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全国水族館の旅⑨サケのふるさと千歳水族館

サケの遡上をご覧になったことがありますでしょうか。彼らの生涯は苦難と挑戦の連続です。卵から孵化してまもなく稚魚は川の中での生存競争に身を投じ、戦いに生き残った強い者だけが、はるかな海を目指して泳いでいきます。広く厳しい大海原で幾多の死線を潜り抜け、さらに強く大きく育ったサケたちは、生まれ故郷の川に堂々と還ってきます。
そんなサケたちの力強さを間近で体感できる水族館が北海道千歳市にあります。命がけで遡上するサケたちの姿を目に焼きつけ、底知れぬ生命のパワーを感じ取ってください。


川の中も水族館? 野生のサケに会いに行こう!

他県の人にとって、北海道の玄関口と言えば新千歳空港。同じ千歳市内には、道内で屈指の淡水生物専門の水族館が立っています。千歳水族館はサケの飼育展示・保全活動のエキスパート施設であり、なんと地下フロアの窓からサケが遡上する千歳川の中を観察できます。このようなダイナミックな展示は水族館ファンなら絶対に体験しておきたいところですね。
北海道に着くと、さっそく予約したレンタカーに乗って水族館へ向かいました。

水族館の隣には、「サーモンパーク千歳」という道の駅があります。北海道の新鮮な農産物・水産物が買えるうえに、おいしいレストランもあります。ぜひ水族館の観覧前後で立ち寄りましょう。

道の駅「サーモンパーク千歳」。千歳の市街地から近いので、地元の方も大勢来られます。
サーモンパーク千歳の中にあるオススメのお店。水族館でサケを見て、しっかりサケも食べましょう(笑)。
店内メニューのパスタ。北海道でとれたサケや野菜に加え、北海道産の牛乳から作られたチーズの風味が最高。決して誇張ではなく、今まで食べたパスタの中でダントツにおいしかったです!

サーモンパークでサケ料理を味わい、水族館でサケの神秘を学ぶーーつまり千歳市では五感でサケの魅力を堪能することができます。
水産学の本質とは「水の生命をしっかり守り育て、たくさん味わおう」というものだと思いますので、千歳水族館は本当に素晴らしいと思います。色とりどりのサケの仲間や、たくさんの生き物たちに会いに行きましょう。

いよいよ千歳水族館へ。先述の通り、本館は地下エリアから千歳川の中が見られます。ですので、見た目以上に施設の中は広いです。

サケの神秘と北海道の美しい淡水環境

たくさんの水棲生物がひしめく北の大地

名が表す通り、本館の主役はサケです! 入館すると、様々な形態・色合いのサケたちのラッシュが始まります。

若いサケたちの美しい姿。生まれた川でユスリカなどを食べて育ち、雪解けと共に海に下ります。
幼魚の隣の水槽では、シロザケとサクラマスが展示されています。海に下る個体がシロザケ、河川にとどまる個体がサクラマスとなります
鮮やかな赤が美しいベニザケ。日本産のベニザケを復活させるために、国内では複数の河川で放流事業が行われています。

施設内の雰囲気は、神秘的かつ野生的です。自然の不思議と力強さを感じさせてくれる水族館であり、工夫の凝らされた水槽の数々に見入ってしまいます。

大型の丸い水槽。ニジマスやヌマチチブなど支笏湖に棲む淡水生物が展示されています。
なんとチョウザメに触れるタッチプールもあります。おとなしい生き物ですので、優しく触ってあげましょう。
石や水草がふんだんに使用された水槽。淡水生物の棲家となる河川環境をイメージさせてくれますね。

周知の通り、北海道には超スケールの大自然が多くの地域に残されています。サケのみならず、多様な水棲生物が北の大地の恩恵を受けているのです。
本館ではとても多くの固有種・普通種が展示されています。北海道以外では見る機会の少ない生き物もいますので、他県から来訪された人には新鮮に感じられるのではないでしょうか。

北海道とロシアに生息するエゾトミヨ。もちろん、千歳川の中にもいます。
エゾアカガエル。北海道に棲んでいるカエルは、本種とニホンアマガエルだけです。

北海道ゆかりの生き物ラッシュはどんどん続きます。個人的には、固有種のカタツムリ展示が嬉しかったです。水槽の上に木に這う姿を直接観察できる展示は素晴らしいと思います。

エゾマイマイとサッポロマイマイの展示は、生き物好きなら絶対チェック! どちらも北海道だけに棲んでいするカタツムリです
フクドジョウ。日本での分布は北海道のみでしたが、移入により東北や関東にも定着しています。ちょっと丸い体が可愛い!

ちなみに、北海道にはミンクが生息しています。北アメリカから来た外来種で、毛皮を取る目的で導入されました。養殖されていた個体が逃げ出したり、捨てられたりして、現代の北海道に棲み着いてしまったのです。本館では、千歳川で捕獲されたミンクを見ることができます。

お昼寝中のアメリカミンクたち。北アメリカから来た外来種であり、これらの個体は千歳川で捕獲されました。彼らは本州にも定着しており、生態系への影響が懸念されています。

本館は淡水生物専門の水族館ということで、国内種のみならず、海外の淡水魚展示にもかなり力を入れています。アマゾンや東南アジアの魚たちは迫力と神秘性に満ちていて、子供たちから大人気です。

電撃が怖いデンキウナギですが、顔つきはとっても可愛いですね。
ポルカドットスティングレイ。淡水に棲むエイの一種です。
魚だけでなく、爬虫類の展示もあります。葉っぱの間に隠れているのはエボシカメレオンです。

窓の向こうは川の中! サケの遡上を応援しよう!!

再三に渡って述べますが、本館では観察窓から川の中を見ることが可能であり、野生のサケの姿を間近で観察できます。自然の淡水環境そのものを展示に活用するといった取り組みは、本館独自にして最大の強みだと思います。
はるかな旅路を経て、故郷の千歳川に戻ってきたサケたちに「おかえりー!」と言ってあげましょう。

なんと、水中観察窓から川の中を見ることできます! ここにいるのは、海から千歳川に還ってきた野生のサケたちです!!
窓の向こうは野生の世界。ぜひ千歳川の中をじっくり観察しましょう。サケだけでなく、ウグイやヤツメウナギも見れます。
サケの遡上のピークは9〜10月です。なお、2023年は遡上個体数がかなり多いらしいです。  

そして本館では、野生のサケを守り育てるために、人工飼育と放流活動が実施されています。サケたちは大切な自然界の命であると同時に、我々の食生活を支える重要な水産資源です。サケへの感謝の念を抱きながら、水族館での保全活動を学びましょう!

サケの放流活動について、わかりやすいキャプションで解説。また、繁殖ステージごとの生態の説明にも多くの資料が使われていました。
採卵されたサケの卵。これらを人工孵化させ、放流個体を育てるのです。

さらに本館の素晴らしさを付記すると、水中だけでなく、川の上からもサケの遡上を見ることができます。ダイナミックにジャンプして急流を越える姿には、きっと誰もが感動と高揚感を覚えるはずです。

屋外には千歳川が流れています。こちらも水族館の敷地となっています。ここでは何が見られるかと言うと……。
野生のサケの大ジャンプ! 川の流れを越えて産卵場所へ辿り着くために、ダイナミックな躍動を見せてくれます。思わず応援したくなりますね。
次々にジャンプするサケたち。川を遡上すると彼らは最後の試練を終え、次世代へと命をつないでいきます。

必死に生きるサケの姿に胸を打たれ、来館者は誰もが釘づけです。
彼らから学ぶことはとても多いと思います。棲み慣れた川から壮大な海へと下るサケのように、人間も広い世界へ旅立って困難を経験し、サケと同様にたくましく成長して故郷に凱旋するのかもしれません。

2階の学習ゾーンでは、大型キャプションでサケの広範なトピックを学ぶことができます。サケとアイヌ民族の関わりから、おいしいサケの調理法までたくさん知識を得て、ぜひサケマスターになりましょう!

サケのふるさと千歳水族館 総合レビュー

所在地:北海道千歳市花園2-312

強み:千歳川に遡上する野生のサケを観察できるダイナミックな施設構造、魚類・両生類・陸棲巻貝など北海道に生息する固有種及び希少種の生体展示、長年の調査や放流活動によって培われた圧倒的なサケ研究の知見

アクセス面:新千歳空港から車で約15分という好立地。空港近くの事務所でレンタカーを借りたら、そのまま直行しましょう。レンタカーの予約を忘れた場合でも大丈夫です。本館は市街地に近いので、新千歳空港やJR千歳駅からタクシーに乗れば15〜20分弱で行くことができます。

野生のサケの遡上が見れて、鮮やかな生き物たちの展示が味わえて、なおかつ新千歳空港に近いという、万人にオススメできる超観光向きの水族館。やはり千歳川に通じる水中観察窓が設けられている点は大きく、できればサケの遡上・産卵シーズンに来館したいところ。遡上は9〜10月にかけて活発になり、冬には産卵の瞬間を目撃できる可能性があります。もちろん、千歳川には様々な生き物が棲んでいますので、春や夏に訪れるても十二分に楽しめると思います。
水族展示のクオリティはとても高く、淡水生物水族館として見ても素晴らしい内容です。学習ゾーンの濃厚なキャプションもトピックが幅広く、ぜひ時間をかけて見ましょう。

なお、メインテーマがサケということもあり、観覧後は高確率でサケ料理が食べたくなります(笑)。ぜひ、お隣の道の駅サーモンパーク千歳にて新鮮なサケを堪能しましょう。

本館25周年に際し、さかなクンが描かれたイラスト。なんという圧倒的な可愛さ、素晴らしい!

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