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全国自然博物館の旅㉟伊豆アンモナイト博物館

博物館とは、学術的な探究心の詰まった場所です。特に個人経営されている博物館では、創始者の方の純粋な展示対象への愛があふれています。古生物マニアの方々は、自分のオリジナル博物館を作って、こういう展示ができたらいいなーと想像したこともおありではないでしょうか。
伊豆半島には、アンモナイトへの強い想いが感じられる個人博物館が立っています。そこでは、大いなる学びと感動を体験できます。


太古の記憶を宿す伊豆半島の大地

博物館が立っているのは、伊豆半島の伊東市。最寄りの駅は伊豆急線の伊豆高原駅となります。東京方面から向かう場合、かっこよくて快適な特急踊り子を利用しましょう。伊豆には豊かな自然と数多くの学術施設がありますので、生き物好きの筆者はよく踊り子のお世話になっています。

関東にお住まいの方は、特急踊り子を利用しましょう。早朝の便に乗れば、日帰りでもたっぷり伊豆観光ができます。
伊豆高原駅に到着。駅内には飲食店をはじめ多くの店舗が入っており、もちろんお土産屋さんもあります。

地球科学の観点から見て、伊豆は世界的に重要な地域です。素晴らしく豊かな生物多様性を有し、地質学においても貴重かつダイナミックな地形景観を擁する伊豆半島は、2018年に世界ジオパークに認定されました。歴史深い伊豆の大地からは古生物化石が多数発見されており、まさに地球の謎と神秘を感じられる素敵な地域なのです。
伊豆高原駅の駅舎には、伊豆半島ジオパークへの入口とも言うべきビジターセンターがあります。地域の自然環境と歴史について学び、伊豆をもっと大好きになってください。

駅舎の中にあるビジターセンター。伊豆半島の大自然について学ぶことができます。
ビジターセンター内は、とても広々としています。駅の中にこれほどの展示空間があるのは本当にすごい!
古生物化石が多数出土する伊豆半島ジオパーク。ビジターセンターでは、化石標本がたくさん展示されています。
伊豆にて発見された新生代の貝類化石。当時は浅い海が広がっていたとわかります。
メジロの巣の展示。現代自然の学習資料も充実しています。

駅前には、路線バスやタクシーの乗り場があります。バスを利用する場合、最寄りバス停「理想郷」からの徒歩移動も含めて所要時間25分といったところです。
ガラス越しに覗く屋内のアンモナイトや恐竜。入口前に並べられた数々の化石たち。いかにも古生物学の館といった感じで、マニアの人々はワクワク感全開でたまらないと思います。さっそく、化石ファンの永遠の憧れ・アンモナイトたちに会いにいきましょう。

伊豆高原駅前からバスに乗って来ました。最寄りのバス停からは、徒歩5分ほどで博物館に着きます。
伊豆アンモナイト博物館。アンモナイトへの強い愛情が感じられる素敵な博物館です。
博物館の入口前のベンチには、化石が並べられています。館内にはどのような空間が広がっているのか、期待でワクワクしてきます。

究極のアンモナイト愛にあふれたハウス型博物館

まるで太古の美術館! 多様な美を有するアンモナイト化石

入館すると、そこはすでにアンモナイトたちの不思議な空間です。館内には、財宝のごとく見事な化石たち、さらには生物をモチーフにしたアートも展示されています。
その様、まさに太古の美術館! 大昔のロマンと伊豆の海の雰囲気を感じつつ、観覧を始めていきます。

美術館のような雰囲気。太古のロマンとモダンな美のの共演と言えます。
プロの彫刻家が製作した木彫りのオウムガイ。「欲しい!」と思った生き物好きはたくさんいるはず。
内装にも、至るところにアンモナイトが隠れています。標本のみならず、展示空間全体に目を向けて宝探ししましょう。
美術品のごとく、額縁に入れられたレピソステウスの化石。新生代のアメリカに生きていた古代魚です。
ティラノサウルスの頭骨レプリカ。圧倒的な迫力と重厚さが伝わってきます。

展示の主役となるアンモナイトたちは、まさに豪華絢爛! たまに「アンモナイトはどれも同じ見た目だ」と思っている人もいらっしゃいますが、それは大きな間違いです。アンモナイトは種類ごとに特徴があり、多様性に富んでいます。さらに、化石の組成や特性にも様々なバリエーションがあり、とても一言で片づけることはできません。
大繁栄していた数多くのアンモナイトたち。本館の展示では、たくさんのタイプの化石標本と出会えます。どのような種類のアンモナイトがどのような化石になったのか、じっくりと学んでいきましょう。

美麗なアステロセラスの化石。殻にあしらわれた模様は、「縫合線」というアンモナイトだけが有する特徴です
宝石のごとく輝くプラセンチセラス。この色は、化石になる過程で2次的についたものだと考えられます。
こちらのプラセンチセラスは「真珠層」が残っているため、虹色に輝いて見えます。この層は化石に残らないことが多く、本個体は極めて貴重だといえます。
これもアンモナイトの殻です。本種ユーボストリコセラスをはじめ奇妙に巻いた殻の化石は、俗に「異常巻きアンモナイト」と呼ばれます。
異常巻きアンモナイトの一種アンキロセラス。ステッキのフックのような形をしています。

本館の穏やかで知的な空気感は来館者を優しく包み込み、とてもリラックスした心地にさせてくれます。美麗なアンモナイトをあらゆる角度から眺め回し、ベンチに座ってまったり太古のロマンに浸る時間は、化石マニアにとって至福の一時。活き活きとした標本に囲まれると、アンモナイトの声が聞こえてきそうですね。

床に展示されたアンモナイトたち。化石マニアの人ならわかると思いますが、大きなアンモナイトの標本はとても重く、床に置くだけでも相当腰にきます
大きなキャライコセラス。北海道で出土したアンモナイト化石です。
アンモナイトの解説キャプション。芸術的な展示を楽しみつつ、しっかりとアンモナイトの実像を学習していきましょう。
アンモナイトに囲まれた素敵な展示空間。太古の海の波音が聞こえてきそうです。

博物館スタッフから学ぶアンモナイトの秘密

ハウス型博物館の魅力は、スタッフさんと来館者の距離が近いところです。本館では、なんと博物館スタッフ(館長ご夫妻)と直接お話させていただける確率が高く、さらに化石のクリーニング作業を間近で見られるチャンスもあります
プロからアンモナイトや化石の探究について教えていただける貴重な機会。筆者も、館長さんとのアンモナイトトークに時間を忘れて熱中しました!

館長さんからいただいたアンモナイトの化石。嬉しい、嬉しすぎる! 一生の宝物です!!
新生代の植物化石と、それに関する書籍の展示。当該書籍の記事は、本館のスタッフ・吉池悦子さんが執筆されました
クリーニング台の近くにある展示ケース。アンモナイトをはじめ、たくさんの古生物の化石でいっぱいです。

古生物マニアの皆様が楽しみとしているのは、やはりたくさんのアンモナイト化石との出会いだと思います。本館では、非常に、豪華で網羅的なアンモナイトの展示を見ることができます。学術的な価値と美しさを両立した究極のアンモナイトたちの姿、しっかりと記憶に刻みつけましょう。

たくさんの化石が並べられた展示ケース。古生物マニアは、こういった展示空間が大好きです!
美しすぎる! 愛好家にとっては本当に目の保養になります。
アンモナイトたちは、どれも見とれてしまうほど美しいです。クリーニング(化石の表面の岩などを取り除く作業)が繊細に実施されています。

風変わりな殻を備える「異常巻きアンモナイト」たちには、多くの人々が目を引かれると思います。風変わりなように見えて、彼ら異常巻きアンモナイトの殻は決して「異常」ではなく、巻き方に規則性があると判明しています。
本館の異常巻きアンモナイト展示では、化石標本はもちろん、精巧な造形物を用いて、特殊な形態の秘密を教えてくれます。彼らの実像を学んでいくと、アンモナイトの種族の多様性が改めて理解できます。

クリップ型の異常巻きアンモナイトとして知られるポリプティコセラス。多数の個体が発見されていますが、完全な状態で保存された殻の化石が見つかることは稀です。
木彫りのポリプティコセラスの立体造形。彼らのいったいどのような生活を送り、どのように獲物を捕まえていたのか、まだまだ多くの謎があります。
木彫りのニッポニテス。「異常巻きアンモナイトの王様」と呼ばれています。
アクリオセラスの化石。殻の形状からして、異常巻きアンモナイトは遊泳に適しているとは考えられず、もしかすると海底近くで獲物を捕食していたのかもしれません。
スカラリテスの殻。白亜紀の浅海域には、いろいろな形のアンモナイトがひしめき合っていたことでしょう。

本コーナーの展示標本はアンモナイトだけでなく、貴重な脊椎動物の化石もあります。昔の日本人と化石の関係性を知れるメガロドン(新生代中期~後期に生きていた巨大ザメ)の歯の展示は、筆者にとって強く印象に残っています。「天狗の爪」として御神体にもなった事実を学ぶと、メガロドンの存在がさらに神々しく感じられます。

北海道で発見された海洋爬虫類の椎骨。白亜紀に生きていた首長竜の仲間です。
中国にて産出した恐竜の卵。卵の形は種類によって違っており、円形の卵や楕円形の卵がありました。
古代の巨大ザメであるメガロドンの歯。かつての日本人は、この化石が「天狗の爪」なのだと思っていたようです。

やはり大トリはアンモナイト。王道の殻形態を備える種類で締めたいと思います。
化石とはとても不思議で、眺めていると思考が太古の世界へと誘われていきます。これほど麗しいアンモナイトたちは当時どのような環境で生きていたのか、想像すると本当に楽しいです。アンモナイトをめぐる人類の探究は、これからもずっと続いていくでしょう。

ハウエリセラス。真珠層の輝きが化石に残されています。
エパリエティテス。きれいな縫合線が描かれた殻は、まさに自然界のアート。
ネオフィロセラス。あまりに美しさに言葉が出ません。
プラセンチセラス。王道のアンモナイトにも、異常巻きアンモナイトにも、人類の関心を惹きつける強い魅力があります。

観覧を終えて、改めてアンモナイトという地球生命の大先輩に想いを馳せてみました。我々人類が現れるよりずっと大昔に栄えた、多様で美しいアンモナイトたち。彼らの生きた証は、化石という形で現代にしっかりと残されています。
本館は、アンモナイトを知る壮大な冒険への入口。ぜひ伊豆を訪れて、太古の海の世界を覗いてみてください。

伊豆アンモナイト博物館 総合レビュー

所在地: 静岡県伊東市大室高原10-303

強み:プロの化石研究者スタッフから古生物学・化石を解説していただける体面学習の機会、アンモナイトをはじめ繊細なクリーニングが施された美麗な化石標本、アンモナイト愛と芸術的な空気感にあふれた館内の静謐な雰囲気

アクセス面:伊豆半島に位置しているため、車の活用を推奨します。関東・中部地方にお住まいの方は、自家用車でゆったりと向かうのがベストだと思われます。ただ、伊豆の自然を感じながらまったり旅するのであれば、公共交通機関を利用するのも大いにありです。伊豆急線の伊豆高原駅から路線バスに乗り、「理想郷」にて下車すれば、そこから徒歩5分ほどで博物館に着きます。駅前にはタクシーも停まっていることが多いので、状況に応じて最適のアクセス手段を選びましょう。

究極のアンモナイト愛であふれた専門博物館。超職人技クリーニングが施されたアンモナイトたちは、美の極みとも言うべき魅力を放っています。洗練された展示スタイルと麗しい化石標本には、全古生物マニアが大興奮すると思います。化石愛好家はもちろん、一般の方々も美術館を観覧しているような心地になり、魅惑的な多種のアンモナイトたちから目が離せなくなるでしょう。
特筆すべき本館の魅力は、館長ご夫妻と高確率でお話ができるということです。直接プロから専門的な知識を得られる経験は、そうめったにあるものではありません。マニアの方々は深い境地の超コアな化石談義ができるでしょうし、一般の方々も標本解説を通じてさらにアンモナイトが大好きになると思います。
本館で理解を深めたら、ぜひジオパークへ化石を掘りに行ってみましょう。はるかな時を越えて、アンモナイトが大地から現れるかもしれません。

伊豆高原駅前には足湯があります。帰りの踊り子に乗る前に、休息も兼ねて自分の足を暖めてあげましょう。

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