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セレナーデ、或いはLove Song

昨日、横浜ベイホールに25年以上ぶりに足を踏み入れた。

20歳前後の私は頻繁にクラブ通いをしていた。週末のみならず平日も。次の日は朝から仕事だというのにね。若かったよなぁ。

ベイホールの向かい、今は登山用品店のモンベルになっているところは当時、Club Heavenという大きいクラブだった。イベントのある土曜は米兵が集まっていてね。私はそこに3年くらい月一くらいで行っていた。

あれは1997年の正月かな。その「ヘブン」で遊んでいたのだけど、夜風にあたりたくなって外に出るとベイホールがなんだか盛り上がっているようだった。あっちの方が楽しそうだなぁと友達と移動した。

初めて入ったベイホール。赤いじゅうたんが敷かれた階段を上って進むとゴージャスなシャンデリアがあって3段になっているダンスホールは踊り狂っている人でごった返していた。私もドリンクをテーブルに置いて踊っていると
「君、アリーヤに似てるね」と黒人が声を掛けてきた。
アリーヤに似てる?髪型だけじゃん、って思ったけど彼と踊った。彼の名はロブ。ライトスキンで顔は久保田利伸に似てた。横須賀基地配属のカッシングという小さい船の軍人だという。一緒に踊って、それから話をして、飲んで、煙草を吸った。まだ暗く寒い夜明け前にロブと外に出て気付いた。ヘブンのロッカーにバッグを入れてあることを。ヘブンはもう閉まっている。シャッターを思いっきり叩いたらスタッフが出てきてくれたので事なきを得た。

ロブと私は付き合うことになった。船がどこかへ出港したときには必ず手紙をくれたし、たまに電話もかかって来た。横須賀に戻ってくるとお土産をどっさりくれた。まぁ、こういってはアレだけど私にぞっこんだったんだな。

ロブと私は趣味も合わなければ性格も合わなかった。じゃぁなんでそんな人と付き合ってたんだよ?って話になるんだけど、ロブのいいところ?は私が嫌と感じることはしなかったってとこ。20年の人生で私に近づいてきた男はろくでもない奴ばっかだったから。まぁ、その後親密になった男たちにひどい目に遭わされるんだけども、自分の嫌がることをしない人ってのは趣味が合うことよりもずっと大事なのかも知れないね。ま、その上趣味が合う人ならもっといいけども。あ…..けど、趣味や感性が似てる人に私が嫌がるようなことする人なんていなかったわ。やっぱり私は趣味が合う人が一緒に居て楽だ。

まさにロブと踊ったフロアに今、私はいる。20数年の時を経て。好きなバンドを観ているのに時折どうしてもそのことがちらついてしまった。ロブに特別な感情なんて最早ないのに。いや……そもそも私はロブを特別な人と思ったことなんてあったかな、付き合ってる時でさえ。多分そんなことはなかった。ああ、今私はあの時をただ回想しているだけなんだろう。もう戻ることのない時間を懐かしんで感傷に浸っているだけ。

柱が邪魔でしょうがない。開演直前に割り込んできた奴が鬱陶しくてステージがよく見えないーーそんなこと、あの時感じたっけ?踊り狂っていたし、そんなこと気にもしていなかったに違いない。タイムマシンに乗って、20歳の私に「次、あんたは20数年後にここに来るよ」って教えたらどんな顔をするだろう、なんて言葉が返ってくるだろう。

「ヘブン」へは石川町から歩いて行ったっけ。今もあるのか知らないけれどマリンタワーの並びにあったモスバーガーで友達と待ち合わせて、車がビュンビュン通る横断歩道なんてない広い道路を走って渡って沢山の倉庫やコンテナがある海沿いの道をずっと歩いた。

20年以上ぶりのこの道のりには、今や巨大なホームセンターや家具屋が立ち並んでいて当時の面影はまるでない。あ……今思い出した。現モンベルのそばにある男女共用で水洗じゃない公衆便所。あれ、当時もあったわ。いかがわしさは今でも変わらなかった。変わったのは周りの景色だけ。ベイホールも私もちっとも変わってやしない。あ、今はフロアで煙草が吸えないね。いつかロブと踊ったフロア、今、ダムドを観ている私ーー次いつここに来るかは分からない。

♪Just for you, here's a love song
Just for you, here's a love song