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被視感によるデザインでごみ問題を解決

今回は、私が大学院1年生の時に個人的に趣味?で行った実験を紹介します。

背景

私はマンションに住んでいます。新築で素敵なマンションです。しかし、ある問題がマンションの管理人さんを悩ませています。それはごみ問題です。具体的には、マンションのごみ置き場のごみが散乱している問題です。

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写真で見るとその酷さがわかります。まるで、ハロウィン翌日の早朝の渋谷のようです(笑)。このようにごみが散乱している原因は彼らのしわざです。そう、カラス

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カラスがごみ置き場からごみを引きずり出すことによって、ごみが散乱しています。まさに、カラスの宴会場となっています(笑)。しかし、カラスがこの問題の根本的な原因ではありません。では、何が原因なのか。それは、ごみ収集日の当日にごみを出さないマンションの住人です。
マンションのルールとして、ごみはごみ収集日の当日の朝に出すように決められているのにもかかわらず、それを無視してごみを出している住人がいます。そのため、ごみ置き場に大量のごみが長時間放置されて、カラスがごみを散乱させる機会が増えています。もちろん、ネットのみというごみ置き場の構造にも課題がありますが、ルールを守らない住人にも非があります。

私は毎日のように散乱しているごみを片付けている管理人さんを見ると心が痛くなります。大学の授業が休みの日はごみの片づけを手伝うのが日課になるほど、ごみの散乱は大きな問題でした。この問題はマンションだけでなく、周辺住民にも悪影響を与えます。「このままではだめだ」と思った時に、私はある先行研究と出会いました。

被視感

その先行研究は2つあります。
1つ目は、コーヒー代金箱に目のシールを貼ると代金回収率が上がった研究です[1]。ある場所では、飲み物を買う際に、購買者自身でお金を箱の中に入れる仕組みがあります。図の横軸は代金回収率で、縦軸は各週で使用したシールの順番です。この結果を見ると、代金回収率における目のシールの効果がわかります。

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引用:Bateson, M., Nettle, D., & Roberts, G. (2006). Cues of being watched enhance cooperation in a real-world setting. Biology letters, 2(3), 412-414.

2つ目は、駐輪場の壁に顔の書かれたポスターを貼ると盗難が減少した研究[2]です。図の横軸はポスター設置前と後で、縦軸は盗難の件数です。黒い棒グラフがポスターを貼った場所(Experomental)の結果で、灰色がポスターを貼っていない場所(Control)の結果です。結果から、ポスターの貼った場所の盗難件数が減少していることがわかります。

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引用:Nettle, D., Nott, K., & Bateson, M. (2012). ‘Cycle thieves, we are watching you’: Impact of a simple signage intervention against bicycle theft. PloS one, 7(12), e51738.

これらの先行研究は「被視感」に着目しています。「被視感」とは、自分が誰かに見られている感覚のことです。人間はこの「被視感」の影響により、人に見られても恥ずかしくない行動を取る傾向があります。「被視感」を与える最も典型的な方法は「目」を描くことです。動物は襲ってくる敵にいち早く気づくために、「目」に気づく本能的能力が備わっています。例えば、自動車を前から見ると顔のように見えるのも、人に気づいてもらえるように意図的に設計されています。
そして、「被視感」を与えるために、誰かが実際に見ている必要はないです。2つの先行研究の面白いところは、本当に人に見られている訳ではないのに「被視感」の効果が証明されていることです。
私はこれらの先行研究を基に、ごみ問題を解決しようと試みました。

方法

実験方法は、マンションのエレベーターに掲示されているごみ捨てに関する注意文に「目」のシールを貼ります。先行研究[1]で最も効果のあった「目」のシールを使用しました。実験場所のマンションは1階が駐車場で2回から部屋があるため、ほとんどの住人はエレベーターに掲示されている注意文を見ていると仮定しました。実験前半の3週間は「目」のシールなしで、実験後半の3週間は「目」のシールありで注意文を設置しました。朝の7時30分(ごみ収集車が来る朝8時の30分前)に燃えるごみの収集日の前日と当日のごみの量を測定しました(燃えるごみの収集日は週に2回あります)。

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結果

結果は、「目」シールを貼るとごみの収集日の当日にごみを出す住人が増加しました。実験は成功です!図は横軸はごみ収集日で、縦軸はごみ収集日の当日以外にごみを出した住人の割合です(ごみ収集日の前日のごみの量÷ごみ収集日の当日のごみの量)。赤色が「目」のシールなし、青色が「目」シールありです。ゴミ出しのルールを守らない人が減りました。

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まとめ

「被視感」によるデザインでマンションのごみ問題を解決へ近づけることができました。これを機により良い街づくりに貢献していきたいと思います。ごみが散乱することが大幅に減少したことで、マンションの管理人さんの笑顔が見れて良かったです。

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参考文献

[1] Bateson, M., Nettle, D., & Roberts, G. (2006). Cues of being watched enhance cooperation in a real-world setting. Biology letters, 2(3), 412-414.
[2] Nettle, D., Nott, K., & Bateson, M. (2012). ‘Cycle thieves, we are watching you’: Impact of a simple signage intervention against bicycle theft. PloS one, 7(12), e51738.

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