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PI制の国で、PIじゃないけど、アカデミアテニュアになりました。

3月1日付で、私の契約から任期がなくなり、パーマネント雇用になりました。
X(Twitter)で公表したところ、ありがたいことに反響がありましたので、補足も兼ねて、こちらにもいろいろと書こうかと。

(ちなみに、2022年からの5年契約だったポジションが、ボスの働きかけでパーマネントになっただけで、職位や職務内容が変わったわけではないです。)

まずテニュアではありますが、大学からの雇用ではなく、あくまでボスの外部資金からの雇用です。今のところ、ボスが順調に研究費を獲得しているので、その傘の下にいる限り、大丈夫かと。

今後、ボスが研究費を取れなかった場合。
この場合は、部署からのお金で雇用を継続するという話にはなっています(口約束?)。

折しも、「部署の財政がよろしくないです」とのメールが回ってきた(弊学あるある。外部資金をいっぱい獲得しているはずなのに、なぜか財政がよくない。)ので、ボスには引き続き頑張っていただきたい(笑)

職名:Akademisk medarbejder (A-TAP)

英訳すると”Academic employee”「アカデミックな職員」
「いや、まぁ研究者はみんなそうでしょうよ」と思ったあなた、そのとおり(笑)同僚に職員証を見せても「???」となる職名です。
所属先の理学部生物学科にはまだ2人しかいません。

部署のメンバー紹介ポスターでは、ポスドクの括りに、
部署内メーリングリストではテクニシャン(=TAP)の括りに、
ラボウェブページではStaff Scientistという肩書になっています(笑)
ちなみに前部署(工学部)では同ポジションのことをSpecial consultantと呼んでいました。

そして、大学や税金関係のオフィシャルな書類上は、「博士号を持った大学事務職員」というポジションです。
ポスドクと違って、テニュアを許す(後述)代わりに、PIのようにプロジェクトを主導したり、チームを率いることは許されていません(←一応)。

職員証

システムの抜け穴的ポジション

PI制を採用しているデンマークの大学では、テニュアなのは、PIとテクニシャンと事務職員だけです(細かい点はさておき)。

そして、デンマークではポスドクでいられる期間に制限があります。
たしか、ひとつの大学で連続2年まで(ただし、単一契約なら2年超も可能のはず)、国内で4年まで。

一方で、日本と違い、テクニシャンになるには専門の学校を卒業する必要があります(テクニシャンの質と職を守るため)。したがって、ポスドクが職をつなぐためにテクニシャンで在籍するというのは、困難です。

さて、多くの国で同様でしょうが、博士課程を経たからといって、あるいはポスドクをしたからといって、全員がアカデミアでPIになれるわけではありません。
プロスポーツプレーヤーが全員監督になれるわけではないのと同様。

では、ポスドク後にPIになれなかった研究者はどうするのか?
民間企業や官公庁に就職する、起業する、といった選択をすることになります。(デンマークは博士取得後・ポスドク経験後の就職の幅が、日本に比べて広い気がするけれど、それはまた別の話。)

博士号持ちがアカデミア外に出ていくというのは、
博士取得後のキャリアパス多様化と、社会のdecision makerに博士持ちを増やすという点では、ぜひ活発化して欲しい道なのですが、
一方でアカデミアに取っては必ずしも良いことではない気がします。

というのも、大学の研究室が、研究経験あるPIと、経験の浅いポスドクと学生とテクニシャンだけになっちゃいますからね。
特に近年のように、PIが予算申請や論文書きに忙しくて、実験の現場であるラボにいる時間が無くなると、入れ替わりの激しい学生とポスドクがラボを運用しなくてはならなくなります。

すると、

  1.  ラボの「治安」の悪化

  2.  「伝言ゲーム」による技術の劣化(「学生が学生に教える」など)

  3.  技術が、構成員の出入りに伴うので定着しない

などなどの問題が出てきます。

そこで最近、弊大学で徐々に増えているのが私のポジションAkademisk medarbejder。
前述の通り、肩書を「博士持ち事務職員」とすることで、PIではない研究に従事するパーマネント雇用職というパターンです。

実際のおしごと

これは所属やボスの意向によって差があるので、あくまで私個人のおしごとに関して。

1.科学的・技術的トラブルシューティング/現場監督

うちでは、ボスが各メンバーの研究方針を(メンバーとの合意のうえで)決定します。
一方で、詳細な実験の進め方、機器の扱い方、などなど、PIが各人に教授するのが難しい場合、私に依頼が降ってきます。

反対に、実験や機器のトラブルに関して、ポスドク・学生が「テクニシャンでは解決できない」「ボスに持ち込むほどの話ではない」「ボスが捕まらない」「サトシが一番詳しい」「サトシ、暇そう」等と判断すると、私を呼びに来ます。

↑論文だとAcknowledgementsに名前が載るくらいの貢献。内容によっては共著者にも?(下記3.も参照)

2.ラボアーカイブ

ポスドク・学生はいずれ出ていきます。
特にポスドクは、それまでうちに無かった技術・知識を有していることが多いので、それらを途絶えさせないよう、私が彼らから学ぶこともタスクに含まれています。

関連して、これまで研究室に蓄えられてきた実験手法やデータに関して、再現性が得られるかを試験することも。

3.中ボス

オフィシャルには、チームを率いることはできないのですが、現実には「私についている」学生が何人かいます。
研究テーマは、ボス、学生、私の三者で決定し、以降は学生と私とのやりとりで実験デザインを立て、研究を進めていきます。この場合、私が手を動かすことはほとんどありません。

↑論文だと共著者、あわよくばボスとのダブルコレスポくらいの貢献。

4.小ボス、あるいはプレーヤー

ボスと私とは持っている知識・技術が違うので、ポスドクや学生のプロジェクトの中に私が組み込まれることがあります。
この場合は、ミーテイングに出席をして研究方針への進言をしたり、実際に手を動かすことにもなります(←3.との違い)。

↑共著者。内容によってはダブルコレスポも?

5.自分の研究

これもオフィシャルにどこまで許されているのか難しいのですが、うちのボスは「サトシも自分のプロジェクトをひとつは持っておいた方がいい」というスタンスなので、上記のおしごとに加えて、自分主導の研究をいくつか走らせています。

↑筆頭著者。ダブルコレスポも。

6.雑用

毎週のグループミーティングの発表者スケジュールの管理。
ボス不在時に、ボス部屋にその旨を掲示する(←パシリ)。
実験ノートが心許ない学生のノートチェック(笑)(ただし、笑い事ではない)。
ラボ共有フォルダへのデータのアップロード督促(笑)(ただし、笑い事ではない)。
サンプリングへの同行(力仕事担当)。
他グループからの問い合わせ窓口。
などなど。


「サトシは、ラボ内における私のクローンだと思いなさい」

これは、ボスがメンバーに私の役割を説明する際に使ったフレーズです。
「研究に関して質問や議論をするのはいいけど、あなたの代わりに実験をするテクニシャンではない」と。

PI制は、グループが大きくなるにつれ、PIの負担も大きくなるという難点があります。研究、外部資金獲得、ポスドクや学生の教育と管理などなど。
それに対するひとつの答えが私のポジションなのかなと。

以前、父に本ポジションの説明をしたときに「技官みたいなものか?」と言われたのですが、
今は、助教と助手の中間的なポジションなのではないかと思っています。
PI主導の研究・教育が円滑に行われることを補佐するのを主たる業務としつつ、ひとりの研究者としても研究・教育を行うという。

・・・テニュア × 助手的ポジション = 「万年助手」!?

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