>

  1. はじめに:円になって座ります。人数は3~10人ぐらいが良いかと思います。時間は人数や予定によって変えれば良いと思いますが、10名の場合、説明:10分 自己紹介:10分 問い出し:40分 問い決め&休憩:10分 対話:50分 ぐらいでしょうか。

  2. 説明:ファシリテーターが『大切なこと』『お約束』『進め方』を参加者の方に説明します。哲学対話のルールとして、ヘッダー画像の鳥さんぬいぐるみ(20年選手だそう…!)のような手のひらサイズのぬいぐるみを持っている人しか話せないことを覚えておいてください。持っている人が話している間、言葉に詰まっていたとしても他の人は決して口を挟まず真剣に聞きます。「おわりです」の宣言とともに次に話したい人が挙手をし、アイコンタクトを取った上でぬいぐるみを投げて次の人に渡します。

  3. 自己紹介:一人ずつ自己紹介します。自己紹介では自分の年齢、肩書、今日の目的などは一切話さずに、この日呼ばれたい「あだ名」「あだ名の由来」のみを話します。哲学対話は身一つで海に潜ることであり全員がフラットな関係である必要があります。(例:私の名前はマーボーと言います。最近本格的な麻婆豆腐を作るのにハマっているからです。)

  4. 問い出し:普段から気になっていた小さな疑問を出し合います。3/1の実施時には以下のような問いが出てきました。「人が世間話をする意味は」「結婚以外の家庭の形が流行らないのはなぜか」「ファンではなくても芸能人の結婚に喪失感を感じるのはなぜ」「頭の中で考えていることと行動言動に齟齬があるのはなぜ」「他の人は笑っていないのに自分だけツボになる理由はなに」「謙虚と卑屈の線引きはどこ」「ときめきの由来はなに」などなど。ファシリテーターは問いを紙に書き留めておきます。それぞれにその人なりのエピソードが添えられていて、どんな小さなことでも改めて問いとして挙げると「なるほど、確かになぜだろう」と思うものばかりとなるはずです。

  5. 問い決め&休憩:問い出しの時間に挙げた問いの中から、今日のお題を一つだけ選びます。ファシリテーターが紙に書き留めた問いたちを眺め、各自どのお題で対話したいかを、問いの横に正の字を書く形で投票します。票は一人2票くらいでしょうか。投票出来た人はしばし休憩です。

  6. 対話:いよいよ投票によって一つに絞られた問いについて、対話を開始します。もし一つに絞られなかった場合は再度決勝戦投票をする等して一つに絞ります。まず、お題に選ばれた問いを出した人が、その問いの背景を話します。3/1の実施時には「頭の中で考えていることと行動言動に齟齬があるのはなぜ」という問いが選ばれ、その方は、「私はつい人に良く見られたいと頑張りすぎてしまう傾向にあり、人と話そうとした時に自分の中に圧を感じた経験が問いの背景である」とおっしゃっていました。そして、そのお話を受けて考えが浮かんだ人から挙手をし、ぬいぐるみを受け取り、自分なりの考えを共有してゆきます。それを繰り返すうちに全然違う話に広がることもありますし、一点の話題に集中することもあります。人の考えを受けることで、さっきまでとは異なる視点が自分の中に浮かび上がり、それを口に出してみることでまた別の誰かが何かを思い出します。でも、これという決定的な答えは出ることはなく、時間と同時に対話会は急に終了します。暗く不明瞭な海の中を皆で彷徨い、答えがもう少しで見つけられそうな予感がするところを容赦なく船の上に引き上げられてしまいます。ですが、哲学対話会は時間を決めて終わらせることが大切です。永井さん曰く「このもやもやは決して今日だけではなく、日々抱えて生きてほしい」、とのことです。

おわりに

最後まで読んで下さりありがとうございました。もし、この記事で哲学対話会に興味を持たれた方がいらっしゃれば、永井玲衣さんの著書『水中の哲学者たち』も是非読んでみて頂きたいです。
私は平日はIT企業の協業推進と、同企業の茶道部(毎月第三木夜)を、土日祝は兵庫県西宮市の自宅にて、友人知人に対して、本と生活のある個室サウナ『SaunaKanit』を運営しています。是非お気軽にお友達になってくださいね。
Sauna Kanit – 家の中の小さなサウナ (sauna-kanit.net)

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