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5年前 <21>

手術終わったのかな?どうやら自分のベッドの上らしい。病室に運ばれている間の記憶がない。なんかまだ朦朧としている。

あれ、なんかベッドの周りが物々しい。血圧とか心拍数とか表示されるモニターが付いてるし、口には酸素マスク、そしてもちろん点滴も。
「しばらく安静にしてて下さいね」と言われたけど動く気力なんてないしこれじゃそもそも動けないよ。
うっ、切った箇所が痛い。前回は痛みを感じなかったけどこりゃ結構痛いぞ。ナースコールをして看護師さんに痛み止めを追加してもらってようやく少し楽になった。

同室の人たちに食事が運ばれてきた。お腹空いたなぁ。水分を摂る許可が出て買っておいたヨーグルトドリンクを飲んだけど、お腹は膨れない。
あ、顔どうなってるのかな?出っ張ってる右頬は治ったのかな?鏡を取り出して見たけどちょっと腫れていてよく分からない。

このまま順調なら明後日に退院出来るはずだ。あ、明後日って日曜日だ。日曜日って退院出来るんだっけ?月曜日になっちゃうのかな。身体は元気なのに暇してるのは耐えられないから一日でも早く退院したいんだけどなぁ。まぁいい、今日は疲れたから寝る……けど同室の人の鼾がうるさくて何度か目が覚めてしまう。仕方ないんだけどね、私のお腹が鳴る音もうるさいかも知れんし。早く朝になれ~、飯!

6時、病棟に明かりが付き、顔を洗って朝食を待つ。もうなんでもいい、さつまいものスープでもいいから食べたい。
「南さん、お食事お持ちしました」
待ちに待った食事が運ばれてきた。
おっ、常食Aって書いてあるぞ。普通のご飯に鮭と味噌汁に海苔にごま和えじゃん!牛丼屋の朝定食みたいでいい感じだ。けど、手術前は軟らかめの普通食だったよな?これ、間違ってないか?本当に食べていいのか気になって看護師さんを呼んで、一昨日は「軟きざみ」でしたが……と訴えた。
「あ……、ちょっと確認します。お待ちください」
嫌な予感がする。黙ってればよかったかなぁ。
「すみません。こちらを召し上がって下さい」
運ばれてきたのは前回の手術の時に散々食べた(流し込んだ)メニュー。
おもゆにみそスープ(味噌汁ではない)、野菜ジュースに飲むヨーグルト!
メニュー表はご丁寧にマジックで「一般流動」と訂正され、二重線で文字が消されている。悲しすぎるぞ、これは。焼き鮭定食は下げられてしまったよ。
退院までずっとこの食事かねぇ……。早く退院したい。退院したらその足で焼き鮭定食を食べるぞ。まぁ、焼肉定食でもいいんだけどね。

午前中にレントゲンを撮ってから夕方に外来に呼ばれるまでボーっとする。あれ、今回は外出許可ってもらえないのかな?外に出たすぎるのに。今日も寒そうだし、せいぜい残り僅かな入院生活を楽しむからいいわと思い込むことにして、ラウンジで本を読んだ。こんな時じゃないと読書がはかどらないってのもなんだかなぁ。

「手術お疲れさまでした。経過は順調ですよ。骨もほら、ちゃんとくっついてます」
レントゲン写真を見ながら渡部先生。
「ありがとうございました。いつ退院出来ますか?」
「明日で大丈夫ですか?もう少しお休みになりたいとおっしゃるなら明後日以降、月曜ないし火曜でも構わないですよ」
「明日で大丈夫です」
「分かりました。退院手続きの書類書いておきますね。明日は日曜日なので入退院の窓口は閉まってます。詳しいことは看護師さんに訊いて下さい」
「ありがとうございます」
「お食事はまだ、硬いものは控えて下さい。今後様子を見てからになります」
「普通の軟らかめの食事なら食べても平気ですか?今日、おもゆやスープばっかり出てきたのでちょっと心配で」
「今日のところは大事を取って頂いてるので、明日以降なら構いません。ただし繰り返しになりますが硬いものは控えて下さるようにお願いします」
ああ、許可が出たらすぐに奉天とか硬い煎餅やリンゴを丸かじりするもんね!

1年前の夜は雪が降っていて売店の前で見舞い客らしい人と全豪オープンを見てたっけ。懐かしい。
同じように閉店間際に売店に寄って飲み物を買いに行ったけど今日は誰もいない。静かな冬の夜。