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東京と、東京を好きな母と

乱立するビルのあいだからのぞく狭い空、冬の朝や、一駅歩くという行為。ふとした瞬間に「私、東京にいるんだ」と思う。越してきて2回目の冬なのに。

街の切れ目

幼い頃、母が弟妹を実家に預けて私とふたりきりで出かけてくれる日が、年に一度だけあった。その日は決まって東京に行った。

「ここは浅草って言うの、母さん若い頃ここで神輿かついでたのよ」
「わぁずいぶん変わったわね、あのお店がなくなってる」

母に手を引かれ、パタパタ歩く。
その街その街の思い出話を聞いたけれど、細かいことは覚えられず、ただ「お母さんは東京が好きなんだ」とだけ思っていた。
母も、母の東京へのプライドも、なんとなく好きだった。

東京と、東京を好きな母と、その母を好きな私が並んでいた遠い記憶。それが今、私の生活圏にある不思議。

東京がいつまでも特別に思えて仕方ないのは、あの日があるからかもしれないと思った。

誕生日でもクリスマスでもお正月でもなくてあの夏の日。
1年で1番嬉しい日、を過ごした東京。あの日を思い出させてくれる唯一無二の場所、東京。
だからここでどんなに傷ついても結局いとおしく、特別に感じられてしまうのかもしれない。

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