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人生モラトリアム『奏』②望暁月を目に

今朝も鳥たちの歌声で目が覚めた。
いつか鳥になれたらいいのにな。
そしたらこの大空を飛ぶことだって出来るし
今、君たちが何を話し、歌っているのかもわかるから。
いつかぼくも君たちと奏でてみたい。

ふとベランダに出てみると、そこには沈む間際の満月があった。
ぼくはそれを勝手に『望暁月(ぼうぎょうげつ)』と名付けることにした。
満月のことを望というらしい。
暁月とは、暁の空に見える月、明け方の月ということらしい。
寒がりなぼくにとっては、まだまだ明け方は肌寒い。
お気に入りのはちみつレモン紅茶を飲みながら、今日もまた新しい一日が始まる。
静かで、穏やかで、幸せに包まれた朝だ。


2017年1月
人生で初めて心療内科(正確にはメンタルクリニック)を受診し『うつ病』と診断された。
その時のぼくは圧倒的な絶望感の中にも、一掴みの光のようなモノを感じ取っていた。
せっかく正社員として入社出来たけれども、試用期間満了を待たずして退職させていただいたのだった。
あっという間に無職になってしまった。
これからどうすれば良いのか…
途方に暮れている時間はなかった。
頭も働かず、心はボロボロで、体もうまく動かせず、毎日毎日ベットの上で
涙を流しながら天井を見つめる日々がいくらか続いた。
毎日当たり前のように聴いていた大好きなfriiSideさんの楽曲も
同い年であることもあって勝手に親近感と自分に似たような感じのする
南條愛乃さんの美しい歌声を聴くことも…
テレビを観たり、ラジオを聴くことも…
毎日楽しく観ていた京都アニメーションさんの作品たちも…
大好きな読書も、お散歩も、Jリーグ観戦も、ポケモンGO!も…
今まで大好きだったこと、楽しかったこと以外にも
ごはんを食べることも、お風呂に入ることも、夜寝ることも、外に出かけることも…何もかも出来なくなってしまった。
そんな日々が続く中、ようやく自分は『うつ病なんだ』と理解することが出来た。まさに『絶望の底』にいるようだった。

うつ病で絶望の底にいる中、追い打ちをかけるように『無職の恐怖』が襲ってきた。
今冷静に振り返れば、失業手当等を申請する手段もあったはずなのだが
その時のぼくには考えられなかった。
うつ病は心の病気ではない。脳の病気なんだ。今はそう理解している。
うつ病で苦しい中とったぼくの行動は、就職活動だった。
もともと何度も転職を続けていたので、転職サイト等で情報収集やつながりはギリギリ持ち合わせていたのだった。
うつ病になって無職になってしまったことを両親に話すことなど、絶対したくない。一生墓場まで持っていく覚悟だけはあった。
そんな中、いち早く生活費を稼ぐため、登録制の単発バイトを始めることにした。
その単発バイトは登録制で、色々と仕事の案件があり、エントリーしても
当日朝5時にならないと採用の確認が出来ないシステムであった。
エントリーして、翌朝5時前にこちらから電話をかけて確認する。
『…申し訳ないのですが、今日はお仕事はありません』
そんな空虚な日々がいくらか続くのであった。

そしてある時、やっと一つ案件が決まったのだった。
某スポーツメーカーのシューズの販売の応援スタッフの仕事だった。
いわゆる優待割引セールのような感じだった。
高校を卒業し専門学校へ進学、その後某アパレルメーカーに就職し約8年間
働いた経験もあるため、今回の仕事に関しては『やれば出来る』と心の
どこかで思っていた。
ただ、不安も大きかった。
某アパレルメーカーに就職し、その後某酒類メーカーへ転職、そこでは5年間の契約期間を全うした。その後間髪入れずに某IT会社に転職した。
その後紆余曲折あり病に倒れ、初めて2か月近く
『働けない状態≒働かなくて済む状態』を経験した。
これ程長く仕事から離れたことはなかったのだ。
2か月のブランクは自分にとってかなり大きな不安の一つであった。
そんな思いとは裏腹に、無事何事もなく仕事を終えることが出来た。
今までに感じたことのない達成感と安堵の気持ちを感じることが出来た。
この仕事で学んだこと…
それは、靴のサイズは男女ともたくさんあり、必ず左右2つセットであるという、ごくごく当たり前のことだった。
商品整理がものすごく大変だった。お客さんほとんどみんな試着した後
適当に戻しちゃうんだもんな…(笑)

そしてまたある時、もう一つ案件が決まった。
某アイドルグループの握手会イベントでのスタッフの応援…
いわゆる『はがし』だ。
始発で横浜にある大きな某会場に向かった。
そこにはたくさんのスタッフ、演者、そしてお客さんがいた。
初めて見る光景だった。
その仕事は朝7時から夜22時までの長丁場だったのだが
ありがたいことに昼食と夕食のサポートもあった。
はじめの頃はフロアリーダーの指示のもと、見様見真似で仕事をこなした。
数時間も経つと、だんだんと周りを見る余裕が出てきたのだ。
アイドルは大変な仕事なのだなと痛感した。
人気のあるメンバー、人気のないメンバー、握手待ちの列を見ればその格差は一目瞭然だった。
ぼくが担当したメンバーさんは特別人気があるわけでも、人気がないわけでもなく、そこそこといった感じだった。
(ちなみにぼくの担当のすぐ横は、一二を争う長蛇の列だった。
後にあの子が…まさかあの某アイドルグループのセンターになるなんて…)
ファンの人たちも本当にいろんな人がいた。
常連さんなのかすごくフレンドリーに話している人
認識してもらいたいのか一方的に自分のことばかり話している人
近況などを事細かに伝えている人
ただただ会えただけで嬉しくて涙している人…
本当に様々な人々を見ることが出来た。
『気持ちを伝えることって難しいんだな』
『伝える形って本当に色々あるんだな』
『時間には限りがあるんだな』
かくいうぼくも、実はある期間、某アイドルに夢中になり、握手会のイベントなども参加したことがあったのだ。
どこか遠く昔の…別の誰かの他人事のような感じがした。

そんな中、やっと2社ほどから書類選考通過の連絡をいただいたのだった。


続。





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