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【ショートショート】呪いの臭み または素人呪術師の蹉跌

 あたしはがっかりした。
 せっかく呼び出した呪霊が、どこにでもいるようなおっさんだったからだ。

 神社で神主をやってるおじいちゃんに、陰陽師だったという先祖から伝わる祈祷書を送ってもらい、やっとの思いで成功した召喚だったのに…
 小太りで頭はバーコード。
 ヨレヨレのスーツにメガネをかけた、どう見てもサラリーマン風のおっさん。
 おまけに、加齢臭なのか変な臭いもする…

「もっと真人まひとみたいなイケメンならよかったのに…」
「やめてくださいよ。最近はそういう漫画や小説のせいでわれわれのイメージが歪められてるんです。それを真に受けられても困ります」
「イメージも何も、なんでスーツなの?」
「呪霊だって時代の変化とともに姿は変わるんです。で、何の用なんですか?」
 あたしはため息をついて本題に入った。
「うちの高校の生徒が使ってる電車に痴漢が出るの。こないだは親友のエミが被害にあった。そいつを呪って。殺してもいい」
「穏やかじゃないですね。呪いは後悔も生みますよ。知らずにすめばよかったことを知ることになるかも…」
 あたしは一瞬ためらいを感じたが、泣きじゃくるエミの姿を思い出して意を決した。
「いい。責任は持つから。言った通りにお願い」
「はいはい。ほんじゃまあ…」
 加齢臭とともに呪霊は消えた。

 その後…

 すべては呪霊の言った通りになった。
 あたしは激しく後悔した。
 知らなくてもいいことを知った。
 そして、痴漢の被害は完全になくなった。

 突然の心臓発作で死んだ父の墓前で手を合わせる時、あたしはあの臭いを感じる。
 それがまだそこにいる呪霊の加齢臭なのか、あたし自身の呪いの臭みなのかは分からない。


たらはかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。
お題は「呪いの臭み」。
異様なお題ですが、いま「呪術廻戦」と「姑獲鳥の夏」を同時に読んでたりして、普通のお題に感じてしまいました。
たまにはこういうブラックなオチもいいですよね?
😏

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