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書いた原稿の8割は落とした。大ベストセラー『1年で億り人になる』ができるまで

『本を出したい』(CCCメディアハウス)の発売を記念して、書籍の出版にまつわるテーマで、さまざまな方と対談しています。今回のお相手は、17万部のベストセラー『1年で億り人になる』の著者 戸塚真由子さんと、この本を編集したサンマーク出版の三宅隆史さんです。
どういう経緯で出版に至ったのか、どのように編集したのか、この本はなぜ17万部のベストセラーになったのかについてお話を聞きました。ライターは中村昌弘さんです。


ブログがバズっても出版オファーは来ない

さとゆみ:戸塚さんの著書『1年で億り人になる』を読ませていただきました。今日はよろしくお願いしますと言う前に、私、すでに圧倒されまくっているのですが……。

戸塚真由子さん(以下、戸塚):えー? どうしてですか?

さとゆみ:先ほど、撮影用の服にお着替えしていただいたじゃないですか。あの服、45リットルのゴミ袋に入っていました……よね?

戸塚:あ、そうですねー。ふふ。

さとゆみ:ふふ、って(笑)。億り人は、服をゴミ袋に入れて持ち歩くんですね……。

戸塚:このワンピ、1000円なんですよー! アクセはSHEINです。

さとゆみ:そうなんですね! 米倉涼子さんみたいなめちゃくちゃクールな女性をイメージしていて「だから貧乏人はダメなのよ!」ってビシっと言われたりするのかなあと思ったのですが、ちょっと……いい意味で裏切られました。髪型も、個性的ですね。プロフィール写真とだいぶ雰囲気が違う。

戸塚:あ、そうなんです。昨日、自分で切っちゃったんですよね。

三宅隆史さん(以下、三宅):僕も、今日久しぶりにお会いして、前髪短かっ! って、びっくりしました(笑)。いろいろ、面白い方なんですよ。


さとゆみ:緊張していたのですけれど、一気にほどけております(笑)。では、改めまして、本題に。昨年のビジネス書売上ベスト10にもランクインしたこちらの『1年で億り人になる』が、どのようにできたかを聞かせてください。編集者の三宅さんから、「戸塚さんとは出版スクールで出会った」と聞きました。

戸塚:出版スクールの最終日に30人以上の編集者のみなさんに向かってプレゼンをしたのですけれど、そこで三宅さんが面白かったと声をかけてくださったのが始まりです。

さとゆみ:そもそも、どうして出版スクールに行こうと思われたのですか?

戸塚:実はスクールに入る前に、ブログをバズらせて出版のオファーをもらおうとしていた時期がありました。ブログが注目されれば出版社から連絡が来ると思ったんです。
だから4年前に『まゆこのエッチなブログ』を開設して、「SMクラブの会長とのプレイ」や「狙った獲物(男)は一発必中」など、ただただ私の日常を書くブログを続けていました。当時は億り人になる前だったので、お金のテーマではなく日記的な本を出したいと思っていたんです。

さとゆみ:まゆこのエッチなブログ!? ちょっといろいろ頭がバグるのですが、実際に出版のオファーはあったんですか?

戸塚:私のブログはアメブロの恋愛カテゴリーで1位になったこともあるのですが、結局いいオファーはありませんでした。あったとしても、半分自費出版のようなオファーだったり。さとゆみさんの『本を出したい』に「noteやブログをバズらせたとしても即出版できるとは限らない」みたいな話があったと思うのですが、その通りだなと。

さとゆみ:それで出版スクールに? 

戸塚:スクールに通い始めたときは、同じ「本を出したい」という気持ちでも、「私の日常を知ってほしい」ではなく、「私が億り人になれた理由をみんなに知ってほしい! そしてお金から自由になってほしい」という気持ちでした。

さとゆみ:そこで三宅さんにオファーをもらったんですね。三宅さんは戸塚さんのどんなところに惹かれたんですか?

三宅:言葉の節々に「敵をつくっても構わないから真実を言いたい」という覚悟が垣間見えたところです。著者さんもご自身の立場があるので、「所属する団体や関係者を敵に回すからここまでしか言えない」と、いろいろな方面へ配慮する人が多いです。でも戸塚さんにはそれが一切ない。

戸塚:何人かの編集者さんが「本を出したい」と言ってくださったのですが、私のほうはプレゼンをしているときから、三宅さん一択でロックオンしてたんですよ。

さとゆみ:それはどうしてですか?

戸塚:私が笑ってほしいところで笑ってくれるのが三宅さんだけだったからです。他の人がドン引きしているときに、三宅さんだけ爆笑してくれていて。この人なら、きっと私のことを分かってくれると思いました。

三宅さん:たしかにどぎつい言葉もあったんです。でも、その戸塚さんならではの言葉の面白さ、強さに惹かれたんですよね。

さとゆみ:どの見出しもエッジが効いてますよね。

三宅:そうなんです。この本に出てくる見出しでいうと「人捨離をしろ」とか「貧者の発想を捨てろ」とか。これでもだいぶ表現を和らげて、過激すぎる見出しは削除したのですが、それでもグッと惹かれるものがあります。

さとゆみ:戸塚さん的に「これは削除されたけど本に載せたかった」という見出しはありますか?

戸塚:たとえば「一夫多妻制を導入すべきだ」という見出しは削除になりましたが、私としては載せたかったです。実際に一夫多妻制を導入していたモロッコの人に仕組みを聞いたのですが、すごく合理的なんですよ。私はお金持ちになりたかったので、パートナーに複数の妻がいても平等にお金をくれればそれでいいです。だから日本でも一夫多妻制を取り入れてほしいと思って書きましたが、丸々削除されました。

さとゆみ:面白すぎる! 読みたいですが、編集者としてはたしかに慎重にならざるを得ないですね。

三宅:はい、さすがに波紋を呼びすぎるなと思って……。戸塚さんは、みんなが言いたくても言えなかったことをバシッと言ってくれるんです。「お金をコツコツ貯めるのではなく、お金を先に集めることが大事」とか、うすうす気づいているけど誰も口にしないことをバシバシ言ってくれる。
さとゆみさんの『本を出したい』に「著者は格言を作るといい」と書かれていましたが、まさに格言が次々出てくる。だからこの本は大きな反響を呼んだんだと思います。

50万字の下書き原稿。大量の文章から宝を探す

さとゆみ:「億り人になる方法」というテーマなら情報商材として出しても売れそうですが、あえて書籍にこだわった理由はありますか?

戸塚:情報商材も考えたんですけれど、私が出しても売れないと思いました。というのも、ブログを書いているときに、私が面白いと思うことと世間が面白いと思うことがズレていると気づいたんです。
「これは面白い」と思って書いたブログに全然いいねがつかなくて、逆に10分くらいで適当に書いたブログに驚くほど反響がある、なんてことがしょっちゅうあって。だからプロに見てもらった方がいいと感じ、編集者さんが伴走してくれる書籍を出したいと思いました。

さとゆみ:自分の認識と世間の認識にギャップがあったんですね。でも、それこそまさにTHE著者という感じ。著者になる方って、一般の人が常識だと思っていることをひっくり返すような驚きの持論を持っている人ですもんね。これまでの戸塚さんのふるまいを拝見したり言葉を聞いたりしても、まさに”ナチュラルボーン著者”という感じです。
ビジネス書の場合は、著者にインタビューをして代わりに文章を書く「書籍ライター」が入るケースも多いと思いますが、この本は戸塚さんが全部書いたんですよね?

三宅:はい、今回は戸塚さんの生々しい言葉を残したかったので、ライターさんではなくご自身にすべて書いてもらいました。50万文字ほど書いてもらい、最終的には10万文字まで削りました。

さとゆみ:え、嘘! 50万字? そこまで書いてもらって削るという話はあまり聞いたことがないかも。具体的にはどんなやりとりを?

三宅:戸塚さんに原稿を書いてもらって、私が面白いと思ったところを赤字でコメントしたり、Zoomでフィードバックしたり、という流れです。「この部分いいですね。もうちょっと詳しく聞かせてください」と言うと、それについて詳しく喋ってくれるんですよ。それがまた興味深い。「そのくだりはもっともっと深掘りしてください!」とお願いして、追記してもらったケースが結構ありました。

戸塚:私にとっては当たり前だからあまり詳しく書かなかったことも、三宅さんが驚いてくださるんです。

三宅:たとえば「ビジネスで稼げる人ほど、投資家には『不向き』である」という章などは、最初は一行くらいで書かれていたのですが、「どういうことですか?」と聞いたらその話が面白くて。

ネタバレになりますが、ここには「経営者などの、いわゆる稼ぐ力がある人は『まず働いて稼ごう』と思うので、投資家には不向き。また、彼らは投資においてキャピタルゲイン(≒売買益)で稼ごうとするが、本当の金持ちはインカムゲイン(≒保有益)で稼ぐ」という内容が書かれています。
インカムゲインが重要と書いてある本はありますが、「稼ぐ力がある人はキャピタルゲインの投資が得意。だから投資家には不向き」と書いてある本はあまりないと思います。だから興味を引く。こういう文章がたくさんあるんですよ。

さとゆみ:もともと三宅さんの頭の中に構成案があって、「この章はこんなことを書いてください」と戸塚さんにお願いしたんですか?

三宅:あらかじめ構成を組むと型にハマってしまうので、まずは自由に書いてもらって、後はこちらでまとめるという流れにしました。パズルを組み立てるような作業でしたね。戸塚さんの話は全部面白いので、とにかく頭の中を一度出し切ってもらいたかったんです。

さとゆみ:もらった原稿を組み替えて構成をつくったんですね。

三宅:今回はもう少し複雑でした。たとえば50本の原稿があったら、それを単純に並べ替えるのではありません。原稿Aのなかで別の話をしている段落と段落をつなぎ合わせたり、原稿Bと原稿Cから一文ずつ引っ張ってきて段落Dを作ったりしました。戸塚さんからもらった文章をひとつの箱にごちゃっと入れて、そこから光るものを集めてつなぎ合わせるイメージです。

三宅:そうしてできた原稿に対して、5つ星、4つ星、3つ星……と星をつけていき、基本的に3つ星以下の原稿は使わず、5つ星と4つ星の原稿に対して「このようにリライトしてください」と私がお願いをするという流れです。

三宅さんが戸塚さんに送った原稿の修正依頼

さとゆみ:ものすごく手間がかかっている!

三宅:たくさんあるパーツから宝を探す感覚に近かったです。膨大な文章からとにかく光るものを探しました。

さとゆみ:これは、サンマークさんのように、じっくり1冊の本に取り組める出版社さんならではの作り方という気がします。

三宅:たしかに。うちは他社さんに比べると冊数のノルマは少なめだと思います。1冊に時間をかけられたのは、その環境のおかげとも言えますね。

「FIRE」の棚で勝つために王道に見せた

さとゆみ:販促においては何を重視したのでしょう?

三宅:FIREの棚で勝つことです。さとゆみさんの『本を出したい』にも書いてある通り、出版するときには「本屋のどの棚に置かれるか?」という点は重要です。この本は世間が思っていることの逆を主張しているからこそ、「FIRE」の棚に並んだとき王道に見せる必要がありました。

たとえば、普通なら「コツコツお金を貯めて投資しよう」というところを、この本では「まずは借金してでも大きな元本をつくって、そのお金で投資をしよう」と主張しています。ともすると単なる逆張りの本として “色物” 扱いされるリスクがあったので、読者にそう思われないようにしなくては、と。戸塚さんはこの本に書かれている方法で億り人になっているので、実際に王道だと思いますし。

さとゆみ:『1年で億り人になる』というタイトルもまさに王道ですよね。いわゆる「巨匠タイトル」。

三宅:もっとテーマを絞って『現物投資で1億円』みたいなタイトルもあり得たと思うんですよ。「億り人」という大きなテーマを扱うのは、新人著者としてはハードルが高い。でも今回は王道に見せるために、さとゆみさんの言う巨匠タイトルをあえてつけました。ちなみに、企画会議では『私を通り過ぎた12人の億万長者』や『大富豪は現物がお好き』というタイトル案もありました。

さとゆみ:それはそれで読みたいかも(笑)。「本物のFIREを知りたくないか」という言葉は、先ほどから三宅さんが言っている「この本に書いてあることが王道である」と読者に思ってもらえる言葉だと感じます。金箔で囲っている表紙も面白いですよね。

戸塚:三宅さんがデザイナーさんに「パンチがあると同時に上品であってほしい」とオーダーしてくれたらしいです。

さとゆみ:この本には帯がありませんが、何か意図はあるのでしょうか?

三宅:金箔がずれるとかっこ悪いと思ったんです。帯をつけると、位置的に「億り人」を囲っている金箔部分と被ります。少しでもずれると金箔もずれるため、であればいっそのこと帯なしの方がいいかなと。

さとゆみ :帯部分のコピーを変えたいときはカバーごと変えるんですね。なるほど。ところで、初版部数を聞いてもいいですか?

三宅:初版は5000です。

さとゆみ:5000部から17万部に! 夢がありますね。

三宅:でも実は……あんまり大きな声では言えないのですが、そこまで積極的に販促できたわけではないんですよ。というのも、戸塚さんは「まゆこのエッチなブログ」を書いているじゃないですか。それを見た関係者さんがちょっと顔をしかめていると報告があり。

さとゆみ:あーーなるほど(笑)。

三宅:ただ、FIREの棚を取る戦略も功を奏して、初めから割と動きました。ただ、「お金の本」には新しもの好きのコアな読者がいるので、最初に数字が出ても2週間くらいですぐに数字が落ちることはわかっていました。

それで手応えを感じつつ次の一手を考えていたところ、楽天市場で金塊に見たてた箱ティッシュが売られてたんですよ。
昔、佐渡の金山を旅したときに、お土産屋さんで金塊ティッシュがズラっと並んでいた光景を思い出して、即ポチって書店に置いてもらいました。表紙の「億り人」の部分をキラキラ加工にしたので、本のイメージともぴったりでしたね。金塊ティッシュを本屋さんへ営業するのが難題だったのですが隣に座っていた同期入社の営業のSさんが「やりますよ!」と快諾してくれて。

三宅:紀伊國屋書店の新宿本店さんで仕掛けていただいたところ、売れ行きが急増したんです。その後、全国の営業さんから依頼が殺到して結果的に560箱を買いました。一時期は「ひたすら金塊を送る人」と化してましたね(笑)。

それぞれの願い。「考え抜いた本だけ出ればいい」「1億冊売る予定」

さとゆみ:本づくりも販促も、1冊にじっくり入魂できるサンマークさんだからこそできるこだわりですよね。まさに著者と一緒にとことん考え抜いた本。それもベストセラーになった一因だと感じました。

その話とつながるのですが、先日『本を出したい』を読んでくれたライターの友人が、「『本を出したい』というタイトルだけど、さとゆみさんは心の中で『生半可な気持ちで本を出さないでほしいって思ってるでしょ?」と言われたんですよ。あぁおっしゃる通り……と思って(笑)。

三宅:たしかに。この本の1章は「『名刺代わりに本を出したいと思っている人がいたら、今すぐ考えを改めてください』と出版スクールで言われた」という話から始まっていますよね。

さとゆみ:そうなんです。もちろん、結果として名刺代わりになるのは間違いないんです。でもそれはあくまで結果論であり、「自分の名刺代わりの本を出す」を目的に置くのは違うんじゃないかな、とずっと思っていました。

三宅:読者を置いてけぼりにしていますね。その点、戸塚さんが本を出したいと思った動機は、はっきりしていました。何にも忖度しない。タブーもない。ただただ「これを伝えたい」 というピュアな想いしかありませんでした。

戸塚:本にも書いたんですけど、私の家は非常に貧乏で、両親は「超」がつくドケチでした。家にある家具はほぼ粗大ゴミ置き場から拾ってきたもの。高校生までお小遣いは1ヶ月30円。そんな生活だったので、心の底からお金持ちになりたかったんです。でもその方法を教えてくれる人はいませんでした。そんなときに師匠と出会って、ようやくお金持ちになる方法が分かり、銀行残高が数百円の状態から億り人になれました。
億り人になってから改めて「なんでみんなお金持ちになる方法を教えないんだろう」って思ったんです。だから、昔の私のように本気でお金持ちになりたいと思っている人に向けて、その方法を書こうと決めました。ただただ純粋に真実を伝えたいだけなので、周りから自分がどう思われるかは気にしません。

さとゆみ:だから、歯に衣きせない表現ができているわけですよね。

三宅:『本を出したい』の中に「本を出したいと言う人は多いけど、実際に企画書を送ってくる人はほとんどいない」と書いてあったじゃないですか。分かるな〜と思いながら読んでいました。私の元にも「本を出したい」と言う人はたくさん来ますが、「サンプル原稿を書いてください」と言うと9割の人は書いてこないんですよ。本を出すことを目的にしたゼミの参加者さんですらそんな感じです。

戸塚さんみたいに、本気で何かを伝えたいと思っている人は少ないのかもしれませんね。その本気度が高い人だけが、さとゆみさんの言う「とことん考え抜いた本」をつくれるのかなと思います。

さとゆみ:そういう意味でも『1年で億り人になる』が売れているのは私も嬉しいです。戸塚さん自身はここまで本が売れると思っていましたか?

戸塚:はい、思っていました。

さとゆみ:即答!

戸塚:世界的名著の『金持ち父さん 貧乏父さん』が今4000万部くらい売れているのですが、私はそれを超えて1億冊売る予定です。

さとゆみ:目標ではなく「予定」なんですね。じゃあ今はまだ通過点だと。

戸塚:そうです。この本は今まで誰も言わなかったことを書いたので、理解されるまでには時間がかかると思うんですよ。でも2〜3年経ったら「これはすごいことを言っていたぞ」と、世間がやっと追いついてくれると思います。世界の頂点に立ってギネスブックに載るつもりです。

さとゆみ:嬉しそう。嬉しそうだよ、この方は(笑)。

三宅:私も戸塚さんの考えを布教する一員として、これからもどんどん広めていきます。1億冊は目指すものの、直近の目標としてはまず20万部突破したいです。(了)

撮影/深山徳幸
文/中村昌弘

【書籍はこちら】

【本を出したい出版記念イベント】
5月14日 19:30〜 梅田ラテラル(動画配信&アーカイブあり)
「こんな時代に『本』を出すということ」
出演
・佐藤友美(さとゆみ、『本を出したい』著者)
・山本隆博(シャープさん、『シャープさんのSNS時評。スマホ片手に、しんどい夜に』著者)

サンマークwebの編集長・武政さんと、文章についてお話させていただきました。こちらもぜひ併せてどうぞ。


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